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「……私は、やっていません」
けれど、一葉は必死で伊吹歩の言葉を否定した。そんな一葉の目から涙がぽとり、と落ちる。伊吹歩はしかし、その姿を見ても追及の手を緩めることはしなかった。
「まだ言うか。君も強情だね。破れた衣装を見た未春は、かわいそうに、今の君のように泣いて裏の控室に閉じこもってしまった。今は芽衣子が慰めているよ。しかし、未春の涙はあれほど透明で美しく見えたのに、君の涙は随分汚いね」
この伊吹歩の言葉で、一葉はそれ以上何も言えなくなった。破れた衣装について否定することもできなくなった。黙り込み、ただ涙で頬を濡らす一葉に対し、伊吹歩は恐ろしく冷たい声で言い放った。
「消えて。私達の前から。未春の前から、消えて」
一葉は苦しみに喘いだ。先程まで、伊吹歩の姿を見て浮かれていた自分が滑稽に思えた。気付けば、一葉はその場から逃げるように踵を返していた。あのときと同じ。未春の声を無視して逃げたあのときと同じように、一葉は伊吹歩の残酷な態度の前に、泣きながら逃げ出すしかなかった。
翌日から、一葉は学校へ行かなくなった。制服を着て玄関に立つと足がすくんでしまい、あの日の光景が頭に浮かんで胸が苦しくなった。両親には体調不良だと伝えた。納得はしていないようだったが、一葉を尊重して、何も聞かずにしばらく休むよう言ってくれた。
一葉が学校を休んで一週間が経った。その間、思ってもみないことに未春が一度、お見舞いと称して一葉を訪ねてきた。勿論、一葉が会うことはなかったが、未春にとって加害者であるところの自分をわざわざ訪ねてくるなど、未春が一体何を考えているのか一葉にはさっぱり分からなかった。
未春の衣装が破られた日、一葉の学生証がなくなり、あの場に落ちていたことは事実なのだ。いくら一葉が違うと言っても、顔写真と名前が入った学生証という逃げようのない証拠がある限り、一葉の言い分が通ることは万が一にもないことに思えた。それだから、一葉もまた晒し者として学校へ行くことを拒んだのだった。
一葉が学校を休んで二週間が過ぎた頃。再び、一葉の家を訪れる者がいた。部屋をノックする音で、ベッドに腰かけ読書をしていた一葉は顔を上げた。
「何」
母親ならいつもノックもせず部屋に入ってくるのに、今日に限ってどうしたのだろうと一葉は訝しんだ。
「入るなら入って」
そう声を掛けて、再び読書に戻ろうと顔を下げたとき、ゆっくりと遠慮がちに開かれた扉から聞き覚えのある声が一葉の耳に届いた。
「一葉ちゃん……」
「未春!?」
弾かれたように顔を上げると、やはり、制服姿の未春がそこに立っていた。申し訳そうな顔をして、眉毛をハの字に下げた未春の姿はいつも見慣れたものだった。




