08 戦天使は彼女
「お招きいただき、光栄です。ウィース様」
わかりやすい男前がおばちゃんにあいさつした。
ごつい方は無言で頭を下げる。
「あら、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。そうだ、あなたたちも、お茶しない? 私が作ったお菓子があるの」
「大変ありがたいお誘いなのですが、まず、すませなければならないことがありまして」
そう言うと、わかりやすい男前がこっちを見た。
ボコだ。
気を取り直して、ボコボコだ。
「君が、リリアに薪割りを見せたという男か」
「あっ」
「あっ、てなんだてめえ」
ごつい男前が言う。
もしかしたらちがうかもしれないと思ってたのにやっぱりそうだったという気づきの、あっ、である。
「ちょっと? あらっぽいことはやめてよ?」
おばちゃんが言うと、わかりやすい男前が頭を下げた。
「失礼いたしました。君の名前は」
「ガ……、グレイです」
「ガッ?」
でかい男がにらんでくる。
偽名を言いかけたけど意味がないと思ってやめた、ガ、である。
「君が薪割りを?」
「教えたっていうか、ただ見せただけで、別に」
「ちょっと薪割りを見せてもらいたいのだが。ウィース様、場所をお借りしても?」
「どうぞ」
おばちゃんはにっこり笑って言った。
全然俺の話聞いてないな?
俺は裏庭の、薪割り場まで連れていかれた。
わかりやすい男前が斧を持っている。
用意してくれたんだ、ありがとうございますという気持ちが半分。
薪割り場だからって、薪を割るとはかぎらない。
俺が頭を割られる可能性もあるよね? という気持ちが半分だ。
「割ってくれ」
「えっ」
自分で自分の頭を割るんですか?
そんなひどいことを……。
「薪を割るところを見せろって言ってんだよ!」
「あ、はい」
なんだ。
「バリーゴくん? グレイちゃんに乱暴な口をきくのは、やめてね?」
おばちゃんが言う。
「すいません……」
ごつい男前が頭を下げた。
「グレイ君。君が薪を割るのが、リリアの新しい技のヒントになったと言っている。それを見せてもらいたい」
「はあ」
「ああ?」
でかい男前が俺にぐぐいと近づいてきたが、はっ、としてさがる。
おばちゃんがにこにこしている。
「あの、思ったのとちがって大したことなくても、文句言わないでくださいね」
俺は薪をセット。
「さっさと……! やればいいんだよ」
でかい男前がだんだん口調を弱くしていった。
その分、顔がこわくなっている。
俺は斧を取った。
さっさと終わらせよう。
「よいしょっ」
いつものように構えて、屈伸をするように薪を割る。
パカン!
いい音!
「おお……」
男前二人から声が聞こえた。
「? なんでしょうか」
「いや」
でかい男前が割れた薪を手にとった。
ふうむ、とか言いながら見ている。
「いつ見てもきれいよねえ」
おばちゃんが、横から断面を見た。
「きれいですか?」
俺も見る。
「そうよ」
「でも……」
俺も断面を見た。
まあ、きれいには割れてるけど、割れてるって感じ。
それに対して彼女とか、男前たちはきっと、斧でも切断できる。
もっとつるつるできれいな断面を見せることができるんじゃないだろうか。
「なるほど。自然な断面だね」
わかりやすい男前が言った。
大したことなかったけど、できるだけほめてあげよう、という優しさしか感じない。
おいしくない料理に対して、個性的な味だね、ってなんとか言う感じ。
「これでよくわかった。失礼した」
わかりやすい男前が頭を下げた。
でかい男前が遅れて、しぶしぶという感じで頭を下げた。
「ぼくらはリリアと同じパーティーを組んで冒険をしてる者だ。サーフとバリーゴという」
「どうも、グレイです」
たぶんすごい人たちなんだろうけど知らない。サーフ、バリーゴ。
