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週のはじめの火曜日──正確には光曜日が最初ではあるが、多くの者が火曜日をはじめと認識している──エレンは学園に初登校した。
王立学園。
古くは初代国王が有望な5人の子供たちに自ら教育を行ったのがはじめとされる、由緒ある学園。とはいえ、建物そのものは何度も建て替えられていて、現在の校舎も5年前に建てられたものだという。最新の建築技術、最新の建材がふんだんに使われた校舎は、見た目こそただの煉瓦造りの建物ではあるが、その実態は下手な要塞よりも頑強な作りになっている。そんな作りになっている理由は、未熟な学生の魔法の暴発や喧嘩にも耐えうるようにする為と……「どこまで頑丈にできるか」という検証のためだという。
そんなうんちくをルシアナから聞きつつ、導かれるままにひとの集まる場所へと移動する。
「ここで、所属クラスを確認するのよ」
そうルシアナから説明を受け、人混みの中心を見ると、何やら掲示板のようなモノが見えた。
よくよく見ると、所属クラス名らしき表記の下に人の名前らしきものが並んでいる。その中から自分の名前を探し出さなければならないらしい。
ちなみに、1学年300人。2学年で600人もの名前が張り出されている掲示板である。先ず自分の目の前に書かれているクラスが1年のクラスか、2年のクラスかを確認する作業からだ。
「コレは……大変ね」
エレンの口からそんな言葉が漏れる。
とはいえ、当然といえば当然だ。いくら自分の名前とはいえ、1学年15クラス。1クラス20人ほどの中から見つけなければならないのだ。一応、音順に並んでいるようではあるが、骨が折れる事は変わらない。
「1年はもっと左の方ね。後で落ち合いましょう」
「はい」
2年のルシアナと1年のエレンとでは、名前が書かれている場所が離れている。ふたりはそれぞれ自分の名前を確認するべく、それぞれの学年のエリアへと移動した。
1年のエリアにたどり着くと、2ヶ所ほど人が多い場所があるが、その他は比較的空いている。エレンはその空いている場所の前に書かれている名簿から確認する事にした……が、そのいずれにも自身の名前を見つける事は出来なかった。残るのは混雑している2ヶ所のみ。
なぜ混雑しているのかはよくわからないが、後ろから見るのでは書かれた文字が見えない。
「【強化】」
仕方なく、エレンは強化の魔法を自分の目にかけ、視力を強化して人混みの後方から名簿を確認する。……が、このクラスも外れだったようで、自分の名前は無かった。
(最後も無かったらどうしよう……)
既に寮に入寮しているので、「実は入学できていない」といった事はありえないのだが、基本的に世俗から離れて生活していたエレンは、ここでも「居ないもの」と扱われるのかと不安を覚えた。
「エレン」
そんなエレンを呼ぶ声にはっと振り向くと、そこには……
「お姉様……」
「イヤね。なんて顔してるのよ。もしかして、名前が見つからないの?」
「はい……」
「あら、ミスかしら? 全部見たのよね?」
「いえ、まだあちらのクラスは……」
エレンが残ったクラスの方を指すと、ルシアナは明るく
「じゃぁ、そこで決まりよ」
と言ってエレンの手を引いて最後の名簿の前まで移動する。だが、そこはまだ混雑しているので、エレンが再び視力強化をしようとしたが、その前にルシアナの声が響いた。
「あなた達、いくら見ても、自分の名前が浮き出てくる事はありませんよ!」
凛と響くその声に、名簿を見ていた者達が振り返り……
「オライト家の……」「5大公爵家」などと囁く声が広がり、やがて皆他の名簿の元へと散っていった。
「ほら、貴女の名前があったわ」
ルシアナの言う通り、その名簿にはエレンの名が書かれていた。
「あった! ありましたお姉様!」
ルシアナの手を取り、喜びの声を上げるエレンに、ルシアナは慈しむように言う。
「もう、入寮できているのだから、名簿に名前があるのは当然でしょう?」
「そうですけど……」
冷静になってみれば、その通りなのだ。不安になる方が間違ってる。そんな自分が恥ずかしく、エレンは話題を変えるようと、気になった事を訪ねた。
「お姉様、先程のあれは何の事なのですか?」
「あれ?」
エレンの問いの内容はすぐにはルシアナに分からなかったようだ。
「ほら、自分の名前が浮き出る……とか」
「ああ」
その説明で理解したルシアナが、説明する。
「あの子達は、王子様と同じクラスになりたかったのよ」
「王子様?」
「ええ。貴女のクラスは第1王子のエイアンド様。そして、あちらには第2王子のラーテル様が在籍するのでしょうね」
「ええ……と?」
そう言われても、何故「名前が浮き出る」に繋がるか理解できないエレン。
「……そう、貴女は違うのね」
「……お姉様?」
「なんでもないわ。あの子たちは、王子様と一緒のクラスになりたかったのよ。だから、自分の名前が同じクラスに書いていないか、何度も確認していたの」
そういうこともあるのか。と、エレンはやっと理解できた。
「さ、そろそろ教室に行きましょう」
「はい!」
ふたりは並んでそれぞれの教室へと向かって行った。
クラス表に自分の名前が見つからないとムッチャ焦る。
ってダケの話です。