第六話 『地下』
その後、俺が研究所に預けられたのではなく、半ば強制的に研究所の手によって親と引き離されたことを知ったりして、ようやく俺が学校に行かせてもらえるようになった今では立派な人間不信のクズになったのも仕方のないことだと思う。
それでも、吸血鬼を恨みつづけているのは、
なんだかんだといって大切に俺を育ててくれた研究所への義理立て、
では断じてない。
正直あんな不愉快なところ二度と戻りたくない。
一つはアミさんへの恩返し、もう一つはアミさんにも言った通り憂さ晴らしだ。
吸血鬼を異常に嫌悪する祖母のために、対吸血鬼の研究を始めた、とアミさんは言っていた。
憂さ晴らしをできる上に、恩人に恩返しができるならこれ以上好都合なことはない。
吸血鬼。
夜な夜な人間の町を出歩き気の毒な獲物の首に、噛り付く。
なんていうのは、云千年も前の話らしい。
吸血鬼どもは古代ギリシャが栄えていたころは、まだ人間に紛れ生活していたようだが、古代ギリシャが衰退していったころに現れた『女王』と呼ばれる珍しい女吸血鬼に導かれ『地下』に消えていったらしい。
そのころまでは『地下』との行き来も自由だったらしいが、『地下』に行った人間はほとんど誰も帰ってこないため、近づく人間も少なかったらしい。
そこでヘゲモネは吸血鬼を連れ『地下』に自分たちの王国を作り、人間との関わりを断つため『扉』を作り、『扉』以外の行き来ができないようにしてから、『扉』を内側から閉じたようだ。
研究所はこれまでに何度も『地下』の実態を調べようと試みたが、生命反応はおろか、そこに空間があるということすらも感知できなかったらしい。
過去の伝聞録によれば、
―その地は一年を通して、暗く、寒い。空は大きな一枚岩のようでどこまでもひろがっている。その岩の空は何に支えられるでもなくただそこに在る。時折落ちて来る岩は大地を打ち砕き、そこへ生きる紫色をした草花や木をもなぎ倒す。―とある。
しかし今まで数千年にわたり、見つからなかった『扉』がいまさら、みつかったのか。吸血鬼どもが絶滅したのか? ありえない話ではない。
ごちゃごちゃと考えていた俺は、いつの間にか寝てしまっていた。