三
紺色のカーテンから朝日がこぼれ落ちる。
「……うっ」
ベッドに腰かけた響也がたまらずに声を漏らした所で携帯のアラームは鳴った。
「あほくさ……こんなのもう、何の意味もないのにな」
反射的に枕元の携帯に手を伸ばした響也はそう呟くと、自分の目の前に床に座らせたままの――がいるにもかかわらず気にせずにゆっくりと立ち上がり、そのままごみ箱へと投げ捨てた。
「さてと、とりあえずシャワーを浴びてそれから一眠りしてから行くか、それともそのまま行くか。まぁ……出てから決めればいいか」
のたのたとこれからのことを独り言で確認するように言いながらまっすぐと玄関の方向へ向かっていく。
簡素で、決して広いとは言えないワンルームだった。
狭い通路、左側のキッチンの正面にある三点ユニットバスに入って行く。
その姿を睨みつけるように確認した後、――は赤く小さな口から白く粘り気のある液体をゴミ箱へと吐き捨てた。
そのまま響也のいなくなった虚空を鋭い目つきで見つめ、猫のように手の甲で口を拭った――の口元は確かに笑っているように見えた。
「……本当だったら今日はお前に転校生として俺のクラスに来させようとしてたんだけどこれじゃあな」
「それは、何のためにでしょうか?」
「えー、お約束ってやつだよ」
いつもよりも少し早めの時間の通学路。
「……一つ質問なのですが、何故歩きで行かれるのですか?」
アパートからわざわざ歩きで登校する響也に隣から不思議そうに尋ねる。
「んー、高校にって意味か? ……何でだろうな。学校なんてもう行く意味すらないのにな。それも歩きでこんな無駄なこと」
「そうですね」
響也は否定して欲しかったのだろうか。自分のやっていることをあえて嘲るように無駄と言うが――がそれを否定することは当たり前のようになかった。
「……ただまぁ、俺が昨日全知全能を願ったのはいつも通りの日常で気に食わない奴を一方的に嬲って、目に付いた奴を理不尽に犯せる、そんな俺スゲーって……」
そこまで言ってからハッとした表情で自分が口を滑らせたことに気づいたのか、隣を並んで歩く――を憎らしそうに睨みつけわかりやすく大きめの舌打ちをした。
「えぇ、凄いと皆さん思ってますよ」
「は、馬鹿にしてんのかよ」
「……ただの冗談ですよ。この方達に今更そんなこと考えられないでしょうし」
さして興味もなさそうに響也と一緒に高校へ向かうそれらを一瞥する。
それらは先程響也が口にした願いを実際に昨日行った成れの果てでもあった。
「まぁな。……だがまぁ色々言っても俺が高校へ向かってるのは、結局昨日お前が俺に会った時に言った理由と同じようなもんかもな」
「あぁなるほど、……だから昨日アパートも一から建てたのですね?」
「いゃそれは……お前、分かってて言ってるだろ?」
「いえいぇ、そんなまさか、ただ高校に行くのがそういった理由でしたらもっと適したものがいますが?」
退屈に殺されそうな顔をしていた響也はその言葉を聞いたとたん「へぇ」と一言悪魔的な笑みを見せると更に言葉を続けた。
「面白そうだな? 聞かせろよ?」