八島義則
八月九日
家族に愛され、友人に愛され、同僚に愛される。丸坂丸壱に限ったことではない。人は皆そうだ。人は人を愛するものなのだ。
丸壱の通夜は皆涙が絶えなかった。しかし、一人だけ涙を流さない男がいた。
「お前が自殺なんてするわけないよな。犯人は俺がとっ捕まえてやるからな」
八島義則。丸壱の職場の課長だ。
丸壱が通夜の帰りに線路に飛び込んで自殺したというのだ。
信じられるわけが無い。一年半ほど一緒に働いただけだが、俺には分かる。お前は自殺なんて絶対にしない。
八島は会社に戻ると退職願いを書いた。個人的に捜査をしようと思ったのだ。自殺ということになっているので警察も動かないだろう。
でもそれじゃお前が浮かばれないよな。何としてでも犯人をみつけてやる。
退職願いを手にしている八島を見つけた山田と雲丹村が聞いた。
「丸坂先輩、本当に自殺だと思いますか」
え、こいつらも⋯⋯? やっぱり俺以外にも居たんだな。
「俺は絶対に違うと思っている。今から会社辞めて色々調べるつもりだ」
二人は唖然としていた。
そこまでするつもりだったとは。彼らも丸坂には世話になった身だ。力になりたいと申し出た。
「課長、僕たちにも協力させてください! 協力するので、辞めるのだけは辞めてください! この会社にはあなたが必要です!」
「さすがにそこまで言われちゃあなぁ」
八島は二人の熱意に負け、言う通りにした。
八月十日
三人体制にはなったものの、何から調べていいのか。んー、とりあえず事件の概要を調べてみよう。
『八月八日午後十時四十四分にY駅で通過列車に撥ねられ死亡。』
それは知ってる。
『飲み会の帰りで、とても酒に酔っていた。』
飲み会だって? あいつお通夜に行ったんじゃ⋯⋯。
「課長! 大変です!」
雲丹村が慌てて走ってきた。手には新聞を持っていた。
「昨日あの駅で丸坂先輩の他に二人亡くなっています。しかも、全員自殺と書いてあります」
ますますありえない話だ。一日に三人も同じ場所って完全に事件じゃないか。なぜ警察は動かない!
「課長、警察も捜査してるみたいですよ」
ピリリリリリリ
八島のケータイが鳴った。着信は山田からだった。山田は丸壱の葬儀に出て聞き込みをしていた。
「昨日亡くなった丸坂先輩のご友人が、あの事件の一人目だということが分かりました」
なに! 先に死んだ死者の霊が呼ぶとは言うが、まさかな⋯⋯。でも同じ場所って。
「それと、二人目は丸坂先輩の中学の同級生だとのことです。つまり、昨日亡くなった三人とも同級生です」
「ありがとう、警察に話してみるよ」
八島は急いで警察に電話をかけた。
「あの! かくかくしかじかで、三人は同級生なんです!」
「そんなことはとうに分かってますよ。失礼しますね」ガチャ
良かれと思って報告したのに、邪魔しちゃった。これって素人三人で追いつけるものなのか?
八島はやる気を無くし始めた。