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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢のデート

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28/42

3-2

ブクマ感謝です。

 徐々に覚醒してゆく意識の中でエイアンドは微睡んでいた。


 いつも寝ている自室のベットにしては、少々硬いなと疑問を持つ。

 しかし、すぐに数日前より寮で寝泊まりしていることを思い出した。

 王族専用の特別なひとり部屋だとはいえ、所詮は寮の部屋だ。質が違う。


 だが、エイアンドにとってはそんな事はどうでも良い。問題は、今起きなければいけない時間なのか、という事だ。今日が何曜日かを、眠った頭で考えるエイアンド。


  ()曜日に入学し、諸々の諸注意を受けた。

  (みず)曜日には戦力測定をした。

 ならば、今日は闇曜日で休みだ。


 ──まだ寝ていられる。

 そう、エイアンドは結論付ける。


 闇。


 その単語で、エイアンドはとある少女の事を思い出す。

 かの女神の加護を受けたような、見事な黒髪を持つ公爵令嬢。

 キツい表情をして冷たそうな印象を与える彼女だが、その実ウッカリさんだという事をエイアンドは知っている。


 そんな彼女は、昨日の測定ではかなり挑戦的な格好をして男子生徒の注目を集めていた。

 無理もないだろう。あれほどキレイでしなやかな手脚を惜しげもなく晒されては……


「……ッ!!」


 瞬間、エイアンドの意識は一気に覚醒した。


 エレンの腕が飛ばされ、喰われた様を思い出したのだ。

 ……いや、違う。

 アレはエイアンドの見間違いだ。そして、その後謎の2人組に助けられたのだ。


 エイアンドは安堵の息を吐くとともに、あの時も同じような感じで飛び起きた事を思い出した。

 この分だと、あと何日か同じような起き方をするんだろうな。という予感を抱いて苦笑する。


「まったく、心臓に悪い」


 そんな風にひとりごちる。

 カーテンから漏れ見える外の景色はまだ暗い。時計を確認すると起きるには早いが二度寝をするには不安がある時間だった。

 闇曜日で休みではあるが、件のエレンと会う約束があるのだ。


 そう、エレン・クアマリン。

 エイアンドは、まさか自分が婚約者を持つ事になるとは、思ってもいなかった。

 何せ、男装した女なのだから。


 父王には、「婚約者は自分で決める」と宣言し、許されているのも都合がいい。

 もっとも、コレは王家の伝統のようだが。

 おかげで、有象無象の貴族からの婚約打診は全て断るか、エイアンドに直接言うように手配されている。


 そんな中での突然の婚約発表だ。

 クラスメイトが驚き戸惑い、一気に噂が学園中……いや、国中に広まるだろう。


 しかし、エイアンドは女。相手の()()()()()なのだ。

 エイアンドはともかく、エレンにはこの先良いヒトが現れるだろう。

 そうなった時、どうするのか?


 今日はそういったことまで含めて話し合う事になっている。

 エレンは気にしなくても良いと言っていたが、エイアンドとしては適当な醜聞で穏便に婚約を破棄できるように考えておきたかった。


 エイアンドは話す内容を考えながら、ベットから起き上がる。このまま眠ってしまいかねないと思ったからだ。

 目を覚ます為にも、エイアンドはシャワーを浴びる事にする。


 浴室の中で、水と火の魔法を組み合わせた魔石に魔力を通して湯を出し、浴びる。

 身体を流れ落ちる水の流れを感じながら、エイアンドはエレンの事を考える。


 エレン・クアマリン。

 5大公爵家の令()だという自己紹介に、最初は耳を疑ったものだ。

 何せ、社交の場で会ったことが無かったからだ。

 もちろん、王家主催のパーティといえども、貴族の子供にまで出席の義務などはない。

 だが、クアマリン家からは一年年下の男の子が出席していたので、子供はその子だけだと思い込んでいたのだ。


 欠席の理由は病弱というのが一般的なのだが、戦闘実習の成績を考えると、それはないだろう。

 色白ではあるが、肌艶も良く、黒い髪は美しく長い。


 エイアンドは自分の短く刈り込んだブロンドの髪に触れてため息を吐く。昨日触れたエレンの髪とは、長さも手触りも雲泥の差だ。

 好みはあるだろうが、エイアンドは長い髪に憧れを持っている。

 あれほどの長さでは、手入れも大変だろうということを理解はしていても、髪は女の象徴だという想いは捨てられない。


(学園に居る2年間は伸ばしても良いかもしれない)


 そんな想いを抱く。

 城では髪を伸ばすことは許されなかったが、学園ならば多少は自由にできる。髪を伸ばすくらいはできるはずだ。男子たちの中にも伸ばしている者はいる。


 そして、エイアンドはエレンの手脚も思い出す。

 あのように手脚を曝け出すのは、はしたない格好ではあるが、エレンにはとても似合っていた。


 それに比べ、エイアンドの手脚はどちらかといえば、固い。

 引き締まっているとも言えるが、エレンの柔らかそうな、()()()()()手脚を目の当たりにすれば、その違いに少々落ち込んでしまうのだ。


(でも、ココは同じだった)


 エイアンドはその胸に触れる。

 エレンの胸も、発育はよろしく無かった。


 女性の象徴という意味でココも育って欲しいと思う女のエイアンドと、隠すのが難しくなると考える王子のエイアンドが葛藤する。だが──


 エイアンドは無意識のうちに腹に手を添える。

 幼き日、母に割かれた腹を。

 胸も育てば、奪われるのだろうか?


 エイアンドはそんな恐怖を覚える。その恐怖故に、エイアンドは母に逆らえないのだ。

 いつものように、傷痕を指で撫でる。


 母は回復魔法の名人ではあるが、腹を割いて完璧に治せるほどではない。パッと見では分からない痕が残っている。よく見れば痕が見えるし、指で触れれば……


「……え?」


 浴室にエイアンドの声が木霊する。

 その腹に残っていた傷痕は、いつのまにか消えていた。

次回10日です

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