25 彼女と書庫
「よろしくお願います」
受付で利用票を出すと、男性がうなずいた。
「はい、たしかに」
男性がスタンプのようなものを押しつける。
「すいません、目について調べたいんですが、どのあたりですか」
「目だったら、人間の体について、という棚が、11番、あちらにありますので」
「ありがとうございます」
俺は中に入っていった。
今日は町の書庫に来ていた。
ギルドで手続きをすると、利用できるようになっている。
そこはたくさんの本があって、いろいろなことを調べることができた。
昨日、治療院が終わってギルドで研修終了の手続きをしていたら、受付女性と青い目の話をした。治療院で先生が書き残した本のタイトルの話もすると、書庫を提案された。
「冒険者なら無料ですよ」
建物は、食堂を含めたギルドよりも小さいくらいだったけど、中はたくさんの棚がある。
たまに、机と椅子がある区画があって、そこで読んだり、5冊までだったら借りて帰ってもいいらしい。
番号を数えながら進んでいくと、11番、と書いてある棚がみつかった。
人体について、と棚の側面に書いてある。
棚を見ていくと。
「これか」
本はとても分厚かった。表紙は薄い板のようにかたい。
近くの席について、本を開いてみる。
細かい字で、三段にわかれている。いろいろな物事の解説をしている本だった。
たまに、図解付きの項目もある。
ぱらぱらとめくって拾い読みしていくだけでも、なんとなく知識が広がったような気持ちになった。
「なに読んでるの?」
「……っ!」
大きな声が出そうになったのを、なんとかこらえた。
彼女がいた。
「な、なにしてんの……?」
「私? 私は、毒の本を借りに来たの」
彼女が手にしている本には、毒大全、と書いてあった。
「すごそうだね」
「すごいよ。すごすぎて、よく眠れる」
彼女はまじめな顔で言う。
どういう使い方をしているかわかってしまった。
「ちゃんと読んだほうがいいと思うけど」
「ちゃんと読むからこそ、眠くなるんだよ」
彼女は力強く言った。
もう俺には言うことはない。
「グレイくんは?」
「昨日わからなかったから、青い目について調べようかと思って」
「ふうん」
彼女がさらに近づいてくる。
そして、椅子に座っている俺に、肩を押しつけてきた。
どけってこと?
彼女を見上げると、こっちを見ていない。
しょうがなく立ち上がろうとしたら、脇を抱えられて、そのまま座った。
椅子に、半分ずつ座っている。
密着している。
は?
なにごと?
「グレイくんも」
彼女が俺を抱えている腕に、軽く力を入れた。
彼女が押しつけられる。
「え?」
「こっち。私も、持って」
彼女があいている手で俺の手を持つと、自分の脇に持っていって抱えさせた。
おたがいに、おたがいの体を抱えている格好に。
「これで安定するでしょ?」
彼女がにっこり。
「ああ、うん」
……。
……。
「いやいや!」
俺は手を離して立ち上がった。
「どうしたの?」
「どうもこうも!」
こんな体勢じゃ、一文字だって理解できないぞ!
頭が煮えたぎる!
「お静かに!」
受付の方から声が聞こえた。
「すいません……」
俺は別の椅子を持ってきて、彼女のとなりに座った。
「おしずかに」
彼女がくすくす笑う。
お静かに!
本を閉じて、もくじを見た。
目についてのページを開き、さらにめくっていくと、青い目の絵があった。
「青目、ってあるね」
彼女は言った。
「うん」
青い目は、治療院の先生が言っていたとおり、魔法や、食べ物によって起きることがあるらしい。視力が低下している状態になっていることが多いという。
例外もある。
それは、生まれつき青い目をしている人。
「青目族」
そう書いてあった。
青目族は、北の大陸に住んでいる一族で、戦いを避け、徹底して非武装を貫いているのだという。
「グレイくんに、すこし似てるね」
彼女は言った。
俺もそう思った。
俺たちのいる大陸が中央で、北の大陸は間に海がある。気候も全然ちがうらしい。
「遠いね」
俺は言った。
「近かったら、行きたかった?」
「うん」
「めずらしいね。遠くに行きたいなんて」
「たしかに」
自分でも不思議だった。




