表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢の新生活
2/42

1-2

 エレン・クアマリンは5大公爵家クアマリン家の第1子である。

 そして男子とあれば、本来であれば公爵家の跡取りとなる立場だ。


 ──そう。本来であれば。


 話をややこしくする原因は、エレンの出世にある。

 エレンの母エルナは貴族ではなく、ただの一般庶民だった。

 そんな庶民のエルナと、公爵家の嫡男であった父親が、どこでどのように出会ったのかは、エレンは詳しくは知らない。

 正しくは、聞いても教えてもらえていない。どうやら恥ずかしがっているようなのだが、庶民と公爵の馴れ初めともなれば、世の婦女子の大好物だろう。


 しかし、どんなに頑張っても、街で働いていたエルナを父親が見初めた。という以上の話は誰にも聞けなかった。


 話せない原因は父親の正妻にもあるだろう。

 どうやらエルナと出会ってよろしく(・・・・)やっていたところに、他国の第6王女との縁談が決まり、そちらが正妻になったのだとか。

 まぁ、相手が王女様でなくとも庶民の娘が公爵の正妻になるという事はありえない話なので、エルナはどのみち妾という立場になっていただろう。

 その後の話も綺麗に治るかと思われたが、正妻となった第6王女が妾を認めないと言い出した。


 確かに、妾の数で正妻の統率力と主人の甲斐性を誇るような戦時中の慣習が廃れてきていた頃ではあったのだが、それでも仲の良い友人を夫に紹介して妾にするのが当たり前だった時代だ。

 妾を仕切る事も出来ない正妻と言うことで、本来なら破談となるような修羅場があった。

 それでも他国の王女。しかも、その他国というのが北の大陸最大の国、ロマノア王国となれば、破談というわけにもいかず、そのまま結婚。エルナも妾におさまった。


 そのような経緯での婚姻であったため、父親は正妻との夫婦生活をほとんどせずに妾のエルナに入り浸り……


 エレンが産まれた。


 身籠っていた時から厳しいいじめを受けていたエルナ。産まれた子が男児と知れたなら……家督を継ぐ男児と知れたなら、正妻は必ず子を殺すだろう。

 そう考えたエルナは、公爵にすら子の性別を偽り、女の子だと伝えた。

 それでも正妻からの攻撃は凄まじく、食べ物に毒を盛られるような事は日常茶飯事となった。

 女児であっても、公爵唯一の子となれば、いずれはその子の夫が公爵となるからだ。

 1年後、正妻に男児が産まれるまでその苛烈な攻勢は続けられた。


 だが、もし第1子のエレンが男だと知れれば、公爵の継承権はエレンに移る。

 そうなれば、正妻はまた苛烈にエレンの命を狙うだろう。

 なので、エレンは決して男だとバレるわけにはいかない。


 いや、それ以前に……


(男が女子寮に入寮したと知れれば、大騒ぎになるよね)


 女の子として育てられ、口調も女子のそれであるが、今では自分が男だということははっきりと自覚している。


 命を狙われるのは、どこからか救いの手が差し伸べられる可能性があるが、この状況は許されないだろう。

 故に、エレンはメイドのリリアに期待していたのだ。

 リリアは、エレンの性別を知る数少ない人物のひとりだ。

 女子寮でも男だとバレないように、色々とサポートしてもらえると思っていた。


 だが、そのリリアは帰ってしまった。

 寮には学生しか住めない。さらに言えば、自宅で母の世話をしてくれるメイドは彼女だけ。


 最初から分かりきっていた事だったのだが、エレンはその現実を見ていなかったのだ。


「はぁ……」


 風呂の中でため息が漏れる。


 ──ため息をつくと幸せが逃げる。


 そんな言葉があるが、因果関係が逆だろう。とエレンは確信している。

 幸せが逃げたからため息が出るのだ。


 今で言えば、実家の離れを出て女子寮に入る事になったこの状況だ。

 おまけにメイドのリリアとも離れてしまった。


「はぁ……」


 ふたたびため息をつく。


(ああ、ダメだ。少しくらい前向きに考えないと)


 エレンは前向きな思考を試みる。


 ──そう。先ずはこのお風呂だ。

 各部屋に備え付けでひとりで入るようになっている。

 裸を──特に女子には有り得ないモノを見られる事を気にせずに入浴できるのは、嬉しい誤算だった。寮というからには大浴場しかないと思っていた。


 ──部屋にはトイレもある。しかも水洗だ。

 最新技術の温水洗浄まで付いている。

 ……この部屋だけなのか、寮全てなのかは、知らない。聞いてない。


 ──ミニキッチンもあるので、その気になれば自炊もできる。お湯を沸かすくらいなら直ぐにできるので、わざわざ食堂に行かずともお茶を楽しめる。


 ──なにより、命の心配をせずに生活できる。


 エレンが女の子として育てられていてなお、正妻からの陰湿な攻撃はあったのだ。

 弟が産まれた後は大人しくなった方だが、それでも死んでも構わないというようなものから、積極的に命を狙ってくるようなものまで。

 証拠はあるのに、正妻は断罪どころか離婚もされていない。それだけかの大国とこの国の力関係に差があるということなのだろうか?

 ……今の状態でも充分苛烈だと思われるのに、さらに酷かったという弟が産まれる前の攻撃とは、どんなモノだったのか、エレンは覚えていない上に想像もできない。


 実家に残ったエレンの母も狙われてはいるのだが……

 まぁ安心して良いだろう。

 どこの誰がランク6の魔物を素手で殴り飛ばすヒト族を害せるというのか?


 そこまで考えが至り、エレンはやっと憂鬱な気分から浮上した。


(そうよ。お茶の時間にワイバーンが襲ってくるような生活に比べれば、女子寮で生活するくらい、なんでもないじゃない)


 比較対象が双方あまりに異常という事に、エレンは未だ気がついていない。


魔物のランク目安


ランク0

ランク1

無害。一般人でも素手でなんとかできる。

とはいえ、あくまでギルドが定めた数字なので、真実無害とは限らない。

例えば蚊はランク0になっている。


ランク2

一般人でも武器があれば何とかなる。

ここまでは申請なしで町中に連れ込んでも公式に許可される。


ランク3

武装した兵士なら一対一でも何とかなる

この辺りから危険生物が増える。

町中で飼うには許可が必要。

とはいえ、ナアナアで済まされることが多い。


ランク4

危険。ここまで来ると、無許可飼育は逮捕される。


ランク5

武装した兵士数人でも負ける可能性が十分にある。


ランク6

この辺りから退治した人物、パーティは一生誇れるレベル


ランク7

普通、出会えば絶望するレベル。

とはいえ、数で圧せば何とかなる


ランク8

軍が壊滅的被害を受ける。

複数の国による連合軍で対処するレベル。


ランク9

生きる災厄。


ランク10

現実に存在する最悪の魔物。


オーバー10

神話の怪物

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