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24 彼女と治療院

「ではこちらでお待ち下さい」

「どうも」


 治療院は町の中でも、畑に近い、おだやかな場所にあった。

 受付はふたつあって、冒険者用と、一般用がある。それぞれの治療内容がかなりちがっていることが多いので、そうなっていた。

 というのは話に聞いただけで、身の危険に気を配る人生の俺は、実は一度も来たことはなかった。


 入ってみると待合室に待っている人はいなかった。


 受付をすませて、長椅子に座る。


「すいててよかったね。いつもは、もっといっぱい人がいるんだよ」

 となりに座っている彼女が言った。


「……なんでいるの?」

「いないほうがいい?」

 そんなわけはないけど。


「一緒に、どこか診てもらうってこと?」

 俺は彼女の手足を見た。

 今日、どこにも不調があるようには見えなかったけど。でも冒険者が不調かどうかなんて素人にはわからないか。


「グレイさん、どうぞ」

 診察室のドアが開いた。

「はい」

 早いな。


「おかけください」

 診察をするのは女性だった。若いような、そうでもないような、見た目では年齢がよくわからない人だ。


「おねがいします」

 俺は一礼して席に座る。

 彼女は壁際のベッドに座った。


「あ、ちょっとリリアちゃん。外に行ってた服でそこに座らないで!」

 女性は言った。

「ケガした人はここで診察するんでしょ?」

 彼女が言い返す。

「あなたケガしてないでしょ」

 女性はすぐ言った。

「じゃあ、脱ぎます」

「えっ」


 俺は急いで目をそらした。


 女性は、もう、と深く息をはいた。


「それでグレイさん、今日はどうされました?」

「あの……、あれでいいんですか?」

 俺は見ずに、ベッドを指す。


「ん? リリアちゃん? あなた、あの子の友だちじゃないの?」

「そうですけど」

「じゃあ、気にしてもしょうがないってわかるでしょう?」

 すごいことを言う。


「それじゃあらためて。今日はどうしました?」

「ああ、はい……」


「今日、冒険者ギルドの研修で北の森に行ったんです。それで、木の実をとったりしながら、かんたんな冒険をしていたら、目の色が青くなってしまって」

「黄色い木の実はとてもおいしいと感じました」

 彼女が低い声で続けた。

 俺の声マネらしい。


「木の実を食べました?」

 女性が気にせず言う。


「はい。黄色い木の実を。それで、しばらくしたら目が青くなっていて、どうしたのかな、と思ってたら、治療院で診てもらったほうがいいって。でも、すぐ青い色ではなくなりました」

「なるほど。では、すこし目を見せてください」


 席を立った女性は、かがんで、俺に顔を近づける。

 近くで見ると、よけいなかざりのない、すっとした美人だった。


「おほん!」

 彼女のせきばらいに、はっとする。


「失礼しますよ。前を見ててくださいね」

 女性は、俺のまぶたに手をそえて、大きく開かせた。

 女性からほのかな花のような香りがする。

 落ち着く香りだ。

「おほん!」

 彼女がせきばらい。


「わたしを見ててくださいねー」

「は、はい!」

「おほん!」


「……はい、もういいですよ」

 女性は手を離して、机の前にもどる。


「どうでしょうか」

 俺はいつもよりも多めにまばたきをしながらきく。


「そうですねえ……。目の色が変わるというのは、特殊な魔法の練習や、特殊な食べ物で起きることもありますが、北の森にあるような魔物、木の実では、おそらくそういう症状は出ないでしょう」

「はあ」


「もう症状は収まっているようですし……。気になるようでしたら、また何日かしたら、症状が出たかどうか、聞かせてください」

「はい」

 要するに、よくわからないということか。


「でもそうね。気になるんだったら、この本を……」

 女性がなにか紙にサラサラと書き始めたとき。


「先生、ちょっと来ていただけますか!」

 部屋の奥のドアが開き、別の女性が現れた。


「なんです?」

「さっきいらした奥さん、産まれそうだからすぐ来てほしいと!」

「わかりました!」

 女性はすぐ立ち上がり、カバンを手にしてこっちを見た。


「ごめんなさいね、行かないと。今日の診察料は、次回一緒にもらうから」

「えっと」

「戸締まりはちゃんと他の人がしてくれるから安心して。それじゃあ」


 女性はあわただしく診察室を出ていった。


 あとにぽつんと残された俺。

 と彼女。


 えっと……。

 なんだかわからないけど、帰ろうか。

 と思って彼女の方を見そうになって止まる。

 服を脱いだとか、言ってたような……。

 でも、もうだいじょうぶか。


「ねえ、帰ろうか」

 一応、彼女の方を見ずに言った。


 ……。

 返事がない。


「帰らないの?」

 すると、代わりにすー、すー、と寝息のような音がする。


 寝たの!?

 え、どうしよう。


 ……。

 ……。


 俺は、そうっと、ベッドの方を見た。


 すると彼女と目が合った。

 口で、すー、すー、と言いながら、俺を見ていた。


 彼女がにこっと笑う。


 俺はあわてて前に向き直った。


「か、帰ろうか!」

「もうちょっとごろごろしてたいな」

「帰るから、服着て!」

「はーい」


 薄いかけぶとんからすらりと出ている、膝上からの彼女の脚が目に焼きついていた。

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