誰が為に人は動く 1-8
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カイが奮闘していたそのころ、舞たちは草原で悪魔たちを一掃していた。残りの一体を倒すと同時に炎の壁の奥の森から閃光が広がった。そちらのほうに一同は驚いていた。そして急に眼に入った閃光は彼らの視界を奪った。視界が徐々に回復してきて少し経った頃に一同は、森から炎の壁を消してゆっくり歩いてくるカイを見つけた。グラスはカイが何をしていたのか知っているのでねぎらいの言葉をかけた。
「おかえり。もう、おわったのか?早かったな。」
「ああ、囲まれたから、黒雷丸を使った。」
「なるほど、だからこんなに早いんだな。」
カイとグラスの会話に一段落付いたと思った何も知らない舞は、口を挟む。
「おい、貴様今までどこに行っていたんだ?やたら服がきれいじゃな。まさか、森の奥に逃げていて、そして悪魔がお前のほうにいかないようにグラスが壁を作った。といったところだったら今すぐたたききってやろう。さあ、何していたか吐け!!」
確かにさっきまで戦っていた舞、グラス、シンカの3人は返り血で汚れている。舞やグラスと違い、拳を武器とするシンカは特にだ。
それに対して、カイは確かに返り血で汚れていたが洗濯してしまってきれいになっている。
だが実際、戦いの苦労や難易度を考えるとカイは一人で35体程、舞たちは三人で30体程でかなりの差がある。追加で言えば三人で30体を相手にするのと一人で10体を相手にするのとではサポートの関係を築けない分、一人で10体のほうが断然難しい。
スポーツの激戦区で優勝するのとそうでもないところで優勝するのでは話が違う。そのような差だ。
そんな舞の言葉にグラスは怒った口調でカイの弁解をしようとする。
「おい!!それは違う、カイは悪m…」
カイは本当のことを言おうとしたグラスの口を背後からふさぐ。
「そう思ってくれていいぜぇ。それに近いことをしていたからなぁ。例えば水浴びとかね。」
とニヤニヤしながら言った。グラスにも何でこんなことをしているのかわからない。
ついに舞はブチギレる。そして、憤怒の表情をして言う。ついつい「般若面のような顔だな!!」と突っ込もうとしたグラスは口をふさがれているのでそれができないのが若干の救いではあるが。
「おい、そこのゴミ、決闘じゃ!!わしが勝てばリーダー交代し、お前にはここで引き返してもらうぞ。わしに斬られれば、そこで人生は終わりじゃがな。いいな、ドMお世話係。」
グラスはカイの手を暴れるようにして振りほどき息をめいいっぱい吸って青ざめてた顔色を戻す。
そして、一呼吸をしてから言う。
「だからお世話係じゃねえっつってんだろ!!というよりドMじゃねえ!!!まあいいぜ。見ていてやるよ、その決闘。カイもそれでいいんだろ?」グラスはカイのしたいようにさせようと、本当のことを言うのをやめた。これが狙いなのか、わかってはいないが。だから、不自然に確かめた。カイは答える。
「俺もいいぞ、決闘ねえ。賭け事なんだから俺が勝ったら俺に絶対従ってもらおうか。忠犬のようにね。やるのはいいけど負けて後悔すんなよ~。」
相変わらずカイはニヤニヤしている。舞も負けじと精神面で優位に立とうと挑発を交えた説明をする。
「範囲はここから半径1㎞くらいでいいじゃろうか?それならおぬしも逃げ回れるじゃろう。」
「ああ、それはありがたい。チャレンジャー。お前のタイミングで開始していいぞ。」と舞の挑発をひらりとかわし、負ける気がしないカイはハンデを与える。
「なめられたもんじゃのぅ。」
舞が殺気を出している中、クスクスと笑いながらカイは言う。
「お互い様だな。」
それから一時の沈黙の後に、崇高なプライドをかけた戦いが始まろうとしていた。