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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢の新生活
9/42

1-8

 ルシアナと別れたエレンは、自分の教室に向かう。

 もちろん、はじめて校舎の中に入ったエレンは内部の構造など知る由もなかったのだが、入り口で地図を配布していたので、それほど迷わずに教室にたどり着くことができた。



 教室に入った時、エレンは何か異質な空気を感じた。


 教室に居るのは10名ほど。

 ひとクラス20人という事なので、約半数が既に教室に居る事になる。

 だが、そのほとんどが教室の後ろで立っている。


 机や椅子があるのに、だ。


 談笑している風でもなく、一点を見ている。


 その視線の先を追ってみると……猫が居た。灰色の猫だ。


 いや、本物の猫ではなく、猫の顔と尻尾を持つ魔族だ。

 魔族が教室で座っているのだ。


 目を瞑っているので、瞳の色はわからない。だが、背筋をピンと伸ばしているので、寝ているわけではなさそうだ。


 なるほど。敬遠して遠巻きにしているのも理解はできる。


 とはいえ、だ。

 魔族とは友好的とはいえないまでも、全く交流が無いわけでもない。

 商人の行き来もあるし、個人的な交流をもっている人びとだっている。


 なので、魔族がここに居ることだってあるだろう。

 おおかた、商家の子といったところだろう。

 珍しくはあるが、怖がるようなものではない。


 エレンがそう判断した時。


「エレン……様?」


 脇から名を呼ばれ、エレンがそちらを見ると小柄な少女が目に入った。

 ふたつに結んだ髪と、フリルが多めの服装から随分と幼い印象を与える少女ではあるが、教室に居るということは、同年齢なのだろう。


「なにか?」


 呼ばれた理由を尋ねると、少女は何やら慌てた様子で言葉を紡いだ。


「あ、あの、その、そこのくじで席を決めてください」

「くじ……?」


 示された方を見ると、教卓と思しき机の上に箱が置いてあり、黒板には番号が整然と書かれている。

 いや、所々番号が消されて人の名前が書かれている。


 どうやら、箱からくじを引き、引き当てた番号の席に座れということらしい。


「なるほど、ね。教えていただいて、ありがとう」


 エレンは少女に礼を言い、早速箱からくじを引く。

 引いた数字を黒板で確認し、実際の机の配置と見比べる。


「あら、まぁ……」


 思わずエレンの口から驚きの声が漏れた。

 引き当てたのは、先程の魔族の隣の席だった。


 この場合、くじ運が良いのか悪いのか。


 ともあれ、学園に入学しているような魔族であれば、とって食われるような事もないはずだ。

 隣の席でも問題はない。


 そう判断して、エレンは黒板に書かれた番号を消し、自分の名前に書き換えた。

 その様子を見ていたクラスメイトたちにどよめきが起こったが、エレンは無視して自席に向かう。


「魔族と同じクラスだとはおもわなかったわ。これからよろしくね」


 着席すると同時に、隣の魔族に話しかけるエレン。

 特別仲良くしようとまでは思っていないが、挨拶くらいはしておくべきだと判断したのだ。


 エレンの声と気配に目を開けた猫の魔族の瞳は金色だった。その中に縦長の黒い 瞳孔(どうこう)がある。猫そのままの目だった。


 ──いや、色が付いているのは瞳でなく、 虹彩(こうさい)だったかしら?


 エレンがそんな事を考えていると、魔族が声を発した。


「ビースト」

「え?」

「魔族なんて一括りにしないで。私はビーストよ。ニンゲンさん」


 ニンゲンとは、魔族が北の大陸の種族を総称して呼ぶ呼称だ。ほぼ全てがヒト族であるが、エルフやドワーフも少数ながら居る。


 なるほど。魔族も単一種族ではなく、多種族あると言いたいのだろう。確かに、魔族の見た目は様々だ。複数の種族が纏まっているのだろう。


「そう。ビーストというのね。私は見ての通り、ヒト族よ」

「この街の大部分がヒト族よね。正直見分けがつかないの。顔と名前が一致しなくても、許してね」


 確かに、エレンもビーストの中に彼女──声と口調、服装からして女の子だろう──彼女が混じっていても、見分けられる自信はない。


 そう。服装だ。

 この学園には制服というものがある。

 金のない庶民が貴族に紛れて学ぶのだ。服もそれなりのモノを用意しなければならないが、当然その金はない。

 なので、学校から制服が支給される。

 エレンも持ってはいるが、貴族は私服という不文律がある。……らしい。ルシアナからの情報だ。


 ともかく、エレンはこの魔族……もとい、ビーストの女子とは仲良くできそうだ。と判断した。


「よろしくね。私はエレン。顔を覚えてもらえると嬉しいわ」

「シャルトリューよ」


 お互いに名乗った後、エレンが右手を差し出すと、シャルトリューもその手を握って、


「アクシュ……ね。これは、ニンゲンの習慣? それとも、ヒト族だけ?」


 そんな風にたずねてきた。


「どちらかといえば、ヒト族の習慣かしら? エルフやドワーフの人たちは違うらしいわ」


 そう答えたエレンが好奇心のままにビーストはどうするのか尋ねると、シャルトリューは目を細めて見せ、


「こうするのよ」


 そう言うや、エレンが反応する間もなく顔を近づけ、鼻と鼻を触れさせた。


 離れて見ていた者には、ふたりが口付けを交わしたように見えただろう。


「え……あ……その……」


 シャルトリューが離れても、とっさの事態に理解が追いつかないエレン。そんなエレンに向かい、猫のビーストは、


「あなたの匂いは覚えたわ。これからよろしくね」


 そう言ってまた目を細めた。


「あ、あまりヒト族にはやらない方が良いわ。い、色々勘違いされそうだし」


 顔を赤らめてエレンが軽く注意する。


「ええ、知ってるわ」


 ああ、なるほど。この顔はイタズラを楽しんでいる時の顔なんだな。

 見た目だけでなく、性格も猫のようだ。

 エレンがシャルトリューに抱いた第一印象はそんな評価となった。


プロット段階ではココで出会うのって、猫獣人の女の子じゃなくて、筋肉盛りな黒オーガだったんですが……

どうしてこうなった?


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