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幻影廻廊  作者: 秋月
第1部
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第7話 同級生

 目を覚ましたゆきの瞳に飛び込んできたのは、見慣れない天井だった。

 しかし、吉良きらの家だとすぐ理解した。

 二回目だ。

 腕には見覚えがない包帯が巻かれている。けがの手当てをしてもらったのだとわかる。

 ゆっくりと身を起こしたゆきの視界に、部屋の隅で控える跋逖ばってきの姿が見えた。

「跋逖? なんでそんな隅にいるの?」

 ゆきが目覚めてホッとすると同時に、跋逖は顔を歪ませる。

―――……ここ数日、ゆきを守れず、不甲斐ない自分を反省している。

「………」

 思いがけない言葉に、ゆきは目を丸くした。

「はは、そんなことで」

 笑うゆきに、跋逖は複雑に、怒る。

―――そんなことではない。あるじを守れないのは、死活問題だ。

 確かに、血の契約を交わした人間が妖に起因した死を迎えた時、同様に契約を交わした妖も消滅する。跋逖の言う、死活問題とはこのことだ。

 しかし、跋逖の想いにはその死活問題以上に、温かい感情が含まれている。

 ゆきを護る役目を朔夜さくやに奪われ、不満のようだ。

「……私はてっきり、景康かげやすさんが戻ったから、私のことなんか相手してくれないんだと思った」

 微笑むゆきに、跋逖は心外だと、嫌そうな顔をした。

―――今の主はゆきだ。ぬし様は関係ない。

「でも、跋逖にとって、景康さんが大切な人であったことはよくわかった」

―――……そうか。

「うん。景康さんが、これから私を助けてくれるって言ってる。だから、私も強くなりたいと思う」

 力強く言うゆきは、どこか吹っ切れたようにも見える。

―――……吉良きらの者は頼りになる。ぬえさまもその力を認めている故、ゆきの見守りに吉良の者を指名したのだろう。あの当主の言う通り、これからも吉良の者と行動を共にしたらいい。

「……うん。そうだね」

―――もともと、祓い人は二人組が通常。一人増えても異存はないだろう……

「二人?」

 跋逖が何かに気が付いて、話すのをやめたのを見て、ゆきは部屋の入り口を見た。

「あ、紫苑しおん

 紫苑が部屋の様子を伺っているのを見つけて、ゆきは紫苑を呼んだ。

 甘えてくる紫苑をゆきは嬉しそうに撫でる。

―――……ここの主が様子をうかがいによこしたのだろう。

「主……? あ、あの黒い着物の」

―――吉良の現当主。彼、吉良 朔夜の母親だろう。

「お母さん、か……」

 と、ゆきは布団から抜け出し、立ち上がる。

「吉良くんがいるところに連れて行ってくれる?」

 横に立つ紫苑の首元をわしわしして、ゆきは歩き出した。



 紫苑に案内されて、ゆきは大きな広間に出た。

 そこには、あの女の人と、朔夜が座っている。

「ああ、ゆきさん、今回の件、ご苦労様でした」

 ゆきが朔夜の隣に座ったのを見て、黒い着物の女性、朔夜の母がゆきを見て微笑んだ。

「いえ、私は吉良くんに助けてもらっただけで……」

「それが、朔夜の役目ですので。いままで解決に至らなかったひとつの問題が終わりました。これも、あなたの力です。今日は、こちらから登校してくださいね。荷物は跋逖に持ってきてもらっています」

