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「もう一度、頭下げてでも演劇部に戻って。それが未春にとって一番いいことなんだから」
「……一葉ちゃんはそれでいいの?私が演劇部に戻ってもいいの?」
「勿論。未春は演劇部にいなくちゃ。演劇部だって未春のことを必要としてる。私のためを思うなら、絶対にそうして」
「……分かった」
未春が頷き、真っすぐと一葉を見据えて唇を開く。
「ねえ、一葉ちゃん。私が演劇部に戻ったら、また学校に来てくれる?前みたいに、私と一緒に……学校にいる間も知らんぷりしないで過ごしてくれる?」
「未春……」
しょげたように眉毛を下げた未春の姿に良心が疼いた。
「私、本当に嬉しかったんだ。一葉ちゃんと演劇部で一緒にいられたこと。だから、役を貰って急に忙しくなって、一葉ちゃんとの時間がどんどん少なくなって、すごく寂しかった。台詞を言うのはいつもの自分じゃないみたいで楽しかったけれど、それも一葉ちゃんが見てくれているって思ったから頑張れたんだよ」
未春がへにゃりと笑う。
対照的に、一葉は困ったような表情を浮かべて、視線を落とした。
「……私、演劇部には戻れないよ。学校には行くけど、演劇部には顔出せない。あっちも私のことで気まずいだろうし、私もどんな顔したらいいか分からないし……」
「あ、うん。歩お姉様達のことは気にしないで。私も退部届出したとき、怒って色んなこと言っちゃったから、ちょっぴり気まずいんだけど……、でも、歩お姉様達も今頃、いっぱい反省してくれていると思うから大丈夫」
この未春の言葉に、一葉が驚いたように顔を上げた。
「未春が歩お姉様達に怒ったの?」
信じられないというような顔で未春を見る一葉に、未春は照れたように、しかしここぞとばかりに小さな胸を張ってみせた。
「へへ。私だって言うときはがつんと言うんだよ」
「がつんと……」
一葉がぱちくりと目を瞬かせる。
「歩お姉様達もびっくりした顔していたなあ」
そのときのことを思い出すように未春が呟くと、一葉はいつもながらの彼女の鈍感さと心の余裕さに呆れた顔をし、すぐにそれを引っ込めると、称賛する眼差しを送った。
「それはそうでしょ。でも、そんな風に言えるなんて、未春、すごい。別人みたい。本当に未春?」
「ふふ。正真正銘、一葉ちゃんのよく知る未春だよ。私だって、一葉ちゃんのことを悪く言われたら、怒るときは怒るんですから」
「なんか、頼もしい……」
「うふふ。これからは私に頼って、一葉ちゃん。今まで私のことを守ってくれた分、今度は私が一葉ちゃんを守るんだから」
「……有難う」
照れくささを感じながら、一葉がぼそりと呟くと、未春は大きな声で「どういたしまして」と微笑んだ。