ある荒ら屋
まさか会社のすぐそばにゲボの家があったとは。八島は驚きを隠せないでいた。
「表札に下呂って書いてあります。完全にあだ名はここから来てますね」
そう言うと雲丹村は表札の横のインターホンを鳴らした。
「はい」
女の声だ。
「すみません、こういう者ですが」
サプライズデイ株式会社 開発部 商品開発課 課長 八島義則
「何をなさってる方ですか」
「主にびっくり箱を製造しております」
「どうぞ」
家に入れてもらえた。いきなり人の家に来て言うのも悪いが、ここは人間の住むような場所には到底思えないほど汚い。床は足の踏み場もないほどにものが散らかっており、苔も生えている。天井には蜘蛛の巣、壁には穴。こういう家の大会があったら各項目パーフェクトで優勝しそうな家だ。失礼が過ぎた。反省する。
この家にはこの女が一人で住んでいるとみえる。ガリガリに痩せていて、肌も荒れている。
「あなたは、ゲボくんのお母さんなんですか?」
山田が聞いた。ゲボって言うなお前。おい。
「そうです。息子は克弘といいます」
「一昨日Y駅で起きた連続自殺事件なんですけど、自殺ではなく殺人事件なんじゃないかと言われていまして、容疑者に息子さんの名前が挙がったんです」
山田が詳しく説明しながら聞いてくれた。
「息子は亡くなりました。葬儀も昨日済ませました」
死んだ!? どうなってるんだ。
「いつ亡くなったんですか?」
雲丹村が聞いた。
「八年前からずっと昏睡状態で一昨日、八月八日の午前八時八分に亡くなりました」
それから母親は長々と話してくれた。
あと2話です