第八話 決意
「どうしたの?」茶髪にそう言われて顔を上げると茶髪が心配そうな顔で俺を見ている。
「いや」
「絶対、何か知ってるんでしょ。教えてよ」
「茶髪、お前には関係のないことだ」
「……、ずっと気になってたんだけど、とりあえずその茶髪ってのやめてくれない? 私には、姉崎 璃芭って名前があるんだけど」
「俺は、お前の名前を知らなかったからな。なら姉崎、これはお前には関係のないことだ」
「関係ある。だって、ノア大事だし」
「信じられないものを見せられて、その上死ぬ可能性もある」
「そ、それでも、私はノアが行方不明のままなんていや」
「お前が良くても、お前の家族はどうなる。お前が死んだら、悲しむだろ」
「そ……れは、あんたも一緒でしょ」
「残念。俺が死んで悲しむ家族は、俺にはいない」
「で、でもっ」
「なら、そのオトモダチが死んでたり、これから死んだり、お前を殺そうとしてきたりしてもいいんだな?」姉崎は黙りこんだ。
「ほら、理解出来ないんだろ。当たり前だ。ぬるま湯の中で守られて育って来たんだから。お前には無理だ。あきらめたほうがいい」
「あんたは、それが出来るっていうの?」
「ああ」
俺はそういうと、席を立って店の出口に向かう。
「ついて来るなよ」追いかけてきた姉崎に言う。
「だって、調べにいくんでしょ? だったら私も行く」
「……。勝手にしろ」どこまでしつこいんだこの女は。
あきらめて、黙って目的地に向かった。
目的地に到着した俺たちは、本で埋め尽くされた建物の中に入った。
中央にあるカウンターに進んでいく。
「はい。ご用件は」
「国立特殊生物学研究所の資料を」
「申し訳ございません。当館では取扱いがございません」話が違う。
なんだか、今日はうまくいかないことばかりだ。
「なら、館長を呼んでくれ」
「館長はただいま忙しく、お会いできません」調べもしないでよくもまあ。
そこへ、奥から髪の長い女が出てくる。
「館長がどうかしたのか」
「いえ、こちらのかたが館長にお会いしたいと」
「失礼、館長にどのようなご用件でしょうか」
「国立特殊生物学研究所の資料が見たい」
「ほう。お名前をうかがっても?」
「鈴木 了」
「ああ。あなたでしたか。これは、失礼。では、お手数ですがただいまより指紋認証を行います。こちらに」言われるまま、指を機械に乗せる。
「はい。確認いたしました。それでは、ご案内いたします」
「ちょっと」それまで居心地悪そうに黙っていた姉崎に引きとめられる。
「大変申し訳ありません。これから、こちらの方にお見せする資料は大変重要なものでございまして、事前にご予約を頂いていない方にはお連れ様といえどもご遠慮頂いております。今しばらくこちらでお待ちいただけますか?」俺が口を開くよりも早く、完璧な対応で女が答える。
「あ。はい」そういわれ、すごすごと姉崎は引き下がる。
「では、ご案内いたします」俺は姉崎に背を向け、女について歩きだした