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「どうして、ここに……」
何故、そこに彼女がいるのか。母親はどうして彼女を通したのか。訳が分からず、戸惑っている一葉に、未春は気まずげな顔で部屋の中へ入ってくると、後ろ手に扉を閉めた。信じられないものを見るような顔の一葉に未春がためらいながら声を絞り出す。
「あのね、……誤解なの。全部、誤解なの。一葉ちゃん」
未春の声は震えていた。
「どういうこと」
たった一言だけ絞り出すと、一葉は唇を閉じた。
「あの日、私の衣装が破られて……、私、気が動転して部屋に閉じこもって皆に迷惑をかけた。でも、一葉ちゃんがそれをやったなんて、少しも思わなかったよ。誰がやったかは分からないけど、でも、でも、一葉ちゃんがそんなことをする人だなんて思っていないから、私、私を嫌いな誰かが制服を破いたんだって思って、すごくショックで……それで控室に。学生証のことだって私、知らなかったの。歩お姉様から聞かれて初めて知って、それを聞いてもやっぱり一葉ちゃんがそんなことするなんて思えなかった」
「……でも、未春以外はそう思っていない」
「ごめん」
未春はぐっと唇を噛み締めた。
一葉は忘れていたあの日の胸の痛みを感じた。
「本当に、ごめん……」
一葉は未春の謝罪に何も言わなかった。謝罪を受け入れるべきか、それとも突っぱねるべきか、ずきずきと疼きだした胸の痛みが一葉の判断を鈍らせた。
一葉は未春の視線を避けるように顔を下げて自分の手元を見つめた。そうすることで未春に対し、無言の拒絶を示したつもりだったが、未春は一向に帰る素振りを見せなかった。しばらく二人は何も言わなかったが、未春が思い切ったように口を開くと驚くべき発言で沈黙を破った。
「私、演劇部を辞めてきたの」
「ど、どうして」
思ってもみない未春の告白に一葉は驚いて顔を上げた。
「一葉ちゃんをこれ以上、困らせたくなくて。私、一葉ちゃんに喜んで欲しくて……一葉ちゃんが喜んでくれたらって思って行動してきたのに、全部裏目に出るばかりで……バカみたい。このまま一葉ちゃんがどんどん遠くなっていっちゃう気がして、そんなの嫌だって思ったら、こうするしかなかった」
「……本当に退部届、出したの」
「うん」
未春がはっきりと頷く。
「そんなことして、後悔するよ」
「しない」
「するって」
「絶対にしない。……私、一葉ちゃんが好き」
二度目の未春の思いがけない告白に一葉は息を呑んだ。空耳かと思った。けれど、驚いて口を開けた一葉に、未春はもう一度、面と向かって言った。
「ずっと、一葉ちゃんだけが好きなの」
未春の潤んだ瞳が一葉を真っすぐに見つめる。その瞳は一葉がよく知る、冗談や嘘なんかではない、真剣そのものの未春の瞳だった。




