13 彼女と武器屋
「武器屋」
看板を読んでみた。
ここは武器屋の前である。
建物自体は、宿屋などと比べればずっと小さいけれども、道具屋の倍くらいありそうだ。
やはり扱っている商品が大きいと建物も大きくなるんだろうか。
などとグダグダ、どうでもいいことを考えながら、店の前をうろうろしている。
武器屋に来たのなんて、この町に来て以来だ。何年ぶりだろう。
なんか緊張する。
武器屋の店主の顔なんて覚えてないけど、どうせいかついおっさんがいるに決まってる。そこで俺がちょっとでも変なことを言ったら、はあ? という感じでにらまれるんだ。
いたたまれない。
「よし」
やっぱり帰ろう!
「どうしたの?」
「ひっ」
振り返ると彼女だった。
「武器買うの?」
「いや……? どうかな……?」
「一緒に見る?」
「えっ」
「こんにちはー」
彼女が俺の背中をぐいぐい押して、俺はそのまま扉を開けた。ちょっと!
すぐ前に槍を抱えた店主がいた。
いかついおっさん! 頭をつるつるにそっていて、体はムキムキ。
ぎろりとにらんでくる!
と思ったらにっこり。
「リリアちゃんいらっしゃい! あれ、めずらしいね、お兄ちゃんたちは?」
「忙しいって。あ、いつもの矢を買いに来たんですけど、ありますか?」
「あるよ」
店主は言いながらも興味深そうに俺を見る。
「あ、この人も武器を探してるみたいだから、一緒に探してあげようと思って!」
「お兄ちゃんたちは、彼のこと知ってるのかい?」
「うん!」
「ならいいがね」
そう言って、店主は裏に引っ込んだ。
なにがいいんだ。
「それで、グレイくんはどんなのがほしいの?」
「あ、武器はとりあえず見に来て、そのうちちゃんと見ようと思ってるんだけど、戦いとか行くし」
「そうだね。明日だよね」
「あ、うん」
明日か……。
緊張する……。
「それで?」
「それで、今日は俺じゃなくて、おばちゃんのおつかいで。杖を」
「杖?」
「なんか、それをかざすだけで光が出る杖がほしいんだって」
「ああ」
「この店にある?」
「うん」
「おまたせ」
店主が矢がぎっしり詰まった筒を抱えてやってきた。
「ありがとう!」
「こっちも、リリアちゃんたちが安定して買ってくれるから仕入れてるようなもんだから。いい儲けになるから助かってるよ」
店主は笑う。
「それで、こっちのグレイくんは、たいまつの杖がほしいみたいです」
「そこにあるよ」
店主が指した先には、箱に、てきとうに棒がたくさん入れてある。二十本くらい、剣くらいの長さの棒があった。
彼女が一本抜いた。
「はい!」
彼女が俺に手渡した。
「これ?」
ただの棒では?
「光るっていうから、先に宝石でもついてるのかと思った」
「ついてるよ」
店主が言う。
「棒の先に小さく穴あけて、細かい魔法石を二、三粒、入れてフタするんだよ」
店主の言うとおり、棒の先端には小さな金属部分があった。爪くらいの大きさで、カナヅチかなにかで打ったみたいにめり込んでいる。力づくでフタしてるんだな。あんまり高いものじゃなさそうだ。
「どうやって光らせるんですか」
「手に持ってれば光るよ」
「あ、でも俺魔力とかないんですけど」
「魔力なんていらないいらない」
店主が笑う。
「そのために魔法石入ってるんだから。ほれ」
店主は、たくさんある棒を一品抜いて、かざした。
「あっ」
先端がぼんやり光る。
「な?」
「わかりました」
俺も、持っていた棒をかざしてみる。
気持ちは魔法使い。
光れ!
光れ!
……?
光らないぞ。
「こうだよ」
俺の持っていた棒を、彼女が持った。
すぐ光った。即光だ。
激しい光ではなく、ぼんやりとしていた。暗い部屋でも、自分のまわりだけは明るくなりそうだ。こういうのを持って、ダンジョンなんかに行くんだろうか。
「ダンジョンに行くとき便利なんだよ」
やっぱり。
「あと夜も便利だよ。はい」
と彼女から棒を渡された。
しかし光は消えてしまう。
「あれ?」
持ち直しても、光が出ない。
「そうじゃなくて、こう」
「ひっ」
彼女が俺の手の上から、一緒に棒を持った。
薪割りを思い出す。
「こうやって、ちゃんと、杖をまっすぐ持つんだよ」
「ひっ」
俺の手が逃げそうになると、いっそう彼女がしっかりと俺の手ごと棒を握る。
「しっかり持って!」
「いや、あの」
彼女が俺の背後にまわって、体の前面を俺の背中に押しつけるようにしつつ手を握ってくる。
ぐいぐい来る。
「わかった、わかったから一回離れて」
「そんなこと言ってやらない気でしょ」
「やる、ちゃんとやる! あとでやる!」
「お兄ちゃんも、いつも口ばっかりだし」
「いや、あの」
なんの話だ。
後ろから俺の手をつかんでいるだけ。
その彼女の手が振りほどけない。
女の子を振りほどくということが心理的に、とかそういうことじゃない。
単純に力が強い。
でも彼女の体はやわらかい。ってバカ野郎!
「ほら、こうだってば」
彼女は親切に教えてくれている。
ただしかし、密着してくる彼女の体の感触は、そうした厚意をどうでもいいと思わせてくる。
とてもよくないことだ。
とてもよくないことだ。
「棒をまっすぐ立てればいいんだよ」
「ぼ、棒を立てる?」
「そう」
ううう……。
煩悩が!
俺は感触を感じる器官をゼロにするよう意識しつつ、目で、店主に訴えた。
助けてくれ!
男ならわかるだろう!
「……そうそう、荷物の整理をしなきゃなんないんだったな」
「えっ」
「なんかあったら呼んでくれな」
と言いながら、店主が俺にウインク。
えっ、ちが。
変な気の利かせ方しないで!
「こ、こう?」
俺は最後の力を振り絞って、棒をまっすぐ立てた。
棒をまっすぐに。
すると棒がぼんやり光った!
「そう!」
彼女はやっと俺から手を離してくれた。
「はあ、はあ」
俺はひざをついた。
「どうしたの? そんなに難しかった?」
彼女が不思議そうに俺を見ていた。
はい……。
難しかったです……。
いろいろと……。




