誰が為に人は動く 1-7
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およそ35体程の悪魔を退く…というより殺戮した青年カイは、3人の仲間が戦っている戦場へと戻る道中に渓流を見つけ休憩をしていた。正確には返り血の付いたお気に入りの服を洗濯していた。
「う~ん、なかなか汚れが取れないなぁ…。」
と静かに奮闘すること数分、やっとのことできれいになった服をこれでもかというほどに絞った。早く戻らないといけないと考えているカイはその服をたき火で乾かす。
その少しの間、上裸のカイは水浴びをすることにした。冷えた流水が体を一気に冷やしていく。樹海の中ということもあり、遠慮しがちな木漏れ日が、冷えた体にはほんのりあったかく気持ちよかったりもした。
それからさらに数分、そろそろ乾くことを確認したカイは気を引き締めるために顔を洗っていた。顔から垂れる水滴の波紋でゆらゆらと震える、水面に映った自分の顔を眺めぼーっとしていた。
その時、カイの頭の中ではある会話がループし続けていた。
【 「一体、お前は何者なんだ…?」
「俺は…誰も守れない、不完全な最強だよ。」 】
するとカイはおもむろに印を組み、ヒビの入った古びたオカリナを取り出した。それを見るなり、何かをじわじわと思い出すかの如く目をつぶった。
【 「ずっと、待っているから……きっと…」
「……待て!!桜花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 】
「ちっ………。」
カイにとって嫌な思い出なのか悪夢からさめたような怪訝な顔をして、印を組みオカリナをしまう。するとカイは突然、頭ごと水に突っ込んだ。
「っぷは。…………まだまだかかるけど必ず迎えに行ってやるからな。」
昼寝している猫にでも話しかけるかのように、そうそっとつぶやいた。
それからカイは立ち上がり、たき火を消し、乾いた服を着なおし、木漏れ日が乱反射を繰り返している渓流を後にした。
「さぁ、戻ろうか。少しでも前に進む為に。」
少年は戦場へ戻っていく。一歩一歩と大地を踏みしめて。