佐野からのメール
丸坂⋯⋯俺はどうしたらいいんだ? 教えてくれ丸坂。お前のために出来ることはないのか?
「課長! 大変です! こっちに来てください!」
雲丹村が慌てた様子で呼んでいる。
「お前いっつも大変だな!」
八島は捜査が上手くいかずつい大声を出してしまった。上手くいっていないのは八島だけで、二人はしっかり頑張っているのだが。
「大変なものは大変なんですよ! ほらこっち!」
これは丸坂のパソコンだ。こいつ捜査のためとはいえ勝手にパソコンつけたのか。
「なにか手がかりが無いかと思いましてね、見てたんですよ。そしたらこれ、一昨日の午前九時二十二分に一件のメールが来てたんです」
「誰からだ?」
それは佐野康夫からのメールだった。恐らく生前最後のメールだろう。スマホに来たメールをパソコンに自動転送するように設定してあったようだ。
「開けますよ」
「おう」
もちろん人のパソコンを見るなんていけないことだけど、手がかりを得るためにどうしても必要なんだ。許してくれ丸坂! 変なファイル見つけても開かないから!
メールの内容はこうだった。
『俺は今Y駅のホームにいる。そしてゲボもいる。復讐される。ゲボに殺される。ゲボはいつかお前のことも狙うだろう。Y駅には近寄るな。必ず生き延びろ』
これはすごい! 重要な手がかりだ!
「ちょっと失礼しますね」
いかにも刑事という感じの二人組が職場に入ってきた。一人は八島と歳が同じくらいか少し上と言ったところ、もう一人は丸坂と同じくらいか。
「こういう者ですが」
警察手帳を見せてきた。案の定警察の人だった。ベテランの方は岩城、若い方は今井という名前だった。
「ちょっと職場の方にお話を伺いたいと思いましてね」
やはりこの二人も殺人事件だと睨んでいるのだろうか。と言っても特に我々に疑いの目を向けているという感じはしない。手がかりを探しに来ただけのように思える。
「刑事さん! これ見てください!」
雲丹村が刑事達に丸坂のパソコンを見せた。
「これは! ⋯⋯つまり二人ともゲボという人物に殺されたと。ということは恐らく窓名さんもこいつに⋯⋯」
さっきから若い方の刑事が一言も喋らない。歳は同じくらいでも、丸坂とは真逆だな⋯⋯。
岩城の見解によると、被害者が三人とも中学の同級生ということから、犯人も中学の同級生の可能性が高いという。そして、ゲボという人物は恐らくいじめられていた、と。
なるほど、確かにそんな気はする。しかし、中学の先生が犯人ということはないだろうか? 先生にあだ名を付けていじめるというケースも少なくはないと思うのだ。
この意見を刑事に伝えたところ、「そんな事考えるよりゲボ本人を探す」とのことだった。お前自分から予想し始めたんじゃん。
「それでは我々は丸坂さんの母校に行ってみようと思います。失礼しました」
そう言って岩城は部屋を出た。
「絶対に捕まえますんで、安心してください!」
若い方の刑事、今井が任せとけと言わんばかりの笑顔で言ってくれた。その顔はどことなく丸坂丸壱に似ていた。
今まで一滴も涙を流さなかった八島が泣いている。通夜の時も、悲しくなかったわけじゃない。ただ、犯人に対する怒りが大きすぎたのだ。今の今井の顔を見て安心してつい涙が出てしまった。
「刑事さん! 僕もついて行きます!」
雲丹村が今井に言った。
「気持ちは有難いのですが、そういうことは⋯⋯」
いろいろ難しいのかな。別に手伝わせてくれてもいいのに。と雲丹村は思った。
「ぶー」
雲丹村が拗ねてしまった。お前そんなキャラじゃないだろ。
「我々は殺人だと思っていて、犯人はまだ捕まっていないんです。あなたたちが捜査をしている時に犯人に出くわしたらどうするんですか。相手は三人も殺した殺人鬼ですよ」
今井は雲丹村を心配して言っているのだ。迷惑だからということではない。
「わかりました」
妙に素直になった雲丹村。今井の言葉が響いたか。
「おーい、何してる。行くぞ」
岩城が待ちくたびれている。
「はーい、今行きます。それでは、また」
今井も帰っていった。
「ただいま戻りましたー」
丸坂の葬儀に行っていた山田が入れ違いで帰ってきた。
「刑事さん来てたの?」
「うん、いい人だったよ」
山田と雲丹村は同期なので、仲も良く当然ため口だ。八島は三人の中で自分だけ気を遣われているような気がして寂しかった。かと言って三十二歳も離れた上司に敬語を使わないなんてありえない話だが。
「課長、ゲボの家に行きますよ」
雲丹村がとんでもないことを言ってきた。
「家なんて分かるのか?」
驚いた八島は当然聞き返す。
「僕の成果ですよ」
山田が誇らしげに言った。葬儀で丸坂の同級生に聞いてくれたらしい。さすが我が部下! やる気出てきたぞ!