暴食 2
勇者と魔王とは何か。それは世界に一人のみが手に入れられる「勇者」「魔王」のスキルを持った者。
魔王は邪神の加護により圧倒的な力を手に入れ大抵の魔王が好き勝手に暴れる。
勇者は好きかて暴れる魔王がいるときに創造神に選ばれた者が手にする。
今代の魔王は好き勝手してないはずなのに勇者が召喚されたと聞いて内心かなり驚いていた。
神が定めたルールを破って勇者を召喚したのか?神のルールはそんな簡単に破れるものではない。
いったい今何が起きている?ルールを破らないといけない何かが起きているのか?
今代の魔王が送り付けた密偵が言うには勇者の石板には既に「勇者」のスキルが封じられてないらしい。
勇者の石板は勇者のいない時代に「勇者」のスキルを封じておく神器の一つだ。
元々この世界は邪神と創造神の仲は悪くない。そんな2柱が協力して作り上げた石板は人の手では何をしようが解けるはずがないだろう。
この世界は神が定めたルールによって動いてる。
魔王は邪神の力の3割を手に入れ世界に存在を示す。魔王本人は何をするのも自由である。
勇者は悪しき魔王が生まれたときにスキルを与えられる。スキルを手にしたということは悪しき魔王だということが確定する。
だが今代の魔王は悪しき魔王に含まれるはずがない。
悪しき魔王に認定されるには人間の殺戮盗賊を除く人間の殺戮100人以上。
もしくは神への宣戦。
そのどちらかを満たさなければ悪しき魔王には原則認定されない。
神の2柱の判断で稀に条件を満たしてなくとも悪しき魔王に認定されることはあるがその場合は明確な理由がある。
一体何が今起きているのか。自分の配下を今人間の国に送っているが人間の国を見に行ったところで大した情報は得られないだろう。
配下が帰ってくるまでは何もすることができない。「暴食」のスキルによって生じている空腹を満たすために怠惰の城へと遊びに行くとするか。
怠惰の城まで歩いていくと怠惰の部下と遭遇する。
怠惰の部下は誰もが不思議な雰囲気を纏っている。魔王のような勇者のような神のような。
理由は分からぬが一人一人が精鋭であり怠惰の部下には上下関係が存在しない。誰もがほとんど平等な実力を持っているのだ。
怠惰の部下と前に戦ったことがある。完敗した。
「暴食」スキルを使ってもなお勝てなかったのだ。
「暴食」は主に全てを食らいつくす能力である。
相手の自由、スキル、体力、魔力。
それなのにいくら食らいつくそうとしても逆に怠惰の部下に食い取られるのだ。
正直何のスキルかまったく分からない。神が定めたスキルなのかどうかも怪しい。
まるで「暴食」を相手にしてるような。
「暴食」を含む七つの大罪スキルは取得条件が相当厳しく認定されている。
今現在七つの大罪スキルを持ってる7人のうち6人は親が持っていて取得条件を教えられ苦しい思いをして取得している。受け継いでいかないとあっさりと誰も取得できなくなる可能性が高すぎるのだ。
七つの大罪スキルを所持していると幹部候補に選ばれる。幹部候補が一人ならば神によって幹部に指定される。
「暴食」は現在一人だからこの私が取得しているのだ。
だから怠惰の部下が「暴食」を取得しているはずがない。
それでも「暴食」を使ってると言われる方がしっくりくるのだ。何とも言えない奴らである。
そんな怠惰の部下は温厚な性格をしている。怠惰が気に入った者のみを選んでるからである。
元気な奴らは基本的に切り捨てている。普通は逆な気もするが怠惰だからの一言で説明が付く。
怠惰の部下は普段何もしてない。警備をしてるふりを怠惰から命じられていてそれを遂行してるだけである。
何とも怠惰らしい指示なことよ。
私が今遭遇した怠惰の部下は怠惰の中では特殊な部類である。
怠惰からは代理ちゃんと呼ばれてる。彼の者の仕事は怠惰の代わりである。
怠惰一人では城にかかる必要経費を払えない。働かないから収入がないのだ。
割と死活問題で一人だけ金策担当を作ることに決めたのだ。
そんなことを考えてると向こうから声をかけてくる
「おや暴食の幹部ちゃんいらっしゃい。怠惰は奥にいるよ」
「こんにちは!お菓子食べに来ました!」
誰だと思ったか?私だ!思考補佐のスキルのよって脳内での文章ははっきりしてるが声に出すと体に影響されるのだ!ええい忌々しい。
今は私が「暴食」を取得する前の本来の姿である。小人族の血を受け継いでいてこれ以上成長できないのである。「暴食」を使えば代々「暴食」の幹部として使われてた装甲が身につく。通称「豚農民」である。「豚農民」状態だと口調が農民のようなものに影響される。だが幼い口調よりは好んでいるし魔王様の前では幼い口調を出したくないから魔王の前では「豚農民」で過ごす。
そんなことは今はどうでもよいな。目の前の会話に戻るとしよう。
「そういえば昨日の会議の議題は何だったんですか?怠惰が教えてくれるわけがなくてですね」
忘れてた。怠惰はそういう奴だ。特に今回のは部下に伝えておくべき案件だろう。
怠惰よだらけすぎではないか?
