剣を作っちゃった話
「はあ」
俺は、そう情けない声を出すしかなかった。それを、聞いてピュン太は慌てふためく。
「え、ちょっとこんな絶世の美女が目の前に現れたんだからもっと驚いてくれないかい!?」
俺は口ごもる。なんて言うか……。欲情しないのだ。自分で分かる。身も心も俺は女になってしまった。しかし、なんか吹っ切れた。もう、一度死んでるんだし、性別なんてどーでもいいや。
とりあえず。
「ナイトメアと戦うってどういうことだ?」
「スルーかよ!?」
ピュン太が嘆く。
「まあ、仕方が無い。説明してあげよう」
ピュン太は近くの木の幹に腰を下ろし腕を組んだ。なんかウザかった。
「まず、ここ夢世界の説明だ――。
この世界、そのまんま名前の通り夢の世界の事だ。現実世界で君たち人間は夢を見るだろう。その時、見ている夢は全部この世界で自らが体験した事だ。人間は夢を見ている時は、意識だけこの世界に来ているんだよ。
この世界と現実世界には深い関係があってね。少し壮大な話になるけど、全ての夢世界も現実世界も他の色々な世界も全て束ねる神がいるんだ。神は人類が誕生した時にこの世界を作ったんだ。何故だと思う?俺に聞いてもわかるわけないだろって?素直でよろしい。現実世界は人間の思うように行かないこともあるだろう?しかし、それだけではストレスが溜まる一方だ。だから神は自分の思うようになるような世界を作ってあげた――。そう、それがこの夢世界だ。
夢世界が出来てから、人間は生まれた時にこの世界に土地を持つようになった。そして、寝るときに意識だけをこの夢世界の自分の土地に移動させる。ん?どうやってそれだけで夢を見るのかって?簡単な話さ。この世界には大量の魔力が満ち溢れている。そう、誰でも扱えるほどの量のね。そしてこの世界に来た人々は無意識の内に魔力を操作して自分の思うままに自分の土地の中で世界を作っているんだ。そう、つまり人々は魔法で夢を見ているんだ。
この土地に限りはないのかって?まあ、限りはあるよ。しかし、この夢世界は現実世界とは別の宇宙にある世界だ。まあ、この世界は地球の一兆倍の広さと考えてもいいだろう。だから、土地は有り余っているよ。
さて、ここからが本題だ。しかし、近年、人間はこの世界に大量のストレスを持ち込むようになった。そのストレスは、この世界でナイトメアという化物になって人々の夢を蹂躙するようになった。そして、人々は悪夢を見る。悪夢が積み重なったらストレスが溜まる。溜まったストレスはナイトメアとなる。素晴らしい悪循環だ。ナイトメアの数は増えていく一方さ。このままじゃ夢世界が滅びるのは時間の問題。だから僕、神に作られたこの世界の番人であるピュン太は君をこの世界に連れてきたんだ。どうかナイトメアと戦って欲しい」
ピュン太は俺を見つめる。俺は尋ねる。
「戦うって言ったって。どうやって戦うんだ?」
「簡単な話さ。じゃあ、剣を頭の中に思い浮かべてみて?」
俺は頭の中に剣を思い浮かべる。どうせなら勇者のような伝説の剣がいいな……。アーサー王のような。
右手に何かが握られた感触があった。見る。それは、そう正に俺が想像したアーサー王のような剣だった。
「さっき言ったろう。この世界には魔力が満ち溢れている。だから、頭にイメージする事で何でも具現化できるんだよ。要は想像力だ」
あれ?だったらー。
「なんで俺をこの世界に転生させたんだ?他の誰でも良かったんじゃないか?」
「いや、そういうわけにもいかないんだよ。現実世界で夢を見ている時とは違ってこの世界に転生する時には身体ごと転生するだろう。その不可に耐えられる強靭な精神力。そして身体ごと転生するから扱える魔力も非常に多い。その魔力を扱える非常に強い想像力。それを兼ねそろえているのは君だけだった訳だ。精神力、想像力。君は現実世界で身につけたろう?」
頭の中に蘇る生前の病室での記憶……。
ピュン太は続ける。
「さて話を戻そう。剣も作ったことだし、せっかくだから魔力を使って攻撃でもしてみるか。じゃあ、そこの木を倒してみてよ」
そう言ってピュン太は斜め前にある太い木を指さした。
木を倒すってどうやるんだ?やっぱり剣でグサッと……。いや、剣で風を起こして木を倒すっていうのも……。
身体が自然と動いた。剣を一閃。風が吹く。
ピュサ。
風が木を刻む。木が倒れた。
なんだ、思ったより簡単じゃないか。俺はピュン太の方を見る。
「なんて才能だ……」
そこには感動で身体を震わせるピュン太の姿があった。
変な設定の出来上がり。