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02 彼女の距離感

 冒険者ギルドに入ると、正面に冒険者用受付カウンターがある。


「あの」

 声をかけると、担当の女性が書類から視線を上げた。


「はい、いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

「あ、名前はグレイといいます。これを」


 俺は、依頼者からもらえる、仕事の完了証明書を提出した。

「……はい、たしかに。では報酬の100ゴールドです」

「どうも。あと、昨日申し込んだ仕事がどうなってるか知りたいんですけど」

「少々お待ち下さい」


 女性は紙束を取り出し、ざっと見ていく。


「はい。グレイ様が申し込まれた案件は二件ですね。一方は他の方に決まりましたが、もう一方は、先程依頼者の条件に変更があるという手続きが終わったばかりです。すぐ変更を確認したいということでしたら、こちらで少々お待ちいただくことになりますが……」

「じゃあ、そこの求人見てます」

「かしこまりました。では、終わりましたらすぐお呼びしますので」


 俺は、ぶらぶらと、入り口近くの掲示板に向かった。

 すでに冒険者がならんで、求人票を見ている。


 目立つのは、魔物と戦う求人だ。

 冒険者にはもちろんそういうのが大人気。

 魔物と戦って勝つ! かっこいい!


 でも俺は興味ない。

 だって危ないから。

 ケガしたり、死んだりしたくないもんね。

 手続きをしてもらってる仕事も安全だから、とっても大切なのだ。


 他の、強そうな冒険者がならんでいるすき間から、求人をのぞく。

「これいっとく?」

「泊まりじゃん」

「泊まりいいじゃん」

「この前泊まりで刺された虫薬代にさ、1000ゴールドかかってさー」

「まじで?」


 おしゃべりをしてるだけなら、どいてくれないかな。言えないけど。

 なんて思っていたとき。


 そのときだ。

 ギルドに入ってきた三人に、冒険者たちがはっとしたようになって、いっせいにそちらを見た。


 男、男、女の三人組だ。

 もう、見るからに絵になるというか、目を引く三人だ。

 ごつい男前と、すらりとしたわかりやすい男前と、美少女。

 あの美少女は。


 昨日の美少女だ。ハンバーグ美少女。


「おれたちはウィリアム家と話をつけてくる。リリアは、ちょっとここで待ってろ」

 ごつい男前が言った。

「わかった」

 ハンバーグ美少女はうなずく。

「変な男には気をつけるんだぞ」

 ごつい男前が低い声で言いながら、じろーり、と掲示板近くにいた俺たちを見ていった。


 男たちすぐ、急用を思い出したとばかりに、足早にギルドを出ていった。


「けっ。腰抜けが」

「いいじゃないか」

 わかりやすい男前が笑う。


「お前はなんだ」

「え、え」

 ごつい男前がこっちに来る。


 でっか。

 俺の頭が、彼の胸くらいの高さしかない。

 手もでかい。フライパンくらいありそう、は言いすぎか? 手のひらで頭のてっぺんを叩かれたら、そのまままっすぐ全部つぶれて、ぺちゃんこになりそうだ。


「お……」

「お?」

「オレ、ウケツケ、テツヅキチュウ、マチジカン、デス」

「ふん」

 ごつい男前が興味なさそうに言うと、美少女に向き直った。


「じゃあな」

「じゃあね」

 男たちが出ていく。


 ふう。

 つぶされるかと思った。

 

 なんだったんだろう。

 美少女の彼氏かなにか?

 こわいとか感じることもできないくらいのインパクトだった。

 同じ人間なんだろうか。魔族じゃないの? でかすぎでしょ。


「どんな仕事探してるの?」

「……」

「ねえ、どんな仕事?」

「……え?」

 見ると、美少女は俺を見ていた。


「あ、仕事、探してる」

 まだ男への恐怖感が残ってカタコト。


「どんな?」

「あの……、町の中でできる、作業とか……」

「町の中の作業?」

「あ、俺は、そういうやつをよくやってるから……」

「そんな仕事があるの?」

「あ、はい……」


 住んでる世界のちがう感がすごい。


「じゃあ、こういうの?」

 美少女は下の方に張り出されていた求人を指した。


 倉庫の荷物整理手伝い募集。一日100ゴールド。

「あ、まあ、内容はこういうことだけど」

「やった」

 美少女がなぜかうれしそうに言う。


「でも、こういうのはよくないんだけど」

「どうして?」


「この求人ってなにをするのか詳しく書いてないから。そういう求人を出すところって、金を払ってやってるんだからって、あれもやって、これもやって、ってどんどん追加で仕事をさせようとしてくるんだよね。特に荷物整理系は」

