第一話 出会い
楽しんでいただけたら幸いです。
六月。
入学から二カ月経った今、俺、鈴木 了は自分でも感心するくらい浮いていた。
朝、学校へ来ても声をかけられることもかけることも、もちろんない。
そんな俺の暇な時間の使い方といえば一択。
ヘッドフォンを付けて机に突っ伏す。
これに尽きる。
しばらくすると、ホームルームが始まったらしく教室が少し静かになる。
だが、このくらいで面を上げる俺ではない。
大体、周りの人間は俺がどうしていようと気に留めさえしないだろう。
「…で、スズキ… 」噓だろ。
突然聞こえた自分の名前に反応して顔を上げると、担任の横に立つ女と目があう。
綺麗だ、と思った。
整った鼻梁に白い肌、涼し気で印象的な瞳、光の下で艶めく赤みがかった暗色の髪。
どれもこれもが彼女の美しさを際立たせていて、目が吸い寄せられる。
「鈴木君?」担任が怪訝な顔で俺を見ている。
「あ。はい」
「大丈夫? ぼーっとして」
「はい」俺はバカみたいに同じ答えを繰り返した。
「そう? 良かった。じゃあスズキさんは鈴木君の前にすわってね」
さっき呼ばれたのは、俺じゃなかったのか。
担任の言葉に、はい。と言って近づいて来る女の後ろを見ると、さっきは気がつかなかった文字に気付く。
『雪 乃亜』
あれでスズキと読むのか。読めねえな。
バカみたいなことを考えている間にその転校生は俺の前まで来ていた。
突然目の前に差し出される手。
不慣れすぎるその状況に内心慌てる俺を追い詰めるように、その女はよろしくね。と言ってきた。
「……。よろしく。」
とりあえずそう言いながら差し出した俺の右手をしっかりと握ると、転校生は満足そうに笑い前を向いた。