聖女を虐める私は、【悪役】令嬢。
悪役令嬢である、私ことアリア・シモーム公爵令嬢は異世界から召喚された聖女を虐めたとして、婚約者のクリス王子から断罪されようとしている。
おかげさまで七万PV突破することが出来ました。
ありがとうございます。
「アリア・シモーム!お前との婚約を破棄する!」
パーティ開始直後、私の婚約者である王子、クリス様がそう叫んだ。
「お前は公爵令嬢という地位を利用し、聖女としてこの世界に呼ばれた琴美様に対して犯罪紛いの嫌がらせを行った!その行為、王子として、そして何より聖女機関の機関長として許す事は出来ない!!よって私は、お前との婚約を破棄する!!!」
聖女とは、百年に一度神の力を借りて王宮で行われる、聖女召喚の儀式で呼ばれる少女の事である。
私達の世界では、瘴気が少しずつ大地から漏れ出している。
この瘴気は多少は平気だが、多すぎると猛毒になり、生き物を全て殺してしまうのだ。
それを吸収する役目を持つのが聖女だ。
瘴気を吸収する、と言うとまるで人柱のように聞こえるが、そんな事は全くない。
聖女はただこの世界でのんびり暮らすだけでいいのだ。
起こる異常は左手の甲に結晶が出来るだけで、それもある程度大きくなるとポロリと落ちるため、別に生活の邪魔になるわけでもない。
さらに、聖女は(当たり前だが)生活が保障されているし、住居は聖女用の家(もちろん専属メイド付き)があり、多少の贅沢は出来るし、護衛付きだが城下町に出る事も出来る。
ここまでくると聖女が増長しそうだが、もともと増長しにくい性格の人間を神が選んでくるため、そういった事は今まで一度もないそうだ。
さらに、聖女降臨から五年が経てば、今まで溜まっていた瘴気は全て無くなるため、聖女は元の世界に帰る事が出来る、というか、神の手によって無理やり帰らされる。
ちなみに、この期間聖女は年を取らないし、元の世界に帰った際には時間の経過がしていない(召喚された直後の時間に戻れる)らしい。
とはいえ、記憶が失われるわけではないし、この世界を救った特典として、神から【気づかない程度の小さな幸運】が一生与えられるらしい。(聖女本人には伝えられないが)
まぁ、何はともあれ、聖女とはこの世界になくてはならない人物なのだ。
ちなみに、クリス様の言う聖女機関とは、聖女の世話や護衛等、聖女に関する事を行う人が入る組織である。
また、聖女は五年で帰らなければいけないため、恋に落ちないように護衛など男性が行う作業は日替わりが基本となっている。
記録によると、かつて護衛騎士に恋した聖女がいたらしく、帰還の際には帰りたくない、と号泣して周囲を困らせた事があったそうだ。
今代の聖女が来て、既に四年以上が経過している。
溜まって来た瘴気はほとんど無くなってきており、そろそろお別れ会の打ち合わせも始まった頃である。
そして私は今、私の婚約者であるクリス様に婚約破棄を突き付けられているのだ。
「あの……クリス様。私には、何のことだかさっぱりわかりませんが」
「ふん、とぼけるか!しらじらしい真似を!!証人もいるのだぞ!!!」
そう言うと、クリス様の後ろにいた複数人の男女が、前に出てきた。
「私が見たのは、聖女様が見ていた教科書をこの女が取り上げ、地面に落とした後、教科書を踏みつけた所です」
「私は見ました!この女が聖女様を階段から突き落としたのを!!」
「僕が見たのは、この女が聖女様を人がいないところに連れ出し、魔法で傷つけていた所です。私は恐ろしくて、声を出すことも出来ませんでした」
こういった声が、次々と上がっていく。
一通り全員が喋ると、クリス様は全員を下がらせ、私を睨みつけた。
「どうだ!これでもまだ白を切るか!!!」
私はこのような事を言ってくるクリス様に怒った。
だから私は、クリス様にこう言い放った。
「はぁ?!その異世界から来た糞女が悪いんでしょ!!私のクリス様の時間を奪うから!!」
私は怒り狂い、叫んだ。
「だいたいねぇ、異世界から来た女なんて存在からして気持ち悪いのよ!はっきり言って虫けらの方がまだましだわ!そんな糞女に私のクリス様の時間を取らせるなんて、吐き気がする!むしろこの程度で感謝してほしいわねぇ。本当だったら誘拐して生き地獄を合わせた後殺して、死体は豚の餌にしてやりたかったんだから」
これを聞いた聖女琴美は震えあがり、恐怖で涙を流し、腰が抜けたのか地面にへたり込んだ。
私はこれを見て大笑いで続けた。
周囲から怒号が聞こえるが、知った事ではない。
「あはははは!ざまぁないわね。あなたのようなゴミ以下の存在がそもそもいるのがおかしいのよ!!五年と待たずにとっとと消えなさい!それとも私が消してやろうかしら?」
「もういい!もう喋らせるな!!」
クリス様が怒り、私は兵士に押さえつけられ、猿轡をかまされた。
