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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢と男装王子とチート令嬢

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4-1

 (つち)曜日の朝。エイアンドは心地よく目覚めた。

 先日心配したように、エレンの危機を夢に見ることもなくだ。


 そんな風に、朝からエレンの事を考えている自分に、少し戸惑いを覚えつつも、まんざら悪い気はしないエイアンド。


 エレンは、エイアンドにとって初めてできた()友達だ。

 いや、性別を偽って生活している中で、真に友人と呼べる者は男の中にもいないので、初めての友達と言うべきか。


 彼女とは表向きは婚約者となり、これからいろいろと迷惑をかけてしまうことも多い筈だ。

 それなのに、そのことごとくを受け入れる女神のような女性なのだ。

 長く男の中で生活をしているエイアンドは、彼女こそが男の理想が具現化した()()()()()に思える。


 ――胸だけは無いが。


 どうも、男どもは女の価値の大半を胸に見出しているらしいとエイアンドには感じられる。そう、例えば――ルシアナ・オライト嬢のように。


 彼女とはパーティで挨拶をされることはあったが、それほど近しい仲ではない。

 5大公爵家とはいえ、3女では姉や次期当主たる弟の後ろでつまらなそうにしていたイメージしかない。


 だが、先日会った時には間近で接する事になった。


 どうやら、寮ではエレンと同室……「お姉様」らしく、次の休みの日には一緒に出かける約束をしているらしい。


 ……そこにエイアンドも「プエラ」として参加できるように取り計らう。とエレンは言っていた。


 普通の上位貴族であれば、表向き平民のプエラと一緒に買い物など、嫌がるに決まっているのだが、あの女性(ひと)ならどうであろうか?


 上位貴族の娘にありがちな、わがままな娘とは違い、エレンの失敗を見ず知らずの平民に謝るような女性(ひと)だが、せっかくの休日に他人が入り込むのは良く思わないのではないだろうか?


 そんな事を考えながら、エイアンドは食堂に朝食の注文の通信を入れる。


 実を言えば、寮での王族の待遇はほかの者が思っているよりも良い。


 ひとり部屋というのは広く知られている事だが、世話役のメイドや執事を置くこともできる。――エイアンドも兄のラーテルも置いていないが。


 そして、いまやったように、食堂から自室に食事を持ってこさせる事もできる。

 これは、食堂のような場所で毒を盛られる危険を回避する為の方策でもある。

 くじで選ばれたふたりが料理し、さらにくじで選ばれた方が王族に供され、残った方は自分で食べる義務を負う。

 毒を入れれば自分が死ぬ危険があるというわけだ。

 食事を運ぶのも、毒の混入を防ぐ手順があるらしいが、エイアンドもそれほど気にしてはいない。

 そもそも、王族が最初に習得する魔法は無毒化の魔法なのだ。王族に毒は効かない。

 これはどこの国でも同じ事なのだが、意外なほどに知られていない。

 意図的に知られないようにしているようでもある。なにせ、効かないことを知らずに毒を盛ってくる者は反逆者なのだから。


 朝食が運ばれてくるのを待つ間、エイアンドは今頃はエレンも食事をする頃だろうかと考える。

 そういえば、彼女もそのお姉様であるオライト嬢も、公爵令嬢であるのに朝食は自室で作っているという。

 流石に夕食のほうは食堂で食べているようなのだが、朝だけとはいえ料理をするとは恐れ入る。

 貴族令嬢ならば、自分の家でも料理人を雇っているはずなのに。


 そういえば、とエイアンドは思い出す。オライト嬢の事情は知る由もないが、エレンは「実母と一緒に離れで暮らしていた」と話していたことを。


 パーティで会うクアマリン夫人の印象や、世間の噂話からすると、妾とその子供を離れに住まわせるような女性ではないと思うのだが、外面が良いだけだろうか?


 エイアンドがそんな事を考えている間に朝食が届く。

 ……塩はもう少し少ない方がエイアンドの好みだ。

 自分で作れれば、調節もできるだろう。


 ――料理を教えてもらうのも良いかもしれない。


 エレンと一緒に料理をする光景を夢想する。

 それは、とても女の子らしい行為に思えた。


 学園に……ローラポリスに来てから、やりたいこと、やれることが増えている。


 幻覚ではあるが、髪を伸ばすこともできるようになった。

 エイアンドは、エレンに教えられた術式で髪に幻覚をかける。


 たちまちその髪は伸び、掬い上げると、エイアンドの掌の上から水が流れるように零れ落ちてゆく。


 通常の幻覚よりもかなり魔力を消費するが、エレンの指導もあって何とかモノにすることができた魔法だ。


 昨夜の寝る前などは、風呂場で無駄に何度も幻覚の髪を洗ったりするほどお気に入りとなった魔法だ。


 贅沢を言えば、頭皮の方に感覚が無いことが不満だが、コレは自分で改良していこう。と魔法の研究書を買ったりもした。


 エイアンドが髪を指に巻き付けたり、編み込んでみたりと、ひとしきり髪で遊んでいると、そろそろ出かける時間となる。


 名残惜しく思いつつも、エイアンドは着替えを済ませ、幻覚を解いて部屋を出た。

 食べ終わった食器は、部屋の外に置いておけば寮のメイドが持って行く。


 ふとみると、兄ラーテルの部屋の前にも食器が置いてある。


 と、いうことはすでに学園に向かったということだ。

 兄の朝は早い。

 何をしているのかまでは知らないが、いつもあちこちに出向いて何か指示をしている。

 そして、頭も良くいつも何かを考えている。


 きっと、この国の将来のために、今できる事をしているのだろう。


 エイアンドはそんな兄を尊敬している。

 兄とはいえ同い年なのに、自分はまだそんなことを考えられない。


 兄のような者が王としての資質のある者なのだろうとエイアンドは考えている。

 きっと、自分が女でなくとも、そう思っただろうと確信もしている。


 自分の方はといえば、兄ほど働いてもいなければ、国の将来など考えられない。

 自分の秘密が漏れないようにするだけで精一杯だ。

 おまけに、継承権のない女だ。

 子供が産めれば……その子が男児であれば、その子の継承権が優先されるが、エイアンドには望むべくもない。


 だが、表向きはエイアンドは男で、第一王子だ。

 この国の法では自分が死なねば兄に継承権は引き継がれない。


 母は恐ろしいし、死ぬ覚悟もない。


 そんな自分はますます王にふさわしくない。とエイアンドは考える。


 いっそ、死んだふりでもしてどこかに隠遁しようかとも考える。


 そう、エレンと共に修道院で暮らすのだ。

 それは、魅力的な未来に思えた。


 そんな事を考えながら歩いていたエイアンドは、学園の正門でエレンと会った。


「おはようございます。エイアンド」

「ああ、おはよう。エレン」


 その笑顔はまぶしく美しい。

 そして、その首筋に見える痕は、昨日別れた時よりもハッキリしているように思えた。


ストックが心許ないので、しばらく週間更新にします。

次回10日です。

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