雨のち晴れ 続き
こんなことって、あるんだねっ☆って⋯⋯自分でも驚くほどのテンションだ。何言ってんだ僕は。
しかし今まで生きてきてこれほど驚いたことは無い。これほど嬉しかったこともない。
僕は今、幽霊としてここにいる!
丸坂と会って思い出したんだ。突然未来に飛んできた訳でもない。別の世界に来た訳でもない。僕は八年間眠っていたんだ! ⋯⋯そして今日死んだんだ。
八年間病院でつきっきりで居てくれたお母さんに恩返しがしたい! どこに居るんだろう。会いに行かなくちゃ!
僕は改札に向かった。
ピッ ビー バタン
定期の期限が切れてる!なんてこった、これじゃ出られない。いや、駅員さんにどうにかしてもらおう!
「すみません、定期で入ったんですけど途中で期限切れになってしまいまして。この二百円でどうか通してもらえませんか」
「⋯⋯」
無視。完全に無視だ。僕のことが見えていないのか?
さっき丸坂は僕のことを見てたみたいだったから見えると思ったんだけどな。じゃあしょうがない。心苦しいけど適当な所から抜け出そう。
結界でも張ってあるのか、どうしても外に出られない。とりあえずお母さんに会うのはあとにして、丸坂に復讐しにいこう。
復讐なんて今まで考えたこともなかったが、当たり前のように頭に浮かんでいた。それほどまでに憎しみが強かったのか。
そうだ。強いに決まっている。僕を死に追い込んだ奴らだ。クラスの奴が来たら全員殺す。僕の祟だ。
とりあえず丸坂を殺そう。あいつは僕のことが見えていたようだったから、気づかれないように背後に回って突き落とそう。よし。
ホームにて丸坂丸壱発見! 電車もそろそろ来る頃だ! 背後に直行だ!
「ブツブツブツブツ⋯⋯」
丸坂は小声で独り言を言っている。良かった。独り言に集中してるおかげで後ろに来やすかったぞ。
「クサッ⋯⋯」
そう言って丸坂は列を抜け、隣の列の最後尾に並んだ。
臭いで気付かれてしまったか。そうだ、こいつは昔から嗅覚が半端無かった。落とし物係とかいう落とし物のにおいを嗅いで持ち主に届けるという謎の係をやっていたな。犬か。
臭い⋯⋯。これもいじめによるものだ。毎日腹を殴られ、その度に吐いていた。あの日も六十人に殴られたんだ。
電車が来てしまった。まあいい、帰りにも使うだろうし、その時殺してやる。
誰も来ない。知らん人ばっかやん。もしかしたら知ってる人でも八年間で体型や顔が変わって分からなくなってるかもしれないけど。まあ丸坂も面影あったし、大丈夫でしょう。
ホームに座って待っていると、ギターを背負ったミュージシャン風の男が来た。サングラスに金髪、入れ墨まである。
僕もいじめられてなかったらこんなふうになってたのかなぁ。
近くにいた青年がサインを求めている。やはり有名人なのか。
サインを書いたあと、写真撮影も求められていた。断れない性格のようで、サングラスを外して撮影の準備を始めた。
サングラスを外した顔を見た僕はゾッとした。あいつは佐野康夫! 最初は優しかったのに裏切っていじめに加担した最低なヤツだ! 僕の中での2番目の脅威だった。
でも今の僕はあの時とは違う。幽霊だ。最強と言ってもいい。
僕はファンと写真を撮っている佐野康夫を睨んだ。すると、僕だと気付いたようでとても驚いていた。ふふふ、怖いか。いい気味だ。そうだ、話しかけてみるか。
と思った瞬間佐野のスマホが鳴った。電話か。これから電車乗るんだからマナーにしとけや。
「お前も会ったのか⋯⋯?」
おーおー怯えてる。「お前も」ってことは、電話の相手はさっき会った丸坂かな?
「丸壱! 助けてくれ! おい! 殺される!」
急に叫び始めた。恐怖が頂点に達したか。誰も助けになんか来ないよ。僕は佐野に近づき、スマホを奪って丸坂に話しかけた。
「お前も死ぬんだよ。こいつの次になぁ」
電話は切れていた。どう見ても電話の途中っぽかったのだが。丸坂は途中で電話を切るやつなのか。
佐野はスマホを取り返し、丸坂にメールを送った。
「ゲボ⋯⋯もしかしてお前は幽霊なのか?」
佐野が聞いた。
「そうだよ、お前を殺すために幽霊になったんだ。どうだ? 僕が恐いか? ガオー!」
「ひいっ」
佐野は腰が抜けたようでそのままホームに落ちてしまった。くそ、僕が殺したかったのに。
周りが騒ぎ始めたが、もう時間は無い。あと数十秒後には電車が来るだろう。お前達の中に勇敢なやつはいるか? 有名人が落ちてるぞ~?
そのまま佐野は電車に轢かれた。人が轢かれるとこなんて初めて見たけど、よくこれで生きてたな、僕は。まあ最終的には死んじゃったけど。
ぞろぞろ人が集まって来て掃除を始めた。駅が封鎖されている。僕の時もこうだったんだろうか。
時間かかるのかな。次のヤツ早く殺したいのに、困るな。手伝お。
ちょっと待てよ? 幽霊なら色々出来るんじゃないか? 試しにやってみよう。
佐野の遺体を持ち上げたい! と念じたら浮かせることが出来た。よし! すごいぞ霊体!
これは要らないので外の道路にでも捨てよう。ポイ。
あとは電車とその周辺を綺麗にしないと。
綺麗になーれっ。
ピッカーン
幽霊というより魔法使いなんじゃないのか。僕は。
掃除をしに来ていた男達はポカンとしていた。困るだろ君たち、超常現象の証人なんだから。明日のニュースはこれでもちきりになるんだから。
まるで幽体離脱でもしたかのような四人の男達。ほっぺをツンツンと押したら起きてくれた。でもやっぱり僕のことは見えてないみたいだ。
「なんだ夢かー。帰ろうぜー」
夢と勘違いして帰ってしまった。外の死体を見て腰を抜かせ。
さっき、ほっぺたをツンツンした。つまり、触った。僕のことが見えてない人でも触れるんだ! 痴漢し放題じゃん! 殺しなんて後回しだ!
駅が開放されたので美女を探すことにした。