我らが青春、魔道を進まん!!
例えば恋愛、部活、勉強だってそう。
ザ青春、正しく王道。
我ら学び舎も学徒に王道を歩ませるべく、全生徒はクラブ活動を強制的に参加させられる。
その中では学校の校則の裏をかいて帰宅を活動とした帰宅部もあったが、意外にも学校はこれを受理した。
卑怯だなんだと誰もが帰宅部を羨んだころに、学校はテスト期間の部活動禁止期間に入り各部は部活動を禁止された。
つまり帰宅部は帰宅を禁止され、およそ2週間学校に泊まり込む羽目になる。
そのせいもあり帰宅部は直後に事実上の解散となった。
この事件からあらゆる部活動は推奨されるが、ふざけると絶対の校則による手痛いしっぺ返しをくらうことということを全校生徒の周知の事実となった。
しかし、一学年15クラスに特殊学部、全校生徒に教師を含め2500人を優に越すマンモス校で問題なく誰しもが何処かに所属できる訳もなく、はみ出し者を集めたクラブというのも前例を踏まえて隠れるようにいくつかあった。
「――つまり!! それこそが我ら魔道部!! 白亜の巨壁と白痴の虚癖に抗う闇の住民よ!! 」
「……」
あぁ、声が返ってこない。無視……いや、我の声は闇に飲まれたようだ。
さすがは魔道部長机を囲む我ら魔道部5賢者、言霊の重みを知る者よ。多くは語らぬか。
まずは我が賢者サンジェルマン、魔道具は無限の知恵を綴った辞書( ネクロノミコンインデックス)だ。
これを使い、我はあらゆる情報を調べあげれ――
「ブツブツブツブツうっせぇぞ! だぁってろ!田中ぁあ!!」
「す、すいません王子センパ――」
「あ゛ぁ!?」
「い、いえ……エイキチ先輩!!」
「クソが……」
……さ、さて、田中と言うのは我の真名、明かしていない名前だ。
今怒鳴ってきたブレザーの肩部分をちぎり世紀末スタイルにウルフヘアーでボールペンをずっと回してらっしゃるのはエイキチ先輩。
真名は王子キララと言うキラキラネームだが、彼はそれが恥ずかしいらしぬ通り名のエイキチを頑なに呼ばせる。
その横で黒い花粉防止マスクにフード付きパーカーを目深に被り、オモチャ消しゴム……もとい具象消しゴム(リミットレスコッペリオン)で遊ぶ中等部の根暗女はエイキチ先輩の愛しの妹黒猫。
彼女の魔道具は彼女の意のままに動き回るのだ。
だが、人形使いのサガか声を失ってるようで1度として私も声を聞いたことがない。
「エイキチにぃ、帰りにダッツ買ってぇ」
「おーー!! いいぜぇ〜〜ネコはストロベリーかバニラか? 」
「ラム! ……レーズン! 」
「おぉぉネコお前そんな大人の味を!!」
「ぶいっ!」
……声を聞いたことがないとう我の設定は無視して彼女はブイサインでドヤ顔をしてるが、真名は王子ネコ……えー先輩の妹だ……です。
さて、その正面でボーイズラブ小説にヨダレを垂らしながらせっせと付箋を貼りまくってる黒髪ロングの学園のマドンナと、彼女の隣で空気イスで震える長身金髪クォーターのイケメンの話だ。
2人は学園ヒエラルキーのトップ、誰もが憧れる大和撫子とドS王子の美男美女カップルだ。
彼らはその人気から常に仮面を被ったように自分を誤魔化し、自己の解放できる場とここに流れ着いた。
今日も魔道に邁進している良い様である。
「貴様らぁ! 部活動には励んどるかぁぁん?」
教室の引き戸を勢いよく開けたのはオーク!
