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第五話 思い出

 あれは、幼少のころ。

 一度だけ訓練から逃げ出したことがあった。


 毒慣らし

 痛覚に慣れるための拷問訓練

 変装訓練

 演技指導

 戦闘訓練

 挙げていけばきりがない訓練に嫌気が差し、俺は訓練室の教官を張り倒しそっと部屋を抜け出し、しばらくは研究所内の監視カメラに映らないよう気を付けながら研究所内をうろついていた。



 どれくらいそうしていたのかはっきりとは覚えていないが、しばらくしてぱたぱたという足音が近づいて来るのがきこえた。


 どうしよう。


 焦ったおれは扉の前が三段ほどの段差になっているところに駆け込んだ。

 ぱたぱたという足音はどんどん近づいて来る。

 もうだめだ、そう思って泣きそうになっている俺のすぐ近くで足音が止まる。


 ところが、角から顔をだしたのは俺とそっくりの男の子だった。

 その子は俺を見て少し悲しそうな顔をした。

 この子はどこから来たんだろう、学校に行ったことのない俺は、人生で俺以外の子供に会うのは初めてだった。


 きっと俺はその子を不思議そうに見ていたのだろう。

 その子はにこっと笑って話しかけてきた。


「僕の名前は朔。君のお兄ちゃんだよ」

「サク? お兄ちゃん?」いきなり現れた「お兄ちゃん」に困惑して、言われたことを繰り返す。

「そう、朔。でも、僕が君のお兄ちゃんってことと、今日僕に会ったってこと。絶対ひとには言っちゃだめだよ」手に文字をかいて、字を教えてくれる。

「言わないよ!! 逃げ出してるのがばれたらチョウバツボウ行きだもん」

「ふふ。そーだね。そういえば、君の名前は?」

「オレ? オレは、了。大きくなったら、キュウケツキをいっぱいたおすんだ。そうしたら、ママとパパを返してくれるって、アミさんが言ってたんだ。だから、そのときは、朔も一緒にたたかえよな。」

「吸血鬼か。でも、殺しちゃったらかわいそうじゃない?」

「いーんだよ! だって、キュウケツキはすっごく悪いやつだって、たおさないとママとパパも危ないって、アミさんが言ってたもん!」

「また、アミさん、か。その人は、了の担当員?」

「うん。すっごく優しいんだよ。怒ると怖いけど」

「はは。それじゃあ、そろそろ戻ろっか」

「え? もう?」

「だって、怒られたくないんでしょ? それに了、一個カメラに写ってたよ? まあ、僕が差し替えておいたから安心しなよ」

「ほんと? オマエすごいんだな!」

「ありがと。さ、帰るよ」

「……わかったよ。また、会える?」

「んー、まあ。いつかね。じゃあ、僕は行くよ。じゃあね、了」



 こうして、俺の兄を名乗る人物は俺の前から去っていった。

 あれから、朔には会っていない。


 どこで、何をしているのだろう、子供のうちからカメラの映像をいじるようなやつだ。

 コンピュータに囲まれて生活をしてそうだ、勝手に想像して、朔には似合いすぎて笑えた。



 朔と別れた俺はというと、無事に訓練室に戻ったところで、知らない女にとっつかまった。


「こら、何してるの。今は訓練の時間でしょう?」

「……。ごめんなさい。オレ、オレ……」今にも泣きだしそうな演技をしながら、健気に謝る。

「ほーら。泣かないの。今回だけだよ?」そういいながら、その女は俺の手を放す。


 べえーだ。

 らくしょーだ、そう思いつつ、もうしません、といって訓練室に戻った。



 そのまま俺は訓練に戻り、俺が朔と会った日は終わった。


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