「ぼくらは、リリアの仲間でもあり、兄弟でもある」
「あ、兄弟」
たまに話に出てくるお兄さんか。
「君から見たら、僕らはリリアを過剰に扱っているように見えたかもしれないが、リリアのことだ。わかるだろう?」
「たしかに人気がありそうですしね」
「なんだてめえ。皮肉かコラ」
でかい男前、バリーゴがにらみつけてくる。
え、なんでほめたら怒られるの。
そんな様子を見ていたおばちゃんが笑う。
「グレイちゃんはね、そういうことにうといのよ」
「うとい?」
「リリアちゃんのことも、最近知ったんじゃない? そうでしょ?」
「あ、はい。食堂で困ってたんで」
「それは知り合ったっていう意味だろうが」
「はあ」
それ以外にどういう意味があるんだろうか。
「……まさか君、食堂で会うまでリリアのことを知らなかった、なんていうんじゃないんだろうね?」
「そうですけど」
「知らねえわけあるか! ……ねえだろう」
でかい男前がチラチラおばちゃんを見る。
「質問だけど、グレイ君。戦天使っていうのは聞いたことあるよね」
「……! あ、はい」
俺は察した。
これは、最低限知っておかないとバカにされる質問だ、と。
知ったかぶっておけ、と。
男前たちが顔を見合わせる。
「戦天使が冒険者だっていうことは、もちろん」
「知ってます!」
「具体的に、誰だかは、もちろん知ってるよね」
「えっと、まあ、はい」
「誰だい?」
「え?」
「いや……? あんまり、そういうのは、人に言うことではないかな、っていう感じはします……」
言いながら、男前たちの表情が、なにを言ってるんだこいつ、というものに変わっていくをまざまざと見せられた。
やばい。別に、言っても平気な人だ。
どうする。イチかバチか、なにか断言するか。
知らばっくれておいたら見逃してくれるか。
はっ。
そこで俺に天才的な気づきが。
実は受付の女性が戦天使?
昼は受付、夜は天使、みたいな?
それか! なるほど!
意外性もあるし、知っていて当然という感じもする!
これだ!
「わかりました、戦天使は、受付の女性です!」
「は? どこの受付だよ」
「ギルドです!」
俺の断言に、男前たちは顔を見合わせる。
どっちだ?
ちがう?
見事正解?
「お前、ふだんなにしてんだ」
ごつい男前が言う。
口調がふつうだ。
「なに、とは」
「どういう仕事してんだよ。昨日はなにした」
「昨日は、牧場の手伝いを」
「牛狙いの魔物でも倒してたのか?」
「いや牧場の手伝いを。ミルクを絞ったり、牛を放して、牧草を食べさせて牛舎にもどして、っていうのを手伝ったり」
「……」
ごつい男前が口を開けて動かなくなった。
「グレイ君。いつもそんな感じかい?」
「まあ、できれば」
「戦ったりはしないのかい?」
「まあ、できれば。危ないんで」
「ならどうして冒険者を?」
「冒険者ギルドには、安全な仕事もいっぱいあるんで、うまく使わせてもらってます」
おばちゃんがくすくす笑い始めた。
わかりやすい男前が、ため息をついた。
「わかった。ウィース様のところで居候ということなら、問題のある人間ではないだろう」
「グレイちゃんに問題なんてないわよ。とっても平和的」
おばちゃんは言った。
「そのようですね。では、我々はもう行きます」
「お兄ちゃんたちもお茶したら?」
「リリア、次の仕事だ! 行くぞ!」
「ええー? いまから?」
「早く行くぞ」
ごつい男前が言うと、彼女はしぶしぶついていった。
「なんだか、にぎやかだったわねえ」
おばちゃんが言う。
「そうですね」
よかった。なんとか、終わったみたいだ。
わかりやすい男前のほうがサーフで、ごついほうがバリーゴだっけ?
覚えられるかな。
えっと、それで、そうそう。
つまり、戦天使は受付の女性、っていうことでいいの?




