11 彼女の仕事
「うーん」
日課の、ギルドの求人票をながめる。
今日はだまし求人が多いな。
ざっと読んで、お手伝い案件だと思って申し込みそうになったけど、よく読んだら、魔物と戦ってもらうこともあるって書いてある。さらによく読むと、仕事をする場所は町の壁の外だし、時間帯は夜になることもあるって書いてあるし、人数はすくないし。
これ、戦うでしょ。
これはいけない。
冒険者全員が魔物と戦いたいと思ったら、おおまちがいだぞ!
いのちだいじに!
でも最近、そういう案件が多い気がする。
もしかして、魔物と戦う要素があるほうが喜ばれると思って、付け加えてるんだろうか。
依頼する側のポイントとして、誰かアドバイスしている可能性もある。
魔物と戦う要素が入っていると、冒険者の応募が増えるとか。
これはいけない。
戦いとは、平和のためにあるものであって、平和を乱すものではいけないのだ……。
戦いは、なくせるものならなくすべきなのである……。
「ん?」
これは。
端の方にあった案件にこうあった。
薪割り募集。お茶をするのが好きな人。報酬は1万ゴールド。
「なんだこれ」
おいしい求人だ!
と思うのは素人である。
おかしい。
おいしすぎる。
こういうのはよく見なければならない。
ポイントは、お茶をするのが好きな人、だ。
お茶をするのが好きかどうかはきいているけれども、実際にお茶をするかどうかは書いてない。
それに、報酬1万ゴールドとは書いてあるが、日時に関することが書いていない。
全体的にスカスカすぎる。
そこから導き出される結論は。
「そうか、そうだったんだ」
謎はすべて解けた。
薪割りが仕事なのは本当だろう。
だが期間がない。
つまり、拘束日数は、10日、いや20日くらいあるかもしれない。毎日毎日薪を割らせてやるぞ、というわけだ。
それだけではない。なんだかんだと、仕事なんだからやってよ、と薪割り以外の雑用も追加してくる可能性がある。
お茶、というのが鍵かもしれない。お茶をいれさせられるとか、お茶関係のゴミを掃除するとか。
なにがあるかわかったもんじゃないな。
冒険者を労働力としか見ていない人間が出した依頼にちがいない。
腹立たしい話である。
まったく!
俺はギルドを出た。
「こんにちは」
「うわっ」
彼女が立っていた。
「こ、こんにちは」
いきなり彼女は心臓に悪い。
目には、うれしい。
「いい仕事あった?」
彼女がにこにこしながら言う。
「え?」
「グレイくん、仕事探しに来たんでしょ?」
「あ、うん」
「どう? いい仕事あった?」
「いや、別に」
「なんで!?」
彼女は目を見開いて言った。
「なんでって、いい求人がなかったから」
「あったでしょ。え、あったでしょ?」
なぜ言う。
なぜ二度言う。
「あ、まあ、ふつうに魔物を倒したりする人なら、いい仕事がたくさんあったかもしれないけど」
「グレイくんにぴったりの仕事あったでしょ? 薪割りで、お茶をする」
「え? なんで知ってるの」
「……」
彼女は黙った。
俺も黙った。
「えっと私、さっき見たから」
「なるほど」
「それはともかく!」
彼女がちょっとイライラしたように言った。
「どうしてやらないの!」
「えっと……。なんか、仕事内容が漠然としてたし」
「漠然?」
「報酬は多かったけど、ああいう求人って、実は期間がすごく長くて、お得じゃないっていうことがあるから。書いてないことを、さも当然みたいにやらせようとしてくるっていうか」
「そうかなあ」
彼女は、うーん、と首をかしげる。
「私はきっと、薪割りして、お茶するだけだと思うよ?」
彼女は言う。
きっとふだん、求人を見るのは兄たちなんだろう。だからわからないのだ。
「そういうふうに見えるけどね」
「だいじょうぶ、追加の仕事なんかないから!」
「なんでわかるの?」
「……直感、かな?」
「まあ、戦いでの直感ならともかく、求人の直感は俺のほうが確かだと思うよ」
「うーん」
彼女がうなる。
そのときギルドの入り口から誰かが現れた。
受付の女性だった。
「ちょっといいですかグレイ様。さきほどは、他の方に決まった求人ですが、いまキャンセルが出まして、申し込み手続きが可能になりました。いかがいたしますか?」
「あ、じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。それとちょうどよかった、リリア様」
「はい?」
受付の女性が、手にしている紙束をパラパラめくる。
「リリア様が依頼された033番のお仕事ですが、やはり募集内容にあいまいな点が多く、詳細な内容を求める意見がいくつかありました。修正されますか?」
「あっ、えっ、あっ」
彼女が俺をちらちら見る。
「お茶、というだけであったり、仕事の期間もありませんし」
「あー! あー!」
彼女が大きな声を出しながら、チラチラ俺を見る。
受付女性が不思議そうにする。
「それに、リリア様のお名前があったほうが、申し込まれる確率も上がるでしょうから」
「あの!」
彼女が受付女性を真正面から見た。
「は、はい」
さすがのいつも冷静な受付女性も、すこしたじろいでいた。
「それ、き……!」
「き?」
「キャンセルします!」
「よろしいのですか? 手数料は全額お返しすることはできませんし、いまキャンセルということですと、このまま申し込みを待たれたほうが得ですが」
「キャンセルします!」
そう言い残し、彼女は猛然と走り去った。
俺は、首をひねる受付女性と一緒に、彼女が起こした土煙を見ていた。
なんだったんだろう。




