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01 ダイナミックな彼女

 冒険者用の食堂は、昼前だとガラガラだからよく利用してる。


 今日も、客はひとりしかいなかった。

 テーブルが十個以上ならんでいる店内の、すみっこにある二人がけテーブルが俺の定位置だ。

 吸い寄せられるように座って、ウェイトレスを呼び止め食券をテーブルに置き、ベーコンとじゃがいもの炒めものを注文した。


「はいかしこまりました!」

 ウェイトレスはバタバタと、厨房に通じる窓に頭をつっこんで、ベージャガ一丁! と大きな声で言うと、近くのドアからどこか行ってしまった。

 いつも以上に忙しそうだ。


 しばらくして戻ってきたウェイトレスは、ベージャガあがったよ! という厨房からの声と、出てきた料理をぴったりのタイミングで受け取ると、そのまま俺のところへ持ってきた。


「おまたせいたしました!」

 ウェイトレスは食券を受け取ると、そのまま、またドアを開けてどこかへ行ってしまった。

 そのドアが閉まる前、あの! とウェイトレスの背中に呼びかける声が聞こえた。


 食堂の中央の、四人がけのテーブルにいる少女の声だった。

 閉まったドアをまだ見て、がっかりしたように肩を落としている。


「フォーク……」

 そうつぶやいたように聞こえた。


 フォーク。

 見れば、彼女のテーブルには、ハンバーグと付け合せの皿、それとライスの皿があった。ハンバーグセットを頼んだんだろう。おいしいけどちょっとお高いのであんまり食べたことはない。


 そうか。

 彼女の手元にフォークもナイフも来ていない。ウェイトレスが忘れたんだろう。

 そういうことはよくある。現に、俺のところにはスプーンがあった。炒めものなのに。


 ウェイトレスが少人数でいろいろやってることも含めての値段、というところがあるのでこういうことは日常茶飯事で、厨房から料理が出てくる窓のところには、フォークやナイフやスプーンなど、いろいろな食器がウェイトレスが持っていく分より多めに用意されている。各自冒険者はそこから持っていくように、というわけなのだ。


 しょうがない。


 俺は席を立って、フォークを持って彼女のところに向かった。


 テーブルの前で立ち止まると、うなだれていた彼女が顔を上げる。


「あの、これ」

 フォークをテーブルに置くと、彼女の表情が、ぱあ……っ! と明るくなった。


「ありがとう!」

 その顔!


「いや、あの、別に」

 俺はギクシャクした動きなのも自覚しつつ、ギクギクシャクシャクと席にもどった。


 なななななんだあれは。

 美少女も美少女、ド美少女じゃないか。

 俺の人生で出会った中で一番の美少女じゃないか。


 うつむき加減だったから顔に髪がかかってよくわからなかったけど、ド美少女もいいところだ。不意打ち美少女はギクシャクするに決まってる。

 どうなってんだ。あれで冒険者なのか?


 いや、そういえば、戦天使とか呼ばれてる美少女がこのギルドにいたような気もする。そういえばあんな顔だった気もする。そんな絵をギルドの受付付近で見たような気もする!


 確認しようと美少女の方を見たら。


「あ……?」

 わけのわからないものが見えた。


「あーん」

 彼女はハンバーグにフォークを刺すと、まるごとそのまま口に突っ込んだ。


 小顔のほっぺたが爆発しそうなくらいふくらんでいたが、気にしないで幸せそうな笑顔でもぐもぐもぐもぐ食べていく。

 みるみるほっぺたが小さくなり、食べ終えた。


 続けて付け合わせのニンジンやらなんやらを一気にフォークに刺していって、持つところまで刺さっていったからバーベキューみたいなっている。

 それを、ノドを刺してしまうんじゃないかというくらい突っ込んで、すーっ、と引き抜いた。


 フォークにはなにも残っておらず、すっかり食べてしまったようだった。

 彼女は休む間もなく、今度はライスが盛られた皿を手にし、開いた口に皿の端をそえた。

 一気にフォークで口に中に流し込んでいく。

 またもやふくらむほっぺただったが、やはりみるみる食べていってしまう。


「ごちそうさまでした」


 彼女は言うと、席を立った。

 俺と目が合うと、にこっと笑って手を振った。

 俺も手を振った。



 ……まぼろし?

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