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七夕

作者: 林公一

「ねえ、彦星」

「なんだい、織姫」


 遠く高い空で、人間界では『七夕』と呼ばれる日にのみ、この二人は逢える。

 少し前――といっても人間換算では気が遠くなるほどの時間だが――に仕事をサボって色恋沙汰にうつつを抜かしてしまったため、罰を受けて年に一度しか逢えなくなってしまった。と、人間界では語り継がれているのだが。


「私達ってそんなに重い罰受けてないわよね」

「そうだね。人間達から見れば三秒に一回逢ってる計算になるからね」


 そうなのだ。人から見れば長いのだろうが、彼らからすればそれは、瞬きしている間に過ぎ去る程度の短い時間なのだ。

 よって、彼らは仕事はおろか、反省すらしていない。いや、そもそも――


「そもそも私達、罰受けてないしね」

「人間達が勝手に悲劇みたいに伝えたよね。普通にいつでも会えるよね」


 そう。そもそも彼らは罰など受けていない。仕事はきっちりと終わらせた上で会っていたというのに、どうして罰など受けねばならないのか。そもそもなぜそんな話にされたのか、彼らは首を傾げたものだ。

 あとあと考えてみれば、それは『教訓』のような話にしたかったのだと気づいたが、それにしたって勝手に人のことをサボり魔扱いするのはあんまりではなかろうか。

 しかも、恋人と逢っているのが三秒に一回計算。家族でもそんなに顔を突き合わせたりはしないだろう。……まあ、あくまでも計算上のことなので、長さ自体は普通に感じているが。


「普通に聞けばかわいそう。計算すれば発情しすぎ。私達はどうすればいいのかしら……」


 織姫は疲れたようにため息をつく。人間達の勝手な都合で話を作られた挙句、変な同情や謂れのないバカップル扱いを受ければ、ため息の一つや二つもつきたくなるだろう。


「このままでいいんじゃないかな……。っていうか、なんでこの時期にあんな話作ったんだろうね……。『雨が降ったら逢えない』って、この時期ほとんど雨降るよね」


 これも彼らが謎に思っている部分の一つ。この『梅雨』という雨の降りやすい時期に『雨が降ったら逢えない』などという制約をつけるあたり、逢わせる気など毛頭ないとみえる。


「まあ実際には雨が降ろうが、雪が降ろうが、雲の上だから関係ないんだけどね」

「下界で土砂降りでも関係ないよね。普通に天の川綺麗に見えるもんね」


 まあ、さすがにこれに関しては、子ども達に伝えるときに、わかりやすくするための配慮だろうとは気づいたのだが。


「それに私達に願いを託されても困るのよね……。そんな力なんてないわよ……」

「そもそも一年に一度しか逢えないのに、雨が降った程度で逢えなくなるような僕達に、願いを叶えてほしいってなんかおかしいよね……」


 色々と話が付け足されすぎて、わけがわからなくなっているにも関わらず、それがずっと昔から変わらず続いてきているのがさらに恐ろしいところだ。


「この『七夕』って行事の度に、私達は同情されるか、笑い者にされるのね……」

「気にしないようにしようよ織姫……。僕らは僕らでいいさ……」


 今度は二人同時にため息をつく。七夕の綺麗な夜の日に、話の主人公の二人がこんな話をしているなど、誰が想像しているだろうか。


 今夜も静かに更けていく。







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