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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢の新生活
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1-6

誤字報告感謝です

「結構、色々買ってしまいました」

「新生活には色々と要り用でしてよ? むしろ足りないくらい」


 ふたりはあれから服や小物を買い揃えてゆき、今はオープンカフェでお茶を楽しんでいる状況だ。

 かなりの買い物をしたのだが、ふたりに荷物は無い。どこの店も寮まで届けてくれるサービスがあるので、荷物を持ち運ぶ必要は無いのだ。


「それにしても、その、今日買った……下着は少々派手だったのではないでしょうか?」


 エレンはそんな風に気になっている事を問いかけた。いつも身につけていた下着は飾り気のないシンプルなものばかりだったのだが、今回買ったのはレースや刺繍なども施されたものだったからだ。


「それなりに見せる機会もありますからね。公爵令嬢たるもの、油断はできませんよ」

「見せっ……!!」


 さらりと言い放ったルシアナの言葉に驚きの声をあげそうになり、すんでで思いとどまるエレン。ここは、街中のカフェなのだから。


「見せる相手なんていませんよ」


 小声でそう訴えるエレンだが、ルシアナは淡々と返す。


「ダンスやダンジョン実習で着替える時、女子には見せるでしょう?」

「あ……」


 そういうことかと、自分の思考に顔を赤くするエレンだが、すぐに着替えをするような授業があることを知って戦慄した。学園の情報を一切得られない生活だったので、常識レベルの事でも知らない事は多い。


「でも、見せる相手、居ないんだ?」


 どう対応しようかと思考の海に沈みかけたエレンだが、ルシアナの声に現実に引き戻される。ひとまずはその問題は棚上げにしなければならない。


「ええ、その、男の人とお付き合いもしていませんし、婚約者も居ませんし」


 貴族。それも公爵令嬢ともなれば、この歳になれば婚約者が居るのが普通だ。実際、ちらほらと婚約の打診もあったのだが、エレンは全て断っている。なにせ、男なのだから。コレがより上位の貴族からの誘いであれば断れなかったであろうが、クアマリン家は公爵家だ。より上位といえば王家しかない。次点で同格の5大公爵家だ。幸い、王家からも5大公爵家からも誘いはこれまで無かった。他国の王族も同様だ。表に出ない令嬢など、国内ですら名前が売れていないので、数件しか話が無いのだ。他国から縁談があるはずもない。


「それなら、私の弟なら、どう?」

「お姉様の……弟?」


 つまり自分……ではなく、実の弟のことであろうと、エレンは理解する。


「弟(ぎみ)がおられるのですか?」

「そうよ。貴女と同じ新入生。姉の私が言うのも何だけれども、素直な良い子よ。しかも、長男だから次期公爵!」


 非常な好物件である。女子ならすぐにでも飛びつきそうな案件だ。


 そう。女子なら(・・・・)


 今までなんとかかわしてきた縁談だが、ここにきて断り辛い難敵が現れたようだ。

 同室のお姉様で、同じ5大公爵家。どう断るのが波風を立てずに済むか……

 そんな事を考えたエレンだが、すぐにルシアナ自身が助け船を出した。


「ああ、やっぱり貴女も王子様狙いなのね……」

「え? 王子……様?」

「違うの?」


 ルシアナが語ったのは、この国の王子の噂だ。

 正妃が産んだ第1王子と妾の産んだ第2王子。継承権は第1王子が上ではあるが、正妃と王の仲は冷えきっており、妾にご執心。それ故に第1王子の立場も微妙となっていると。


 そのふたりの王子は、今年そろって学園に入学する。そして、未だ婚約者を決めていない。年ごろの娘たちは……今年と来年に在学する娘たちは皆、王子の目にとまる事を期待して婚約者を決めないでいるらしいと。

 おかげで、弟の婚約者も決まらずに苦労しているのだとか。


「貴女もそうなのでしょう?」


 と小首をかしげる仕草のルシアナは、普段のキツい印象とは違って、年齢相応の可愛さが溢れ出ている。

 並の男であれば、その場で求婚しただろうが、エレンはその魅力には気付かず、ルシアナの勘違いに乗ることだけを考えていた。


「ええ、恥ずかしながら、女の憧れ、プリンセスを目指そうかと!」

「あら、やっぱりね。ふふ、応援するわ」

「お姉様は違うのですか?」


 そうエレンが問うと、


「お父様からは狙うように言われているのだけど……」

「……乗り気ではないと?」

「後継争いが無ければ、考えたのだけれどもねぇ……第2王子のラーテル様の派閥が過激らしいのよ」


 最後の方は、小声でエレンに耳打ちするルシアナ。自然、エレンの声も小声となる。


「過激?」

「ええ、第1王子のエイアンド様のお命も狙っているとか」

「まぁ!」


 驚きはしたが、何とか声を抑えることに成功するエレン。それは、自身の境遇に似ている事で、身近でありふれた情報と言えるものだったからだろう。


「だから、どちらを狙うにしても、気をつけなくてはダメよ?」

「ええ、そうします」


 心配するルシアナの言葉に素直に頷くエレン。フリとはいえ、あまり王子に気のある素ぶりを見せすぎるのは、新しい敵を作るだけであろう。


「あと、婚約はともかく、弟とは仲良くしてあげてね」

「それは、もちろん!」


 エレンには友人と呼べる人物がこれまで居なかったのだ。あえていうなら、メイドのリリアであろうか?

 だが、かの能面メイドとは主従関係であるので、対等な友人とは呼びにくい。ルシアナとは良い関係が築けそうではあるが、対等な友人とは少し違う。

 なので、はじめての友人になれそうな存在に、エレンは胸を高鳴らせるのだった。

誰にも見せないならパンツに穴空いてても……(オイ

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