 にっこりと微笑んだ顔を見て、ゆきは小さく声をあげた。

「今、朝……? え? 月曜日?」

 朔夜を見上げたゆきに、制服姿の朔夜はうなづいた。

 どうやらゆきは、丸一日眠っていたようだった。



 * * * * * * * *



「朔夜、おっはよー」


 朔夜とゆきが並んで登校していると。

 後ろから、朔夜めがけて抱きついてきた男子生徒がいた。

 同じ制服を着たロン毛で茶髪の彼は、隣のゆきの姿を確認すると、白い歯をのぞかせて、にっと笑った。

「夏目ちゃん、おはよ」

「おはよ、天馬てんまくん。……てんま?」

 自分の顔を見てフリーズしたゆきに、彼は嬉しそうに笑う。

「ようこそ~、こちらの世界へ」

「……てんまくんって、え、あの天馬?」

 驚くゆきに、天馬はニコニコしている。

「天馬 和樹かずき。祓い屋一門、天馬第三分家の長男でーす」

「……同じクラスに二人も。天馬くんも知ってたんだ」

「まぁね。朔夜は夏目ちゃんと接点持つの禁じられてたけど、俺は別に何も言われてなかったから、お近づきになってても良かったんだけどね~」

 ちらっと天馬は朔夜を見たが、すぐにゆきに視線を戻し、にかっと歯を見せて笑う。

「ゆきちゃんと跋逖ばってきはこっちの世界では有名人」

「………」

 はは、と、笑いが引き攣るゆき。

「お前、いい加減離れろよ。重いぞ」

 朔夜は天馬を自分の首から引っぺがした。

ぬえ様からお許しが出たんだな」

 朔夜から離れつつ、天馬は嬉しそうに朔夜の背中を叩いている。

「………」

 朔夜は迷惑そうだ。

「なー、お前夏目ちゃんにごっ」


 ゴツン! 


 と、大きな音がして、天馬の上に鞄が振り落とされていた。

 驚く朔夜とゆきの前に現れたのは、

「相変わらず、無神経なヤツ!」

 鞄の持ち主で、仁王立ちしている同じ制服を着た女子だった。

「でも、これでやっと、お話しできるね、夏目さん」

 くるっとゆきを見た彼女に、ゆきも微笑んだ。

 もう、これで三人目だ。

「……高野たかのさん、おはよう」

 ふわふわした茶色がかった髪を揺らすその顔に、さすがにゆきももう慣れてきた。

「同じクラスの、高野 のぞみです。う~、私は知ってたけど、夏目さんは知らないから、も~、ずうっと話したくてむずむずしてたの~~~」

 ゆきの両手を握りしめて、のぞみはぶるっと身震いした。

「高野さんも、祓い人(はらいびと)なの?」

「ん? 私? 違うよ」

 ゆきの質問に、のぞみはあっさりと否定した。

「ただ、鴻野こうの家の遠縁の家系でね。ヒズミと妖は見えるし、この世界のことは理解してるよ」

「そー、のぞみは俺の許嫁」

「なっ!」

 ぶたれた頭を抑えたまま、天馬が横やりを入れた言葉に、のぞみの顔が真っ赤になった。

「私はまだ認めてないわよ」

「そんなこと言って、ずっと俺にくっついてきてんじゃん。早く嫁になっちゃえば、()()()()()なんて名前じゃなくなるのによー」

 口を尖らせる天馬に、耳まで赤くなったのぞみはムキになって言い返した。

()()()()()()です!」

 二人で言い合う姿を見て。

 そうなの?

 と、ゆきは朔夜を見た。

 朔夜はあきれたようにただうなずく。

「それに!」

 声を上げるのぞみが、朔夜を指さし、叫んだ。

「朔夜くんが夏目さんにつきっきりだったから、仕方なく天馬に力貸してただけじゃない!」

「………」

 とばっちりを受けた朔夜は、困ったよう目を閉じた。

「お前らなぁ……」

 ヒートアップしてきた二人に、朔夜は冷たい視線を送る。

「朔夜ものぞみも、素直になったらいいんだよ」

 と、天馬はのぞみから隠れるように朔夜の後ろにまわる。

「俺を巻き込むなよ」

 あきれる朔夜に。

「だってお前」

 と言いかけた天馬の頭上に、再びのぞみの鞄が落ちる。

 朔夜を巻き込んで天馬とのぞみの言い合いを、ゆきは見守るしかできなかった。

 その時。


 ―――ゆき、いいか。


 スッと跋逖がゆきの横に現れた。

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