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「ほら、もう校内回っている時間ないよ。演劇部の舞台、一時半から開演なんでしょう?」
一葉が顔を上げると、未春は喜びを顔に弾けさせながらこくこく頷いた。
「うん!本当、間に合って良かったー。この為に、わざわざ来たんだもんね」
「……私は別にそこまで見たいわけじゃないけど、未春がどうしてもって言うから」
興奮した様子の未春とは対照的に一葉は素っ気ない態度を見せる。
未春はそんな一葉の態度にハの字型の眉をさらに下げた。
「だって、一人でここまで来る勇気ないんだもの。頼みの両親は急な用事ができたとかで出掛けちゃうし、文化祭に一人で来てもつまらなそうだし……一葉ちゃんが一緒に来てくれて本当に良かった。ここの演劇部ね、すごく有名なんだよ。一葉ちゃんも見たら絶対はまるって!」
「どうかな。でも、未春みたいに目をきらきらさせた子達がいっぱい通り過ぎて行ったよ。人気なんだってことはここに立っている間にたっぷり学習した」
「うう、本当にお待たせしました」
「冗談。もういいって。ほら、急いで受付済ませちゃおうよ」
一葉の言葉に未春が頷く。二人はようやく校門をくぐり、学校の敷地内へ入った。
すぐ目の前に受付と書かれた白いテントが建っており、濃紺色の制服姿に身を包んだ女性が二人、椅子に座りながら来場者をチェックしている。
「受付はこちらでお願いします」
二人いるうちの右側の女性に未春が鞄から出したチケットを二枚、渡す。ちらりと見えたそれには一葉の名前と未春の名前がボールペンで書かれてあった。
「お、お願いします」
緊張した様子の未春がそう言うと、チケットを受け取った女性は口元を弛めて、受付簿にさらさらと慣れた手つきで名前を記入し、顔を上げた。
「……柏木未春さんと大河内一葉さん、ね。ええ。確かに受け取りました。これが文化祭のパンフレットになります。舞台のスケジュールが書いてありますので、よくご確認下さい。ちなみに演劇部の公演はあと十分ほどで始まりますので、見に行かれるようでしたらお急ぎ下さいね。講堂の場所は、あちらの坂を上っていくと左手に校舎が見えますが、そのまま校舎を通り過ぎた先にありますので。それでは、どうぞ、楽しんでいってらして下さいね」
凛とした声の、左目の泣きぼくろが印象的な綺麗な人だった。
「はっ、はい。有難う御座います」
「有難う御座います」
二人でお辞儀をしてから、仰々しくパンフレットを受け取り、示された坂へ小走りに向かう。