「今回の議題はですね!勇者が召喚されたそうなのですよ!攻めないように幹部に忠告なの!」
「え?勇者?召喚できないはずですよ?」
え?なぜ召喚できないはずなことをこいつが知ってる?悪しき魔王がいないと召喚できないルールは大抵知らないはずだがこいつは古くからの貴族だったか?
「なんで召喚できないことを知ってるの?悪しき魔王の話はほとんど広まってないはずなのに」
「悪しき魔王?なんですかそれ?」
「ん?じゃあなんで召喚できないの?」
「いや、この世界にはもう勇者いるので二人目以降は勇者じゃないはずなんですが」
「え?」
「正確には勇者ではなく「勇者」スキルを持ってるものがすでにいるだけですが」
「え?ちょっと待って!?勇者に認定されずに「勇者」スキルを手に入れた奴がいるの!?」
どういうことだ?そしてなぜこいつが知ってる?
「まぁ暴食様になら話してもよいでしょう。怠惰の許可が必要な気もしますが後でもらっておきます」
「それはそれでどうなの?」
怠惰も知ってるの?怠惰って親から受け継いでこなかった唯一の奴だから知識も大してないはずなんだが。
「では話しましょうか。「怠惰」スキルに関しての情報です。」
「「怠惰」は今まで誰も取得したことがなく取得条件も効果も誰も知らないスキルだね」
「「怠惰」の取得条件は楽するためという強い意志を持った状態で全スキルの取得です」
「全スキル?不可能じゃないか?」
「正確にはすべての系統ですね。勇者系統のスキルには「勇者の卵」というスキルがあります」
「勇者に選ばれる条件を満たしてるが悪しき魔王がいないため勇者になれてない勇者候補スキルだね」
「はい。それに魔王にも「魔王の卵」があります。」
「魔王がすでにいる状態で条件を満たすと取れる奴だね」
「神系統には神官系統が含まれますし、龍系統は鑑定眼を派生させれば竜眼、龍眼となります」
「あれ?龍眼ってそんな手法でも取れるのか」
「細かいことはさておき七つの大罪スキルも弱い系統から進化させることで取得できるので一番初期のを取得すれば十分です」
「なるほど。しってればそこまで難しくないんだね」
「いえ、普通にそれらのスキルを取得すると「器用貧乏」のスキルにしかなりません。楽をするためにという気持ちが最重要なのです」
「そこまで難しいの?」
「はい、まずスキルを取得するためにがんばったらアウトです」
「うわぁ、怠惰はどうやったのさ」
「怠惰は何が一番簡単な仕事かなと探し回った挙句気が付いたら全部やってて全部向いてないな。と思ったそうです」
「怠惰らしいけど龍眼はどうしたのさ」
「龍眼は鑑定眼使った状態で鏡見たら金色に光ってて龍の目見たいと叫んだら派生しました」
「え?」
「「龍眼」の派生条件は鑑定眼使用時に自信を見てる状態で龍という単語を発することです」
「後でとっとこっと」
「次に「怠惰」の効果ですね。こっちが本題です」
「取得条件には勇者がいる理由なかったけど「怠惰」の効果聞けばわかるの?」
「分かると思いますよ。一つ目の能力が全スキルの取得です」
「正確には?」
「正確にはステータスを毎秒更新し続けるスキルですね」
「ん?」
「誰かが取得したことのあるスキルを毎秒毎に取得し続けるスキルです」
「えっと?」
「初代魔王は形態変化というスキルを持っていました」
「突然どしたの?」
「初代魔王は形態変化というスキルをレベル2431まで上げたところで初代勇者に滅ぼされました」
「え?初代ってそんなにレベル高い争いだったの?」
「初代勇者は聖剣召喚のスキルをレベル2458まで上げてました」
「ふむふむ?」
「怠惰は形態変化レベル2431と聖剣召喚レベル2458を取得してます」
「え?」
私は嫌な予感がした。なぜそんなスキルを持っているのか、なぜ同じレベルなのか。取得条件がなぜ全スキルなのか。
「怠惰は誰か一人でも取得したことのあるスキルをすべて取得してます。取得者の最高時のレベルで」
すべて取得?「勇者」も「魔王」も?
