表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

15 彼女と昼寝

「はい、こちら三点で、1500ゴールドのお支払いです」

 受付女性が現金との引換券をくれた。1000ゴールド券と、500ゴールド券。

「どうも」

 引換券とはいうものの、このまま現金としても使える。ただしお釣りがもらえない。かぎりなく紙幣に近いものである。


「今後とも、お待ちしております」

「どうも」


 俺はギルドを出た。


 早朝あれから彼女と、わかりやすい男前、じゃなくてサーフさんと一緒にネズミみたいな魔物を倒した。爪がなにか薬に使えるとかで、棒でたたいて、袋に入れて専門のお店に持っていったら、証明書をもらった。それをギルドに届けたところだ。


 報酬は一匹あたり500ゴールド。

 俺が一日かけて稼ぐこともあるような金額が、あんなにかんたんに。


 もしかして。

 冒険者から見たら、あのネズミみたいなやつがたくさんいるところって、小銭がたくさん落ちてるみたいに見えてるんだろうか。


 そうか、だからみんな魔物を倒すのが好きなのか。

 謎はすべて解けた!

 やらないけど。


 そりゃ、うまくいったらおいしいけど、うまくいかないときに大変なことになる。

 俺なんかきっと、おいしい話だと思って、おいしい! おいしい!

 おいしい! おいしい!

 ……死んだ。

 こうなるに決まってる。


 俺はきっと調子に乗る!

 そう、心に刻んで、安全に生きたい。



「ふあーあ」

 あくびが出た。


 まだ太陽は高い。

 でも眠い。


 考えてみれば眠くて当然だ。

 ふだんの半分も寝てない。

 今朝は眠くなかったけど、緊張してたのかな。


「ふあーあ」

「やっぱり、お昼ごはんを食べたら、眠くなるよね」

「まだ食べてないけど……」


 俺は立ち止まった。

 振り返ると彼女がいた。

 え?

 いつから?


「天気もいいし、昼寝する?」

「えっと、あの」

「一緒に寝る?」

「は、はいいい?」


 な、なんなななな、なにを!!

 一緒に寝るなんて、そそそんな!



「冒険者って、木の上で寝ることもあるんだよ」

 彼女に連れてこられたのは、町の中でもはずれの方の、木が生えていて、家がまばらなあたりだった。


「だから、グレイくんもそういう練習をしておいてもいいんじゃない?」

「そうですよね。わかります」


 一緒に寝る。

 それは、昼寝するだけに決まってるじゃないか!

 俺の心は汚れていた。

 まっくろだった。


「ちょっとやってみるね?」

 彼女はそう言って、軽く、太い枝に飛び移った。

 そこに座って、幹に背中をつけてもたれる。


「こういう感じ」

 ちなみに彼女がいる場所は、俺の身長の倍くらいの高さなのであった。

 完。


「……じゃあ、またなにか機会があったら」

 俺は軽く頭を下げ、立ち去る。

「え、どこ行くの」

 彼女は飛び降りて着地した。音は、すっ……、と消え入るようにかすか。


「俺は、この木に飛び移るのも、登っていくのも無理そうだから」


 手がかかりそうな枝はつかまったらすぐ折れそうな細いものしかない。

「じゃ、連れてってあげる」

 そう言うと彼女は俺の体を抱えあげた。

「ひょわっ」

 変な声を出した俺を連れ、彼女はひらりひらりと枝の上を飛び移っていた。

 あっという間に上の方まで。


「ここに座って」

 と、太い枝の上に座らされる。

 彼女はすぐ上の枝に乗った。


「うわっ」

「おっと」

 彼女が落ちそうになった俺の肩に手をそえた。


「あ、ありがとう……」

 一瞬見えた下、すっごい高く見えた。

 やばい。ケガする。


「下を見ないで、遠くを見るの」

「遠くを見る」

 そのまま落ちそう。


「背中をね。木につける」

「うん」

「足はぶらぶらさせないで、枝の上」

「え? 落ちるけど」

「そうしないと寝られないよ。背中は体重を全部かけるんじゃなくて、半分自分で座ってる気持ちで」

「座ってる気持ち」


 それで寝る。

 難しすぎだろ。

 そう思ったけど体が、すっ、と。

 なんか、はまった。

 この枝がそういう場所だったみたいに体がおさまる。


 もしかしてここは、ふだん彼女が寝てるところなんだろうか。

 だから形ができてる?

 それともたまたま?


 きいてみようかと思ったとき。

「ひっ」


 手を握られた。

「グレイくんが落ちないように、見ててあげる。寝てもいいよ」

 

 横を見ると、真横に彼女顔があった。

 彼女は、上の枝を脚で抱えるようにしてぶら下がっていて、逆さまのまま俺の手をにぎって話をしていた。


「いや、でも、そんな姿勢じゃ、つらいでしょ」

「こういうのも慣れだよ。おやすみ!」

「え、あ、はい……?」


 え?

 あ、え?

 どういうこと?


「あの」

 いったん、と思って彼女の手を離そうとしたら、強く握られた。


「危ないでしょ」

 彼女は言った。

「あ、はい……」


 それは正しい。

 俺もちょっと握り返した。

 彼女ももう一回握ってくる。


 横を見たら、にっこり笑顔。


 あっ。

 なんだこれ。

 なんだこれ!


 目をつぶる。


 とにかく、寝よう。

 忘れよう。

 無になろう。


 彼女の視線を感じる。

 彼女の手を温度を感じる。

 そしてここは高い木の上。


 ……。

 ……。

 ……。


 寝られるか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