「へー」

「むしろ、500ゴールドとか、1000ゴールドとか、そういう求人のほうが、お金と見合った仕事を要求してくることが多くて、安心なんだよ」

 ふつうに大変だけど。


「知らなかった」

 美少女が感心したように言う。


「じゃあこういうの?」

「どれ?」

 俺が見にくそうにしたのがわかったのか、美少女は上の方にあった求人の紙をはがした。


「これ」

 彼女は一緒に見ようと俺の横に来て、のぞきこもうとする。



「そっち持って」

「えっ……」

 くっついてきた肩。

 美少女が右手で紙の右側を持ち、俺が左手で紙の左側を持つ形になった。


 ちょ、ちょちょちょ!

 き、君はなんとも思わないかもしれないがね、俺はなんとも思うんだよ!

 肩からうっすら伝わる体温。

 なんともいえない共同作業。

 顔が熱くなってきた。

 汗が出てくる。

 頭は真っ白。


「これはどう思う?」

「あ、えっと」

 右を向けば美少女。

 ひー!

 うれしいストレスで頭がおかしくなりそう。


「い、いいかもしれないね」

 俺はろくに内容も見ずにいう。

「やった」

 至近距離の美少女にっこりー!

 はい、脳が焼ききれました!

 死んだ! 俺死んだ!

 

「おーい、リリア」

 そのとき入り口に男の声。わかりやすい男前の方が顔を見せた。


 この状況を見られたら彼らに断罪されてしまうのでは!


 そう思ったときには、もう美少女は紙から手を離して入り口に歩きだしていた。

「あ、終わった?」

「ああ」


 男は美少女に微笑んでから、ちらっと俺を見る。

 尋問?

「じゃ、行こう」

「ああ」


 二人はギルドを出ていった。

 許された。


 俺は、手に残った求人の紙を見た。

 見るだけで記憶が刺激され、さっきまでの脳が焼ききれそうな思いが、よみがえってきそうだ。

 これはおそろしいアイテムを手に入れてしまった。

 部屋の机にしまっておいて、つらいことがあったら見よう。


「……レイさん、グレイさん! ちょっとあなた、聞いてます!?」

「あわっ!」


 いきなり横に人がいた。

 受付の女性だ。


「なんですか、急に」

「何度も呼んでました!」

 受付女性が、さらに大きな声で言う。


「困りますね! これ!」

 女性は、美少女から渡された紙を指した。


「冒険者に登録したときに、勝手に求人の張り紙をはがすのは絶対にやめてください、とお伝えしましたよね!」

「あっ」

 そういえばそうだ。


「これに関しては、絶対にやめるようにと、はっきり、何度も言っているのに、いつまでたっても……」

 女性のイライラがすごい。

 冒険者たちに悩まされてきたのだろう。


「あの、でもこれは」

「なんですか!」

「いえ、すみません……」

「まったく……。きちんと貼り直しておいてくださいね!」

「はい、すいません……」

 このアイテムは返却しなければならないのか。

 残念だ。

 

 そういう思いを抱えながら貼ろうとしたら、あ! と女性が言う。


「それは端が破れてますから、ちゃんと新しいものにしてください!」

「え、じゃあこれ、持って帰っていいんですか!?」

「はい!?」

 受付女性が、怒りと驚きと困惑と、あとなにかをごちゃごちゃに混ぜたような複雑な顔で俺を見ていた。



 受付女性の鋭い視線を背中に受けつつ、貼り直した。

 新しい用紙代10ゴールドとられた。

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