エピローグ
「静かだ……」
最早人が存在する意味などないという結論に至った響也が作り替えた、大地はなく一面の海と空そして幾許かの風しかない世界。空中で片膝を抱え座り込んだままその水平線を眺めていた響也はポツリと呟いた。
「最後まであいつの考えは読めなかったな……」
「……本当の所、俺は怖かっただけなんだ、初めにあいつに会った時に思った疑問が最後まで、寧ろ時間がたつにつれて周りの人間の考えは理解できていくのに一人だけ、あいつだけの考えが読めないことで強くなっていったっ」
「この世界全部、俺も含めてあいつの作り物なんじゃないかってっ」
「それを確認すれば後悔するってわかってたのにな……」
ほんの数日の短い記憶を遡り響也以外いないこの星で、心に思うことが無意味なこの世界で、響也のその身にため込んでいたものを全て吐き出すような乾いた叫びは水平線の彼方へと溶け込んでいった。
「あいつ、あいつの名前、何て言ったかな? 俺から聞いたのに結局最後まで呼ばなかったからな」
「……あぁそうだ、思い出した。イブだ。はは、あいつバカだな。いゃ、馬鹿なのは俺か」
「……あいつ、俺と原初の人になるつもりだったのか」
「だからあいつ俺に謝ったのか。先に死んでごめんって意味だったわけね」
「……確かに、二人だったらこの永遠も生きていけたかもな」
「なんで気付けなかったんだろうな……何だ、これ」
「涙か? 俺、まだ泣けたんだな。まぁいいか、誰が見てる訳でもないし、このままで」
そう言うと少しだけ波と風が強まった気がした。
「全てをやり直してぇ……」
「やり直すか、この記憶と力を持ったまま過去に戻って」
「いゃ、どうせ俺のことだから、この力があったらただ同じことの繰り返しだろうな」
「じゃあ持っていくのは記憶だけか」
「全知全能の力を捨ててやり直すのか。……そんなの後悔しないはずないだろ。途中で耐え切れず自殺するのが目に見えている」
「そうなると、記憶は持ってかないでやり直すしかないか。記憶を持たないのだから当然力も持たないよな」
「……それも結局、同じことの繰り返しになるのか」
そして、響也は溜息を一つ吐きはたから見ると、もはや答えはでている自問自答の最後の答えを出した。
「もう、死ぬしかないのか……」
両膝を腕で抱え込み顔を膝に押し付けながらその答えを出した姿はとても全知全能の存在には見えなかった。
「……死にたく、ないなぁ」
「でも、俺にこの記憶がある以上、幸せにはなれないしな」
「死んだら何もないんだよなぁ」
「あぁ、そうだ。転生するか。……気休めにはなる」
「俺にとっては、死ぬのも今の記憶がなくなるのも余り大した違いはないのだけれど」
「今この先に無しかないと理解して死ぬよりは幾分かマシか」
「あぁ、それにしても、死にたく、ないなぁ」
「できることなら、次の人生ではなるべく普通で平凡で、できれば幼馴染の女の子が隣に住んでて、そこそこの会社入って、そして……母親が早死にしないそんな普通の幸せな人生を送りたいと俺は願う……」
ここで完結です。思いついたまま書いてみたので、感想やこうした方が良いなどあれば教えていただけると嬉しいです。
作品については月並みですが、人は一人では生きていけないということや、相手の事を分かることよりわかってあげたいという気持ちが大切なんじゃないかという個人的な考えから書きました。
それでは最後までお付き合い頂きありがとうございました!