「貴様の今の発言、聖女様殺害の意思有りと判断するに十分。神に選ばれた聖女様に対する殺害はその意思を示すだけでも死罪だ。刑が行われるまで、貴様は牢獄送りとする!!」
こうして私は、牢屋に入れられた。
それからしばらくして盛大なお別れ会が行われ、その後聖女琴美は自分の世界へ帰っていったそうだ。
私はその話を、牢屋の中で聞いた。
その翌日……
「ふぅ、やっと出られた」
牢屋から出た私は、外の空気を吸いながら、大きく伸びをした。
「お疲れ様。名演技だったよ、アリア」
そういって、クリス様が抱き着いてきた。
「あっ……いきなり恥ずかしいですわ、クリス様」
「そう言わないでくれ。アリアが牢屋に入ってから、一度も会っていないのだから」
そういわれては私も断れない。
私もクリス様を抱きしめた。
そうやってしばらく抱き合った後、一旦クリス様と別れた。
その後、私はお風呂に入り、着替えた後、会議室の一つへ向かった。
そこには既に聖女機関のメンバーの内、悪役令嬢課のメンバーが待機していた。
悪役令嬢課のメンバーではないが、聖女機関の機関長でもあるクリス様もいる。
もちろん私も聖女機関・イベント部・悪役令嬢課の一員だ。
「アリア様、お疲れ様です。おかげで上手く行きました」
「そうですか。悪役令嬢が上手く出来ていたのなら、よかったです。……そうそう、私が捕まった後のフォローは上手く行きましたでしょうか?演技とはいえあのように罵ってしまい、悪い事をしました。心に傷がついていなければよかったのですが……」
「ご安心ください。その為の悪役令嬢課です。フォローは我らの仕事です。翌日には既に元気な姿を見せておられましたよ」
「よかった。それだけが気がかりでしたので」
そう、これは【悪役令嬢ストーリー】という演目だ。
聖女様を虐めた悪役令嬢が罰せられる、というストーリーだ。
もちろんこれが演目、つまり劇なのは聖女様には秘密である。
ちなみに、悪役令嬢課は聖女様には知らされない課である。(もっとも、聖女様以外には知られている課だが)
この演目は、聖女様がこの世界にいらしてから約三年半たった頃から始まる。
聖女様も最初の数年はこの世界に怯えているが、何年もすると落ち着いてくる。
そうすると、この世界に対する不満が出てくる聖女様や、その逆に永住したくなる聖女様が現れる。
そういった際に対し行わる演目が、この【悪役令嬢ストーリー】だ。
不満がある聖女様に対しては悪役令嬢と言う敵を作り、苛立ちを世界ではなく悪役令嬢にぶつけさせる。
永住したくなっている聖女様には、悪役令嬢のような考えを持つ人間がいる事を知らせ、望郷の念を強くさせる。
だから、聖女様の帰還が近づいた頃にクライマックスの断罪劇は行われるのだ。
【悪役令嬢ストーリー】の起源は、ずっと前に当時の聖女様を虐めて断罪された貴族令嬢がいたらしく、その時の聖女様が自分を虐めた貴族令嬢の事を「まるで乙女ゲームの悪役令嬢ね」と言ったらしい。
それに興味を持った当時の聖女機関の人間が聖女様から悪役令嬢ストーリーを聞いたそうだ。
さらにその話をきっかけに【悪役令嬢ストーリー】という演目は考えられた、と伝えられている。
ちなみに、悪役令嬢に選ばれるのは基本的に私のような【王太子ではない王族の婚約者の公爵令嬢】が選ばれる。
ちなみにクリス様は第三王子である。
理想の悪役令嬢は、当時の聖女様の話によると【王太子の婚約者の公爵令嬢】らしいが、未来の王妃であらせられる王太子の婚約者が悪役令嬢をやると、牢屋に入っている期間は仕事が出来なくなるから王太子の婚約者は悪役令嬢に選ばれない。
もちろん公爵令嬢がいなかったり、王太子以外に王子がいない事もあるので、そういう時は身分の高い女性が選ばれる。
だから悪役令嬢は名誉ある役目なのだ。
「さてと、では次回の聖女召喚へ向けての引継書を作りましょう」
そう言って、私は仲間達と共に引継書を作り始めた。
仲間達も「我ら今代の悪役令嬢課、最後の仕事ですからね」「次代の悪役令嬢課も上手くやってくれるといいですね」と話しながら、引継書を作っている。
私は引継書を作りながら、心の中で願った。
演技とはいえ侮辱してしまった、聖女琴美様と彼女の世界の幸福を。
お楽しみいただけましたでしょうか?
悪役令嬢→悪役→役って演じるって意味だよな……
と思って書きました。
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前書きでも書きましたが、【七万PV】突破する事が出来ました。
ずっと三万あたりにいて、2025年ころには四万行くかな、と思っていたら
まさかの七万を突破すると言うバズリ。
読んでいただいた皆様のおかげです。
ここまで多くの方々に読んでいただけて、
本当に感謝・感動しております。
本当に、本当にありがとうございます。