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12 失業危機と彼女

「えっ、どういうことですか」


 ギルド受付で、衝撃的な発表があった。


「ですからこれからは、冒険者には、最低限、魔物を倒すことを含めた依頼を最低、半年に一度はやっていただくという規定が加わりました。ですので、グレイ様にも、今後は魔物を倒す依頼をこなしていただく必要があります」


 受付の女性が淡々と言う。

 淡々と言うのはいつものことだけど、その内容はどうなの。


「なんでそんなことになったんですか」

「王都にあるギルドの本部から、そういう通達がありました」

「そんな勝手な……!」

 絶望ですよ!


「具体的には、冒険者を名乗る以上、魔物を倒すという任務をこなすことが自然である、ということです。そうでない人間が冒険者であるというのは不自然であると」


 そんなこと言い出したら、人間が魔法を使う、そういうのもきっと不自然でしょうよ!

 自然と不自然が共存する。それが世界というやつでしょうよ!


「で、でも、具体的になにか問題があったわけじゃないんですよね?」

「そうですね。ですが最近、他の町で、もっと冒険者に戦闘能力があれば被害を防げたというできごともあったようです。当ギルドとしても、この通達を採用し、方針のひとつとして今後もギルド運営をしていこうと考えております」


 なるほど、俺はわかりましたよ。

 でも世論はどうでしょうかね!?


 世論沈黙。

 抗議しているのなんて、俺だけだ。


 だってみんなは日常的に魔物を倒しているからね!

 それが好きだからね!

 おお、なんということだ。


「でも、魔物を倒さなくても、冒険をしていれば冒険者じゃないですか」

 と小さな抵抗。

「グレイ様は、冒険というよりも、町の近辺でのお仕事が多いようですが」

「ぐっ……」

 即矛盾。


「もちろん、それぞれの冒険者というありかたを否定するものではありませんが、冒険者、ということをもう一度考え直していただきたいのです」

「あ、はい……。あ、あの」

「なんでしょう」

「もし、もしですけど、冒険者として認められなくなってしまったら、このギルドの仕事を受けるというのは」

「できなくなる可能性は、非常に高いとお考えください」

「……ですよね。はい、わかってます、はい」


 俺は軽く頭を下げて、受付から離れた。


 とりあえず。

 とりあえず、食堂でなんか食べよう。

 満腹は精神の安定剤だ。


「いらっしゃいませ」

 隅の席に座るとウェイトレスがやってきた。


「あ、ベーコンと野菜の炒めものを」

「はい」

 めずらしくウェイトレスは笑顔で注文を受けると、厨房にそれを伝えに行った。


 仕事……。

 仕事……。


「おまたせいたしました」

「どうも」


 もうできたのか。いや、俺がいっぱいいっぱいだったから時間経過に気づかなかったんだ。

 やばいな。


 今日は忘れることなく届いたフォークで食べる。


「うーむ。仕事……」

「どうかされましたか?」

 ウェイトレスがまだ近くにいた。


「あ、まあ、ちょっと、仕事が」

「仕事ですか?」

 この人と世間話なんてしたことないな、と思いつつ続ける。


「俺、冒険者なんですけど」

「はい」

「でも、ほとんど魔物とか倒さないでやってるんですよ」

「そうなんですか?」

「でも今度、魔物を倒さないと冒険者として認めないっていう話があって」

「ははあ。倒せばいいのでは」

「魔物とか、危ないじゃないですか」

「そうですね」

「俺、危ないの嫌なんですよ」

「ははあ。それはまずいですね」

「まずいんですよ」


 俺とウェイトレスは、うーん、と一緒に腕を組んだ。


「あ」

 ウェイトレスが変な声を出した。

「はい?」

「うちで働くことはできますよ。うちって、ここですけど」

 ウェイトレスは床を指した。


「ここで?」

「はい。ウェイトレス、この時間はほとんど私しかいないのはわかります?」

「はい」

 ほとんどというか、完全にひとりしかいないのかと思っていた。


「ちょっと、ウェイターがいてくれるといいな、と言われてはいるんです。特に、冒険者経験者で。やっぱり冒険者心理もわかる人のほうが、ギルドの食堂でうまく立ち回れるじゃないですか」

「なるほど」

「だから、一緒にどうかな、と思って。あ」

 ウェイトレスは、おどろいたような顔をして、俺のうしろの方を見た。


 振り返ると、食堂の入り口に彼女が立っていた。

 無表情で、こっちを見ている。なんだかいつもと感じがちがう。


 と思ったら、すたすたと歩いてきて、俺の向かいの席に座った。

 じろりとウェイトレスを見る。

「ハンバーグください」

「あ、はい。他にはな」

「ハンバーグで!」

「はい、すぐに」


 ウェイトレスはあわてて厨房に注文を伝えに行った。


 そして彼女はこっちを見る。

 にらんでいる、というほどではないけれども、なんというか、責められているように感じる目つきだった。


「ええと?」

「どうかしたの」

 彼女は不機嫌そうに言った。


 それは、俺が君に言うことなのでは。


「いや、俺はなにも……」

「なにも?」

「まあ、困ってることならあるけど」

「困ってるの?」

「ギルドの方針変更、知ってる?」

「知らない」

「冒険者は、ちゃんと定期的に魔物を倒してないといけないってことで、そうしないと、ギルドの仕事をもらえなくなるって」

「ふーん」

 さすが、ちゃんとした冒険者は動じない。


「だから俺は仕事ができなくなるかも」

「……え!」


 彼女は急に席を立った。

 すぐ座った。なんなんだ。


「グレイくん、やめるの?」

 彼女は急に前のめりになった。

「やめたくないんだけど、やめなきゃいけないかと」

「それでそれで?」

「ウェイトレスさんに、ウェイターとかやらないかって誘われて」

 彼女はちらっとウェイトレスを見た。


「あ、なんだ、仕事の話してたの?」

「そうだけど」

「なんだ、なーんだ。仕事の話か」

 彼女は何度もうなずく。


 なに言ってるんだ?

 俺と彼女が、雇用主と従業員の関係だとでも思ったのか? そんな金があったら、いよいよ冒険者なんてしないぞ?


「それで、ウェイターやるの?」

「やらないかな。接客業はちょっと」

「じゃ、冒険者続けるんだ?」

「そうだね」

「ふーん」


 彼女はいつの間にか、ふだんどおりの笑顔になっていた。

 なんなんだ?


「じゃあ、解決だね」

「なんにも解決してないよ。どうにか魔物を倒さないと……」

「じゃ、私と行く?」

「えっ」

「私、魔物と戦うの慣れてるから、二人で行かない?」

 彼女はテーブルにほおずえをついて、俺を見た。


「あ、え、二人で?」

「だめ?」

「いいです!」

 すごく!


 彼女はにっこり微笑んだ。

「わかった。じゃ、一緒に行こ。そういう仕事さがしておいてね」

「は、はひ!」

 なんか変な声が出た。

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