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19 研修 集合

「こちらをどうぞ」

 受付で女性に渡されたのは、ある紙だった。


「冒険者の研修クエスト、ですか」

「はい。最近の、冒険者の能力向上計画のひとつです」


 全員参加で、決められたクエストを、ランダムに選ばれた冒険者の組み合わせで挑戦するのだという。


「研修ですか……」

「はい。冒険者の意識を改善するもので、今回は、冒険者間の連帯感についての改善ですね」


 ええー……。


「あれ、これって、魔物と戦う計画になってませんか?」

「行動範囲は、魔物も出る場所です」

「じゃあ、今後、魔物を倒す予定がない人は、参加しなくてもいいんですかね?」

「は?」


 受付女性が、強めに言った。

 一応言ってみただけですので、そんなに本気にならないでほしいです。


「……質問なんですけど、もしそれをやらなかったら」

「現在当ギルドでは、定期的に魔物を倒す、という仕事をやっていっていただく流れになっていることはご存知ですよね?」


 受付女性は途中からやや早口で、強めに言った。


「はい……」

 こわい。


「ですから、当ギルドでは、そういった方を冒険者として認めることは難しくなります」

「ですよね! 研修はいつからですか?」

 俺は愛想よく言ってみた。



「冒険者全体を、初級、中級、上級、超級と分けます。級によって異なりますが、グレイ様は初級ですので、二日後ですね」

「二日後」

「朝から夕方までの時間を確保していただき、魔物が出るとされる範囲の巡回をしていただきます」

「あ、かならずしも魔物と戦うわけではない?」

「はい」


 おおー……。

 それはいい情報だ。


「初級でしたら、町の北にある森での研修ですので現れる魔物もおとなしいものが多いです」

「なるほど」

「四人で対応すれば、負けるようなことはないでしょう」

「四人?」

「はい」

「それは……、もし、気が合わなかったら、変えてもらえるんですか?」

「なんのためにランダムだと思ってるんですか?」


 強めに言われた、再び。


 これが、初めての相手でもうまくやれるようにする研修だろうということは、おおよそわかっている。

 わかっているけれども、もしかしたら、と思って。

 一応。


 そりゃ、受付女性にとっては、俺とのやりとりはめんどくさいでしょうけど。

 でも俺はそんなことやりたくないんだし?

 それくらいきいてもいいと思いません?

 どう思います?

 そんな苦情は言いませんけどね?


「これを引いていただいて、日程、メンバーを決めます」


 そう言って受付の女性は、中央に穴が空いた箱を出してきた。中は見えない。

 俺は手を入れて一枚紙を抜いた。緑色だった。


「はいかしこまりました」

 女性は紙になにか書き込む。


「その紙は、当日もお持ちください」

「わかりました」

「グレイ様、初級研修、受付完了いたしました。日程は明後日の朝から夕方です」


 そう言われて急にこわくなった。


「あの、もしすごい強い魔物が出てきたりとかしたらどうなるんですか」

「はい?」

「金銭的な補償がされる程度だったら、行きたくないんですけど」

「初級には、超級から冒険者がひとり、安全管理役として加わることになっています。ですからご安心ください」

「その人はすごく強いんですか?」

「強いです。超級の冒険者がやられるような魔物は出ません」

「でも、もし出たら……?」


 受付女性はすこし考えて、言った。


「北の森にそんな魔物が出るようでしたら、この町も壊滅するかもしれません」

「あ、そうですか」

「はい。では」

「はい」




 当日の朝。

 ほとんど抜いたことのない剣を腰に差し、俺は広場に向かった。


 行ってみると、思ったより人がいない。


 赤、青、緑色の旗がかかげられているのが見えた。


「初級、参加者のみなさんは、それぞれの色にわかれてくださーい!」


 大声で呼びかけている男がいた。研修運営の人だろう。


 カバンの中にある緑色の紙を出して、緑の旗のところへ歩いていった。

 たどりついたら、急に三人の男が近づいてきた。

 全員体が俺よりでかい。


「あ、ちっす、緑班っすか?」

 一番体が大きい男が話しかけてきた。

「あ、はい……」

「おれはヤッカラっす」


「ど、どうも、グレイです」

「グレイ君っすか。なんか、ギルドとかであんま見たことないっすね」

 ヤッカラという男は俺を頭から足先まで見ていく。


「あ、そうですね、あんまり俺、魔物と戦わないんで……」

「え、なんでっすか?」

「いや、まあ、あんまり戦うの好きじゃないんで……」

「へー! 変わってんすねー」

 体もでかければ声もでかい。


「いや、あの、それと、俺の方が年下だと思うんで……」

 俺は背中を丸めながら言った。

「え? 何歳っすか?」

「17歳」

「おれ15っすよー! 先輩じゃないっすかー、せんぱーい!」

 バン、と背中をたたかれた。


 おっとと、とよろける。


 もう帰りたいぞ。


「こいつら、ヨッコラとドッコラも全員15なんで、よろーっす」

「ういー」

「いえー」

 と二人が手をあげる。


「……」


 逆に帰るか?

 あえて帰るか?

 単に帰るか?


 どうする俺、どうする……!!


「なあ、グレイ君は、あんま魔物とか戦うの得意じゃないみたいだからよ、おれらメインで戦ってこうぜ」

『ういー!』

 三人は拳を突き上げていた。


 ……悪い人じゃないのかもしれない?


「それじゃあ、各班! 超級の監督を加えて、出発するように!」


 赤班、青班へ、近づいていく冒険者が見えた。

 比べてみるとやっぱり、落ち着いてるし、動きが静かだ。体も大きい。

 と思ったら、青班は女性か。俺が十人に増えて襲いかかっても、瞬時にやられそうだ。


 そうか、女性の可能性も……。

 ということは?


 彼女が……?

 まさか……?


「おれがこのパーティーの監督のバリーゴだ。よろしくな」


「えっ?」


 いきなり現れた、ごつい男前。

 彼女の兄2、バリーゴさんだ。


 じろり、と俺をにらみつけてくる。


「よろしくな。グレイ」

 低い声で言われた。


「あ、はい……」

 帰りたい。

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