冒険者としての第一歩
斧の修行を始めて早1ヶ月、割った薪の数はもう覚えていない。薪を割ることにはもうだいぶ慣れてきた。しかし、未だにバータルのように土台ごと割るようなことはできない。今思えば、あれは人知を超えた力が働いているとしか思えない。
最近は薪を割るだけでなく、木を切り倒し、穴を掘るなど、様々な肉体労働を行なっている。この間のイノシシを捕まえに行ったのも良い思い出だ。
冒険者は魔物を倒したり、護衛をするのではなかったのかとも思うが、まだ俺はそれができる域まで達していないのであろう。
そろそろ良い頃合いではないかと思い、今日バータルに会ったら、冒険者としての生業を教えてもらおうと心に誓った。
今俺が暮らしてる宿は、手狭ではあるが清潔な部屋である。いつものようにスーツに着替え、斧を背負い、宿の一階にある酒場に降りて行った。ちなみに、スーツは不思議なことに水に浸けて、一晩乾かすだけで、それなりに綺麗になっている。かなりボロボロになっていてもおかしくないはずなのに、不思議なものだ。これもスーツの不思議な効力であろう。
スーツと支度金の他にもう一つもらっていた目薬はまだ使っていない。量が限られているため、使うことに躊躇してしまっているのだ。
「おはよう兄弟、今日も決まってるな。マスターいつもの飯を頼むぜ!」
バータルの快活な声が聞こえてくる。この男はいつもこの調子で見ていて気持ちがいい。しばらくして、マスターがご飯を持ってきてくれた。
「にいちゃん達は相変わらず仲がいいな。できてるのか?…冗談はともかく、今日はどうするんだ。薪や食材の提供ならいつでも大歓迎だぜ。」
マスターがニヤつきながら話すのを横目に、俺は思いきってバータルにこう切り出した。
「バータル、俺もだいぶ斧の使い方がわかってきた、そろそろ冒険者の生業、魔物との戦い方を教えてくれないか?」
バータルはハッとしたような顔になった。この反応を見るに、どうやら忘れていたらしい。しかし、それを気付かれまいとキリッとした表情になった。
「そうだな。そろそろ教えてもいい頃合いか。よし、それじゃあ、今日は俺の仕事について来い。実戦で教えてやろう。これを食べたら、早速町の外に出るぞ。」
俺は胸が高鳴った。ついに、冒険者としての一歩を踏み出すことができる。こんなことを思っている俺は、すっかりこの世界に馴染んでしまったようだ。
いつもよりも早くご飯を食べ終え、バータルに先に町の入り口まで行っていると告げ、酒場から飛び出した。
どんな仕事が待っているのだろうか、俺は期待で胸がいっぱいであった。