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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢の戦闘実習

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19/42

2-6

ブクマ、感想ありがとうございます。

「まぁ、あの爆発は貴女の所でしたの」


 ひととおりの測定が終わった後の休み時間。エレンはルシアナと共に居た。


「お姉様にも見えましたか」

「かなり派手でしたからね」


 そう言いつつ、何やら取り出すルシアナ。

 今の彼女の格好は、見たこともない長袖の上着に同じ色の長ズボンという男装の装いだ。1、2年共に戦闘実習があるので、彼女もこうした装いなのだ。


「なんでも、コントロールをミスして空に撃ってしまったらしいじゃない。ミスしてくれたおかげで助かったわね」


 あの騒ぎはソニアのコントロールミスで大事に至らなかったことになっていた。

 誰も、まさかエレンが魔法に干渉して軌道を変えたなどとは思っていない。


 エレン自身も、自分がやったとは訂正していなかった。やったことを端的に述べるなら、「他人の測定中にその魔法に干渉した」ということなのだ。ソニアには口を滑らせたが、冷静になってみればあまり褒められたものではないだろうと思っていたからだ。


 そして、そんな話をしている間に、ルシアナは取り出したモノの包みを開けていた。


「お姉様、コレは?」


 ルシアナが取り出したモノは容器に入った三角形の物体だった。


「これは、『オニギリ』よ」


 笑顔でそう告げるルシアナだが、エレンには『オニギリ』なるモノがわからない。さらなる解説を乞うと、米を固めた料理だという。


 米は分かる。南の大陸から伝えられた作物で、エレンもよく食べる。豊富に採れて連作障害もない作物ということで、それなりに広まっている。


 その米をただ固めただけの『オニギリ』とやらを料理と呼ぶのも疑問だが、何故今この時間に出したのか、分からない。


 料理というからには食べるのだろうが、朝食は食べてきたし、そんな時間でもない。もちろん、夕食には早すぎる時間だ。

 お茶請けにしても少々量が多い。そもそも、米はスープの具材ではないのか? 単体で用いるなど、聞いたことがない。


「そんな顔しないの。この後はダンジョン実習でしょう?」


 測定で優秀な結果を出した1年生は、ダンジョン実習に参加できる。実習で挑戦するような下級のダンジョンといえど、ダンジョンはダンジョン。

 富と力と名声を手に入れる為にはダンジョンに挑戦するのが一番であり、貴族といえどもそこに変わりはない。

 上位のダンジョンを攻略できれば、爵位を継ぐにも箔がつくし、継げない女子や次男三男は結婚や就職で有利になるからだ。


「私は資格を得れるでしょうか……?」

「絶対、大丈夫よ」


 不安そうなエレンとは違って、自信満々に肯定するルシアナ。

 そのように言われたら、それなりに乗せられるのが人情である。しかし、解せない事もある。


「でも、ダンジョンとこの──」

「『オニギリ』よ」

「この『オニギリ』と何の関係があるのでしょう?」


 2つが全く結びつかず、訝しげに尋ねるエレン。そんなエレンに笑顔でルシアナは告げる。


「運動するなら、夕食まで持たないのよ。そんな状態じゃあ、力が出ないわ。それに、お米を食べるとすぐに力が出てくるのよ。コレなら、食器も要らないし」


 ──お姉様の受け売りだけどね。とルシアナは解説した。


 なるほど。ルシアナのお姉様は庶民だったかと思い出すエレン。

 庶民なら色々と力仕事もするだろう。こうした戦闘実習でもなければそれほど動き回ることのない貴族の身では1日2食で事足りるが、動き回るようだとそれでは足りないという事だろう。米を食べれば力が出るというのも、経験則からのものだろうかとエレンは推察した。


「では、お姉様のお姉様と水の女神に感謝して……」


 そう、略式の祈りを捧げて『オニギリ』に手を伸ばす。普段スープの具材になっているモノを手づかみで食べるのに多少の躊躇いはあったが、先ほど食器も要らないと言っていたのだ。パンのように手づかみで食べるものだと推察したのだが、ルシアナに止められた。


「ダメよ。ちゃんと手を洗わないと」

「はい。……あ、でも……」


 確かに、手づかみで食べるなら、手を洗わなければ汚れが食べ物に付いてしまう。が、この場では水道もない。水の魔法を使って手を洗う事もできるが、それでは水で辺りが濡れてしまうだろう。


「えと、水場で洗ってきます」


 そう言って立ち上がろうとするエレンだが、ルシアナがその手を取って止めた。


「……お姉様?」

「あわてないで。良い魔法を教えてあげる」


 エレンを座り直させ、その両手を包み込むように握って魔力を集める。


『【クリーン】』


 魔法が発動すると、手についていた僅かな埃などが綺麗に消え去った。


「お姉様、今のは?」


 見た事もない魔法であったが、その術式はエレンには見えた。「汚れを落とす」以外に「小さな生き物を殺す」などという、物騒な術式が含まれていたので、相手がルシアナでなければ手を振りほどいて逃げていただろう。


「これも、お姉様に教えてもらったの」


 術式の組み上げも学園で習うのだが、それでも完全オリジナルの魔法を組める者などそうはいない。

 エレンはルシアナのお姉様の素性が気にはなったが、ひとまず疑問は棚上げにして『オニギリ』に口をつける。


「……へぇ」


 スープの具材として食べなれた米ではあるが、こうして単体で食べるとまた違った食感がある。ほんのりと塩味が利いているが、これは米本来の味ではなく、調味料としてふられたものだろう。


「美味しいです!」


 早々とひとつ食べきったエレンの感想はそんなシンプルなものだった。


「ふふ、流石(・・)、良い食べっぷりね。こちらはどうかしら? 中に具材が入っているの」

「もちろん、いただきます!」


 勧められるままに差し出されたふたつめに口をつけるエレン。


「……!?」


 ふたくちほど食べ進めると、具材らしき口あたりのモノに行きついたが、その直後に口の中に広がった酸味にエレンは動きを止めた。


 これほどの酸味は食べたことがない。というか、腐っているのでは? とルシアナの方を見ると、非常に良い笑顔でエレンを見ていた。


 どうやら、腐ったモノではなく、これはこういう味の食べ物なのだろう。吐き出すというはしたない真似はこらえ、なんとか飲み込んでから言葉を発するエレン。


「な、なんなんですか? コレ」

「『ウメボシ』よ。分かりやすく言うと、梅の実の塩漬けね」


 そんなモノがこの世にあったのかと驚くエレン。もうひとくち……ひと舐めというくらいの量を食べてみるが、酸味が強くてエレンの口には合わなかった。


「ごめんなさい。こちらはちょっと……」


 申し訳ないが、食べられないものというものはある。


「あー、やっぱりだめか」


 半ば以上予想していたのだろう。そんな言葉をルシアナは呟いた。

 なんでも、レシピを教えてくれたルシアナのお姉様も「流石に酸っぱすぎる」と拒否したらしい。


(それって失敗作なのでは?)


 そんな言葉が喉まで出かかったエレンだが、なんとか飲み込んだ。それよりも、食べかけの『オニギリ』をどうしようかと思案したところで、ひょいとルシアナに取り上げられた。


「あ」


 と言う間にルシアナの口にそれは収まった。


「ん〜〜っ!!!」


 全身で酸っぱさを表現したルシアナだが、その後も『ウメボシ』入りを食べてご満悦の様子だった。


おにぎりの具は生たらこが好きです。

次点でツナマヨ。

梅干しは貰ったら食べるけど、わざわざ買ったり選んだりはしない感じ。


次回は20日です。

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