いや、いつも茶色のジャージを来た豚崎教諭だ。
「んだ豚こら? ベーコンにすんぞ! 」
「キモっ」
「はぁ? 豚骨スープ染み出してんじゃないの。気持ち悪いわ豚」
「はぁ……はぁ……ミカちゃんの豚は僕のポジションだぞ!!」
皆口々に入室してきた豚……もとい豚崎教諭を罵倒するが、最後の金髪クォーターの発言は彼の最愛の彼女に認められなかったようだ。
「エドワード……部活関係では玉鬘と呼ぶ約束よね」
「あひん!!」
ミカ……もとい、通り名玉鬘がエドワードの胸ポケットにつけられた洗濯挟み型クリップを勢いよく引き剥がす。
クリップのバネ絞る音が勢いよく響くが、それ以上にエドワードから声が漏れる。
どうやらあれは服でなく……その下の肉まで摘んでるようだ。
そして全員に豚と罵られたのがクラブの顧問は奥の席に腰をかける。
彼はセクハラ、モラハラが大好物で長いものに巻かれるのをモットーにしたクズだが、そんなのでもなければ我々の魔道部の顧問には余っていなかった。
「いいかぁ、今日は校長がクラブの視察に回ってらっしゃるからなぁ!真面目に部活しろよ! まぁこんなとこは最後に回されて6時ギリギリだろうけどな!!」
そして豚は決まって余計なことを言う。
「はぁ? エドワードのクリップでアンタの口も塞いであげましようか豚?」
魔道部でも女王のような玉鬘の強いセリフに豚が慄く。
彼女が威圧的に掴んでいるバネの力強いクリップはエドワードの魔道具のクリップ(シンラリンカー)、感覚を人と繋げことが出来る魔道具。
そして玉鬘の魔道具は付箋(魍魎の式神)、式神の名前通り玉鬘の意のままに動き回る付箋だ。
実際に使用後なのか、よく学内に落ちている。
「い、いやミカちゃんは真面目だからだだだだいじょうぶん。だ、男子に言ってんだぞ! 最近の窃盗や盗撮なんかの騒ぎもあって見回り増えてんだからな……」
盗撮……最近我が校の生徒の盗撮画像がネットに出回っていることが生徒の間で噂されていた。
部活中の着替えや授業中の生徒の胸元、果ては職員室まで被害にあったとあるが中々どうして表沙汰にはなっていない。
多くはどうやって撮られているか分からず授業中の動画さえあったらしい。
我は手元の辞書ネクロノミコンインデックスを捲り知識を求める。
これは恐らく魔道の事件、闇の精霊が絡んでいる。
解決したいが……ネクロノミコンインデックスの開いたページは……カマプアア。
カマプアアとはハワイの豚の神様らしい……残念ながらこれがネクロノミコンインデックスは本調子じゃないようだ……
ここは事情があって他部に所属できない人間の集まり、道を外したという意味の魔道で魔道部。
エイキチ先輩はネコちゃんと四六時中一緒に居ようとして、玉鬘とエドワードは外では王子様と献身的な彼女の姿をしている本性を隠すために、そして僕は――
ともあれ、厳しい校則に従って余計な物を持ち込めない中で文房具の本来の使い方以外を研究するのが我ら魔道部の生業。
それに加えて学内の道を外した者を駆逐すること、蛇の道は蛇として学内の闇に潜んでいる。
ちなみにエイキチ先輩の魔道具はボールペン(如意黒環)、とにかくよく回り遠心力を受けて最強の鈍器になる。
しかし残念なことに顧問の豚の魔道具も悪趣味ボールペンで被ってるらしいことだ。
……らしいというのはたまにしか持っていないことと、豚に誰も興味がないため。
今日はジャージの胸ポケットに指してるが、噂通りハイビスカス柄で普通のボールペンの倍ほどある実用性の無さそうなボールペン。
……さすが我、いやネクロノミコンインデックスか……校長に部活動の活動報告が出来そうだ。
「しっかり活動しないと顧問降りちまうぞ?お?」
恫喝まじりの豚は部室の中、主に玉鬘とネコの周りを行ったり来たり、夏服を眺めているのだろうが……相手が悪かったな悪しき豚よ。
「立ち上がれエドワード!豚の魔道具を破壊するぞ!」
我の指示で、豚の玉鬘に対する卑猥な視線に気づいていたエドワードが勢いよく立ち上がった。
途端エドワードの乳首と机を繋いでいたクリップ(シンラリンカー)が勢いよく宙を舞う。
「痛っ!?」
「あぁん!!」
エドワードの嬌声と豚の悲鳴が同時に聞こえる。
これぞ魔道具シンラリンカーの本当の力!
よろめいた豚が床に落ちていた付箋(魍魎の式神)を踏んづけ滑って転ぶ。
「あぁ豚崎教諭すいません。部長が大声出すもんだから付箋落としちゃって……」
「ふ、ふざけんなよぉ!!」
喚く豚崎教諭に間髪入れず、エイキチ先輩のペン回しで弾き出された、ネコの飛行機型消しゴム(リミットレスコッペリオン)がレーザービームよろしく豚崎教諭のボールペンを弾き飛ばし、返す方なで頬にぶつかる。
「こら、ネコぉ消しゴム飛ばしちゃダメだぞぉ」
「ぶいっ!」
兄弟仲睦まじいコンビプレーが炸裂である。
「痛い痛い痛い! なんだよぉこれぇもぉやだ」
豚崎教諭は堪らず泣きわめくが、自身の状況をまだ理解していない。
我は足元に落ちている……足元まで落とさせた豚崎教諭の魔道具のボールペンを拾い上げた。
「あぁ先生……ボールペン落ちましたよ……それとも千里眼……サードアイと呼ぶべきですか? こちらのボールペン」
我はボールペンから件の盗撮事件に使われていたであろう小型カメラを抜き出す。
「な、ななななんだそれ、ぼぼぼぼ僕はしらない」
――ゴォーーーーン!!ゴォーーーーン!!
焦る豚崎教諭の声をかき消すように校内に6時を示す鐘が鳴り響く。
ジャスト6時……予定通りだ。
「豚崎くん……これは……」
豚崎の開けたままの扉からは校長が一連の流れを見ていたようで硬直している。
「こ、校長!?」
予定通りの時間に現れてくれて助かった、ら
これも我が魔道具ネクロノミコンインデックスの数巡予測の権能かも知れんな。
「じゃあ6時なんで校長あとはお願いします。これが僕ら魔道部の活動報告なんで……」
我は豚のカメラ付きボールペンを校長に手渡し教室を出た。
4賢者もそれに続く。
忘れていたが、魔道部の部長は我サンジェルマンが務めている。
理由? 理由は……そう、部の前身が噂の帰宅部で、そこに残った部長が魔道部を設立したからだな。