因果
もう人影も途絶えた病院の待合室の、一角にしつらえられた簡素な喫茶室に立花は居場所を確保した。
とうに外来の診療時間も終り、入院患者の面会時間も終わっているだろうに。
急患や夜間に行われる手術を待つ家族等を労うために開けられているのか。
今は立花と八神の見ようによっては妙齢の男女の二人の他には誰も居ない。
疲れた表情を見せながらもまだ大人しい立花よりは覇気を漂わせる八神を向かいに座らせて、立花は似合わぬ思いつめた表情で八神に話しかけた。
「事態の進行が早過ぎて……」
一瞬言葉を切った立花の瞳に並々ならぬ決意をみとった八神は、いつにない真摯な態度で立花の言葉に耳を傾けていた。
(頭でっかちの理論武装だけの青年だと思っていたけど)
眼前の青年の貌はいつのまにか研ぎ澄まされた野生の獣の様な眼光を放って、気の強さを売りにしている八神に怯えを覚えさせていた。
(あたしらしくない。何をこんな華奢な青年に怯えてるのあたし)
イヤ八神自身にもわかってはいたのだ。
(違うあたしが怯えているのはこの男が掴んでるまだあたしの知らない真実)
霧の本質を何一つ解き明かしもせずに、八神や水橋の思いもかけなかった方法で霧の怪物を封じ込めて見せた立花。
(何に気付いたっていうの?)
眼前の青年の次に繰り出す言葉に激しい飢えを覚えた八神は、その飢えに呼応するかのように股間に感じた疼きに激しく狼狽した。
(嘘……あたしこの男を欲しがってるの?)
予想だもしなかった己の反応に八神は身体を硬くした。




