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そんなに学生の演劇がいいものかね、と一葉は内心呆れるように呟いた。特段、演劇について造詣が深いわけでもなかったが、比較の対象が母校の弱小演劇部という見識の狭さから、一葉の思う学生の演劇とはまさに恥じらいと自尊心がせめぎ合う、幼稚園のお遊戯界にも満たないお粗末な発表会のような代物であった。そんなものにきゃあきゃあと騒げる女子達が一葉には不思議で仕方がなかったが、そうした女子達と同じように熱を上げる少女が一葉のすぐそばにいたものだから、一葉は今日、こうして休日にも関わらずこの場に立たされているのだった。
「……」
それにしても遅い。もう何度目か分からぬ呟きを唇にのせて、一葉は腕時計を見た。そのときだった。
「一葉ちゃーんっ、遅れてごめん!」
聞き慣れた声が響き、目の前にその人物が飛び込んできた。
肩につく程度に切り揃えられた癖のないミディアムヘアーに、ハの字型に下がった眉毛。申し訳なさそうに眉間を寄せ、こちらを見る垂れ目の眼差しは小動物のようで庇護欲をそそる。駅から走ってきたのだろう。膝小僧に手をつき、呼吸を整える相手に、一葉は一人寂しく突っ立っていたときの羞恥心をぶつけた。
「未春。……遅い」
「はあ、はあ、……うん、うん、本当にごめんねっ。実は、家を出てからお財布がないことに気付いて……ふう。一回、取りに戻っていたら遅くなっちゃって」
「そんなことだろうと思った。メールしても連絡ないから、もしかしたらってちょっと心配したけど……未春はいつも通り、平常運転だったってわけね」
やれやれとため息を吐いた一葉に、柏木未春が口を尖らす。
「もう、平常運転だなんてひどいよ、一葉ちゃん。っていうか、私にメールしてくれてたの?あー、携帯の電源切ってたから気付かなかったよ」
「未春はいつも何かやらかしているでしょう。……まあ、携帯については八割そんなことだろうと思ってたから大丈夫」
「うう」
言い返せない悔しさから未春が呻く。
一葉はいつものことだと気にすることなく、腕時計を見た。