表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

11 彼女の仕事

「うーん」


 日課の、ギルドの求人票をながめる。


 今日はだまし求人が多いな。

 ざっと読んで、お手伝い案件だと思って申し込みそうになったけど、よく読んだら、魔物と戦ってもらうこともあるって書いてある。さらによく読むと、仕事をする場所は町の壁の外だし、時間帯は夜になることもあるって書いてあるし、人数はすくないし。

 これ、戦うでしょ。


 これはいけない。

 冒険者全員が魔物と戦いたいと思ったら、おおまちがいだぞ!

 いのちだいじに!


 でも最近、そういう案件が多い気がする。


 もしかして、魔物と戦う要素があるほうが喜ばれると思って、付け加えてるんだろうか。

 依頼する側のポイントとして、誰かアドバイスしている可能性もある。

 魔物と戦う要素が入っていると、冒険者の応募が増えるとか。

 これはいけない。


 戦いとは、平和のためにあるものであって、平和を乱すものではいけないのだ……。

 戦いは、なくせるものならなくすべきなのである……。



「ん?」

 これは。

 端の方にあった案件にこうあった。


 薪割り募集。お茶をするのが好きな人。報酬は1万ゴールド。


「なんだこれ」


 おいしい求人だ!

 と思うのは素人である。

 おかしい。

 おいしすぎる。

 こういうのはよく見なければならない。


 ポイントは、お茶をするのが好きな人、だ。

 お茶をするのが好きかどうかはきいているけれども、実際にお茶をするかどうかは書いてない。

 それに、報酬1万ゴールドとは書いてあるが、日時に関することが書いていない。

 全体的にスカスカすぎる。

 そこから導き出される結論は。


「そうか、そうだったんだ」

 謎はすべて解けた。


 薪割りが仕事なのは本当だろう。

 だが期間がない。

 つまり、拘束日数は、10日、いや20日くらいあるかもしれない。毎日毎日薪を割らせてやるぞ、というわけだ。

 それだけではない。なんだかんだと、仕事なんだからやってよ、と薪割り以外の雑用も追加してくる可能性がある。

 お茶、というのが鍵かもしれない。お茶をいれさせられるとか、お茶関係のゴミを掃除するとか。

 なにがあるかわかったもんじゃないな。


 冒険者を労働力としか見ていない人間が出した依頼にちがいない。

 腹立たしい話である。


 まったく!

 俺はギルドを出た。


「こんにちは」

「うわっ」

 彼女が立っていた。


「こ、こんにちは」

 いきなり彼女は心臓に悪い。

 目には、うれしい。


「いい仕事あった?」

 彼女がにこにこしながら言う。


「え?」

「グレイくん、仕事探しに来たんでしょ?」

「あ、うん」

「どう? いい仕事あった?」

「いや、別に」

「なんで!?」

 彼女は目を見開いて言った。


「なんでって、いい求人がなかったから」

「あったでしょ。え、あったでしょ?」

 なぜ言う。

 なぜ二度言う。


「あ、まあ、ふつうに魔物を倒したりする人なら、いい仕事がたくさんあったかもしれないけど」

「グレイくんにぴったりの仕事あったでしょ? 薪割りで、お茶をする」

「え? なんで知ってるの」

「……」


 彼女は黙った。

 俺も黙った。


「えっと私、さっき見たから」

「なるほど」

「それはともかく!」

 彼女がちょっとイライラしたように言った。


「どうしてやらないの!」

「えっと……。なんか、仕事内容が漠然としてたし」

「漠然?」

「報酬は多かったけど、ああいう求人って、実は期間がすごく長くて、お得じゃないっていうことがあるから。書いてないことを、さも当然みたいにやらせようとしてくるっていうか」

「そうかなあ」

 彼女は、うーん、と首をかしげる。


「私はきっと、薪割りして、お茶するだけだと思うよ?」

 彼女は言う。

 きっとふだん、求人を見るのは兄たちなんだろう。だからわからないのだ。


「そういうふうに見えるけどね」

「だいじょうぶ、追加の仕事なんかないから!」

「なんでわかるの?」

「……直感、かな?」

「まあ、戦いでの直感ならともかく、求人の直感は俺のほうが確かだと思うよ」

「うーん」

 彼女がうなる。


 そのときギルドの入り口から誰かが現れた。

 受付の女性だった。


「ちょっといいですかグレイ様。さきほどは、他の方に決まった求人ですが、いまキャンセルが出まして、申し込み手続きが可能になりました。いかがいたしますか?」

「あ、じゃあ、お願いします」

「かしこまりました。それとちょうどよかった、リリア様」

「はい?」


 受付の女性が、手にしている紙束をパラパラめくる。


「リリア様が依頼された033番のお仕事ですが、やはり募集内容にあいまいな点が多く、詳細な内容を求める意見がいくつかありました。修正されますか?」

「あっ、えっ、あっ」

 彼女が俺をちらちら見る。


「お茶、というだけであったり、仕事の期間もありませんし」

「あー! あー!」

 彼女が大きな声を出しながら、チラチラ俺を見る。

 受付女性が不思議そうにする。


「それに、リリア様のお名前があったほうが、申し込まれる確率も上がるでしょうから」

「あの!」

 彼女が受付女性を真正面から見た。


「は、はい」

 さすがのいつも冷静な受付女性も、すこしたじろいでいた。


「それ、き……!」

「き?」

「キャンセルします!」

「よろしいのですか? 手数料は全額お返しすることはできませんし、いまキャンセルということですと、このまま申し込みを待たれたほうが得ですが」

「キャンセルします!」


 そう言い残し、彼女は猛然と走り去った。


 俺は、首をひねる受付女性と一緒に、彼女が起こした土煙を見ていた。

 なんだったんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