「察しがよろしいようですね。思ってる通りだと思います」
「な、なんで「魔王」は魔王様が取得してる?」
「魔王様が怠惰よりも早く「魔王」を取得したからです。怠惰が「怠惰」スキルを取得するより前に持ってたので。しかし「怠惰」スキルはいかなる誓約も受け付けません。一人限定のスキルだろうと手に入れます。」
「そしてその効果で「勇者」のスキルを持った怠惰がいるのでこの世界では怠惰がいなくなるまで「勇者」スキルは誰も取得できません。」
「...「怠惰」スキルを封印すれば」
「「怠惰」スキルは更新するスキルです。更新されなくなるだけで既に取得したスキルはすべて残ります。」
「「勇者」と「魔王」の封印...はできない」
「その通りです。それが一つ目の能力です」
「ひと..つめ?」
「はい」
まだあるのか?この時点で性能おかしいのに
「二つ目は合意の上であれば配下に対象を指定できます」
「合意なのか。それはあまり強くない気がする」
「配下は「怠惰」スキルの恩恵の一部を得ます」
「まさか?」
「残念ながら一部ですのでそっくりそのままではないです。が、スキルレベルが低いだけで配下は全員全スキルが使えます」
「だから勇者や魔王、神の力の気配がしたわけね」
「怠惰の取得してるスキルレベルの最高桁数の数値がそのまま配下のスキルレベルの一桁目になります。つまり形態変化も聖剣召喚もレベル2ですね」
「レベルなんてあってないようなものじゃん...」
「はい。「勇者」「魔王」は神にあらがう力を持つものの証。レベル1で解放される効果《己が道を往く》が発動するので意志の強さで成せることが増えていきます」
「...」
とんでもないスキルだった。
なぜ「怠惰」なんて名前なのか。その字面からは予想がつかない
「それで三つ目の効果ですが」
「まだあるのか!」
「いえこれは誓約の効果ですね。違反すれば罰則があります」
「誓約?」
「はい。「怠惰」取得者はやる気があってはならない。他社の力を借り他者の力ですべてを解決して見せよ。違反をすれば10日間の強制睡眠の刑である」
「かっる!軽いよ!なんでそこで寝るだけなの!」
「まぁ「怠惰」スキルなので」
「納得できないよ!」
「まぁまぁ」
信じられないスキルだがやる気がないならそうそう問題がないのだろう...と言い切れない。
配下に対して何一つとして制約がないのだ。やろうとすれば本人が動かずとも世界が滅ぶ。
「配下は...」
「あぁ配下ですか。怠惰が決めたルールを破ればその場で寝てしまう誓約がありますよ」
「何のルールが今ある?」
「一つ、おやつは一日5回まで
一つ、スキルを使っていいのはこのお城と庭、外の世界だけ
一つ、色欲、暴食、嫉妬、憤怒、魔王様の言うことには従うこと
一つ、季節外れのスキルあそびは自重すること
一つ、外の世界では慢心しないこと」
「いろいろ突っ込みたいとこがあるが外の世界ってなに?」
「すみません。そこに関しては教えられません。暴食様では実力不足です」
「実力?」
「「暴食」スキルをレベル50まで上げるか200種以上のスキルを取得してからお聞きください」
「そこまで?」
「はい。それくらいないと死にます」
「ちょっと聞きたいだけなんだけど」
「聞いたら行ってみたくなりますよね?」
「すでになってる」
「なのでこれ以上はノーヒントです」
「ちえっ」
「そろそろ怠惰が来ますよ」
「今更だけど呼び捨てでいいの?」
「怠惰ですので」
「なるほど」
「暴食様。七つの大罪スキルには効果がそれぞれ10個あるんです」
「...あの頃はこんな世界は弱くなかった」
「覚醒なさったらまた続きをお話ししましょう」
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