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第四話 歯車

 名前を呼ばれた当人はビクリと身を震わせ、自分を呼んだ茶髪のいる方へと向き直る。


「ノア。部活始まるよ? どした? こんなとこで」双子を引きつれた茶髪は近づいて来ると、スズキ ノアと俺とを交互に見比べる。 

「なんか、今日ノア変だよ? 話しかけてもうわの空だし、なんかいつもと違う」

「そうかな。心配かけてごめんね。三人とも。ほんと。いつもありがと」

「ねえ。やっぱり変だって」不安そうな顔をした茶髪がスズキ ノアの顔を覗き込む。


 俺の方に背を向けているスズキ ノアの顔は見えない。

 あと二分で約束の時間だ。

 まずい。


 こんな口の軽そうな奴らに見られるわけにはいかない。 

 こいつに色々言うハメになるのは何度目だろう。

 さすがにかわいそうにもなってくるが、背に腹は代えられない。


 ええい。


「悪いけど。他でやって」

「なん……でそんなことが言えるわけ」茶髪がキレた。

 失敗した。

 これでは余計に長くなる。

 どうしたものかと考えあぐねていると、先に言葉を発したのはスズキ ノアの方だった。


「璃芭。いいの。いつも迷惑かけてるのは本当だし。」

「でもっ」茶髪が食い下がる。

「ね」

「……わかった」なだめるように言われた茶髪は不服そうに頷くと、俺のほうを睨んだ。

「いつも。ごめん。もう、邪魔しないから」と俺に言うと再び友人に向き直ると

「ごめん。今日部活休む。璃芭たちの言う通りちょっと具合悪くて」というなり、歩いて行ってしまう。

 自由人だな、おい。

 助かったけど。

「待って。待ってよ」あわてて茶髪たちが追いかける。




 茶髪御一行がいなくなって二分。

 今度こそにじり寄るような抜け目ない足音が聞こえる。


「お待たせ~。いや、ゴメンゴメン。職員会議が長引いて」と足音の主があっけらかんとした様子で出てくる。

「別に。要件は」

「相っ変わらず愛想ってもんがまるでないねえ。まったくどこで落っことしてきたんだか。昔は、ってそんなに変わらないか」

「……」勝手なことを言ってくれるアミさんへの抵抗でだんまりを決めこむ。

「わかった。わかってるって。はいはい。早くしろってね。まったく、かわいげのない」

「……」

「無駄話はここまで。その様子だと特に問題はないみたいだし、本題に入るね。研究所からの連絡があるの。毎年『扉』の調査、点検が行われてるのは知ってるでしょ。今回夏の調査で、『扉』が見つかった」

「それって」                           

「そう。あなたがこんな目にあうハメになった原因。あなたの幸せだったはずの人生をめちゃくちゃにした吸血鬼どもがすむ『地下』へ繋がる『扉』」

「でも、なんでこのタイミングで」俺は湧き上がる興奮を必死に抑え、平静を装った。

「さあ」

「その『扉』は、使えるのか」

「まだ詳しいことはわからない。下手に動いて閉じられたら、向こうの化け物どもを潰す格好の機会を失う。次に開くのは何千年後かもしれない。そんなことは許されないからね、調査も慎重なんだよ。ただ、その可能性は高い。」

「早くしてくれ」

「一刻も早く、って? 」

「ああ。一匹、一匹に恨みはないが、こっちは一方的にとばっちりを食ったんだ。憂さ晴らしぐらい許されるだろ」

「はは。そう言いながら、絶滅させるつもりなんでしょ。そん時は一匹くらいは残しといてよ。興味があるからね。じゃあ、また連絡するけど気になることがあるんだったら、国立の図書館に行きな。あそこには『地下』の資料がたくさんある。名前を言って、セキュリティをパスすれば入れてもらえるはずだから」

「ああ。」

「ってことで、ばいばーーい」と手を振りながら去っていく。


 まったくすごい使い分けだな。

 そういえば昔、アミさんがあたし、他はダメだけど演技とかは得意なの、とか言っていた気がする

 。いや、そんなことはどうでもいい。


 やっと。やっとだ。

 十六年待ちわびた時が来たのかもしれないと、期待が膨らむ。

 アミさんには悪いが、吸血鬼は一匹残さず殺してやる。

 俺はそのために存在させられているのだからそれくらいのわがままは許されるだろう。


 俺の父親の家系は代々暗殺を請け負う一族で特殊な訓練を行い、強靭な肉体と精神力をもっていた、らしい。

 というのも、俺は父親に会ったことがない。

 いや、父親はおろか俺は自分の家族のだれにも会ったことがない。

 名前も顔も、何も知らない。

 ただ一度、俺は自分が兄だという人間にあったことがある。


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