表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

21 研修 彼女と森の軽食

「はー、生き返るー」


 彼女は黄色い木の実を割って、中身をつるりと飲んだ。


 こぶし大の、つるつるしている表面はすごくかたくて、でもその中はとろとろで流れそうなやわらかい果肉が入っていた。

 それを彼女はおいしそうに、あっという間に5個分、飲み干していた。


 手で割ってみようとしたけどまったく歯が立たなかった。


「あーおいしかったー」

「お腹減ってたの?」

「昨日からなにも食べてなくて。今日はパンしか食べてないから」


 パンは、食べ物ではない……?


「グレイくん、森にいるなんてめずらしいね」

「ギルドで冒険の研修があって、しかたなく。仲間とこの森の木の実を集めるっていう。知ってるよね」

「あー……、シッテルシッテル」

 知らない人の言い方だった。


「だから、全部食べられちゃうと困るんだけど」

「言ってよ」

「知ってるって言ってたから」

「……ちょっとこっち来て」

 彼女は手招きをした。


「なに?」

 のこのこ歩いていったら、彼女が俺を抱えた。

 走り出す。

「うわっ!」


 景色が一気に流れて、立ち止まったのは黄色い木の実の、木の下だった。

 

「これでよし!」




「うまい!」

「でしょう?」


 割ってくれた木の実の中からとろりと出た果肉には、流れ出しそうなやわらかさでごくりと飲める。

 さわやかなだけじゃなくて、あまみもしっかり感じる。

 みずみずしくて、水分補給もばっちり。そのせいで、ちょっとのどがかわいていたことを思い出したくらいだった。


「うん」

「もっと飲む?」

 彼女は果汁がついた指をぺろりとなめてから、もう一個実をとる。

 そして割ってくれて、俺に片方くれた。けっこうかたいのに、あっさり素手で割るのはさすが冒険者というところか。


「ありがとう」


 実に口をつけてから、ふと思う。


 彼女が指をぺろりとしてから、その手で実を割って、俺にくれた。

 彼女の唇が触れた手で触れた実に俺は口をつけている。

 短縮すれば、彼女の唇に俺の唇が触れている。

 短縮しなければそうじゃない。

 俺はなにを言っているんだ。


 飲もう。おいしい。


「おいしいね!」

「うん」

「どうしておいしいか知ってる?」

「え?」

「この木はね。たまに魔物を取り込んで、栄養を吸収するからだよ! しっかりと、生きものの栄養を、取り入れているんだね!」

「……」

 俺は、彼女が差し出した、次の木の実から手を引いた。


「どうしたの?」

「あ、うん、今日はもういいや」

「そう?」

 彼女はつるりと飲んだ。


 それから俺を見た。


「ふたりきりだね」

 彼女は言った。


「え、そ、そうだね!」

 声が裏返った。

 急になに? 急に。


 ちょっと。

 俺はズボンで手の汗をふいた。


 なにが始まる……?

 なにが、始まる……!?


「研修って、ひとりで来たの?」

 彼女は言った。

 あ、人数確認ですか。


「他に三人、初級冒険者がいたんだけど」

「うん」

「あとは超級の、バリーゴさんが監督役として」

「え? お兄ちゃん?」

「うん」

「みんなはどうしたの?」

「白ネズミっていうのが出たって、どこか行っちゃった」

「ふうん」


 あれ?

 てっきり、白ネズミ! どこ! どこ!

 みたいになるのかと思ったのに。

 そういうんじゃないの?


「白ネズミってなんなの?」

 俺が言うと、彼女は変な顔をした。

「なんか知らないけど、男が好きなものなんだって、言ってた」

「へえ」

「持ってると、気持ちいいんだって」

「え?」


 気持ちいい……。


「どう思う?」

 彼女が俺を見る。


「どうって言われても……」

 これは微妙な話題だな?


「白ネズミ、私には見せてくれないんだけど。グレイくんは好き?」

「俺は見たことないから……」

「興味ある?」

「まあ、あんまり、興味ないかな」

 彼女の視線にさらされると、そんなことしか言えませんね。


 そうしたら、彼女がにっこり笑ってうなずいた。

「よかった!」


 よかった!

 よくわからないけど本当によかった!


「お兄ちゃん、自分はちゃんとやってるみたいなこと言ってたくせに、白ネズミ追いかけてたんだ。言いつけちゃおう」

 彼女がぶつぶつ言いながら、もりもり木の実を食べる。


「じゃ、悪いけど、町にもどりたいからついてきてくれる?」

 俺が言うと、彼女はふしぎそうにした。


「帰るの」

「そりゃあ」

「どうして?」

「どうして?」

「私と、続きしようよ!」

 彼女は言った。


「え? あ、うん、じゃあ……」

「やった!」


 彼女はにっこり笑って俺の手をにぎった。

「ひっ」

「グレイくんは、魔物苦手なんでしょ?」

「あ、ああ、あああ、ああああ」


 俺の頭がぶっこわれかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