アズとの出会い
俺は準備運動がてら、斧の素振りをしていた。待ち合わせ場所にバータルはまだ来ない?町の入り口はここだけだったはずなんだが…知らない出入り口でもあるのだろうか。
斧を100数回振ったところで、バータルが現れた。隣には他に二人の姿があった。
一人は件の武器屋の店主だ。もう一人は見た感じ二十歳程度の女性だ。可愛いというよりは、かっこいい感じの美しい女性であった。腰には立派な鞘を下げている。
「兄弟、紹介するよ。依頼人のアズさんだ。彼女をアルタン王国まで無事に送り届けるのが今回の仕事だ。
彼女はこう見えて王国でも有名な鍛治師でな、お前の持ってるその斧も彼女のお手製だ。彼女を失うのはこの国にとって多大な損失となる。気合を入れていくぞ。」
「バータルさん、そんなに褒めないでください。私はまだまだ若輩の身、鍛治もまだまだ修行中です。」
アズは美しい顔を綻ばせながら、涼やかな声でそう言った。言葉とは裏腹に、そこはかとなく自身の鍛治師としての腕への自信を感じる。
それに、俺の勘が正しければ、剣の腕もそこそこありそうな気もする…実戦経験もない俺の勘など当てにもならないだろうが。
「初めまして。神田祭と申します。冒険者としてはまだまだ未熟な身ですが、力の限り尽くさせていただきます。よろしくお願いいたします。」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」
アズはぺこりと頭を下げた。
「こいつはまだ未熟だからな、お代は一人分で問題ないぜ。さあ、そろそろ出発するか。オヤジ、娘さんのことは俺たちに任せてくれ。仕事はしっかりこなすからよ。」
バータルは快活に武器屋の店主に声をかけた。
「おうよ、バータル信頼してるぜ。兄ちゃんも頑張ってくれよ。…アズ、体に気をつけろよ。また、こっちに顔を出せよ。」
「お父さん、心配しないで。私は大丈夫だから。お父さんも無理しないでね。それじゃあ、行ってきます。」
アズは笑顔で、しかし毅然とした態度で武器屋の店主に手を振り、歩みを進めた。
俺とバータルはそんな彼女の隣に立ち、町を出た。