表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

30 今日

「一緒に食べましょうよ」


 体調の回復をおばちゃんに伝えたら、朝食に誘われた。


 パン、ミルク、卵焼きという、特別なところのない食事だったけれども、味は特別だった。きちんとした食材なんだろう。

 あんまり食べすぎると、その味が基本になってしまいそうでこわい。


 舌を肥えさせないのが、安く生きるコツです!


「今日はギルドに行くの?」

「はい!」

「気をつけてね」

「いってきます!」



 おばちゃんの家を出て、晴れた日の道を歩く。


 ちょっと振り返ると大きな家が見えた。


 あれが俺の家だったら、気分がいいんだろうか。

 いいかもしれない。でも、維持するのが大変そうだな、という気持ちの方が大きいか。

 まあそんなことないし、関係ないけど。


 ぶらぶらと、歩いていった。



「申し込みしたいんですけど」

「久しぶりですね」

 ギルドの受付で言われた。


「まあ、何日かぶりですかね」

「どうかされました?」

「え?」

「グレイ様は、毎日欠かさずいらっしゃっていたように思いましたので」

「えっと、まあ、ちょっとカゼひいたみたいです」

「冒険がよくなかったのでしょうか」

 受付女性が言った。


「はあ」

 なんの話だろう。

 冒険は体によくない、という俺の意見に、ついに賛同者が現れたのだろうか。


 それがギルドの受付だなんて。

 なかなか、強い気持ちの持ち主である。


「それで、今日はどういったご用件でしょうか」

「あ、はい」



 俺は希望の仕事を伝えて、処理が終わるのを待っていた。


 食堂の方から歩いてくる男たちが目に入る。

 ごつい男前と、わかりやすい男前の人だった。


 こういう人たちのところに、美女が集まるんだろうなあ。

 世の中というのは、まったく、という感じである。


 なんて思ってたら、ごつい方の男前が、俺のことをじっと見ながら歩いていく。

 え?

 なんだろう。目をつけられたんだろうか。

 

 いそいで目をそらすと、ごつい男前はそのまま去っていった。

 あぶないあぶない。

 不要な危機は招かないようにする。

 それが人生のコツである。


「グレイ様?」

「あ、すいません」


 最後にもう一度求人を確認してから、俺はギルドを出た。



「あら、もう終わったの?」

 もどると、おばちゃんが庭で迎えてくれた。


「今日は、申し込むだけなんで」

「あらそう?」

「じゃ、薪割りでもしますね」

 俺は腕まくりをした。


「そのことなんだけど、もうやらなくていいわよ」

 おばちゃんは言った。


「え?」

 クビ?


「そろそろ、別の町に移ろうかと思っているの」

「そうなんですか?」

「もちろんグレイちゃんも一緒よ」

「はあ。迷惑じゃないですか?」

 一応きいてみる。


「もちろん! 家に若い男の子がいるっていうのも、大事なのよ」

「それならいいんですけど」

「明日、出発しようかしら」

「そんなにすぐにですか?」

「グレイちゃん、用意が大変?」

「そんなことはないんですけど」


 俺がどうっていうか……。

 家を見る。


「この家は売るんですか?」

「いいえ? 他の人にしばらく管理しておいてもらうのよ」

「ははあ……。くろちゃんさんにですか?」

「まさか。別の人よ」


 おばちゃんが笑う。

 俺も笑っておく。


 そのようにしてある他の家がたくさんある、というわけか。

 なるほど……。

 強そうな人生である。


「……あ! じゃあ、俺、いまギルドに申し込んできた仕事、取り消したほうがいいですかね」

「ごめんなさい! そうね、さっき言っておけばよかったわ」

「いえ、じゃあ、ちょっと行ってきます」

「いってらっしゃい」


 俺は、軽く走りながらギルドに向かった。


 この風景も、しばらく見納めになるかもしれない。

 そう思ったらちょっとさびしいような気持ちになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