第2話
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「本当に見たんだよ、俺。昨日近所のコンビニ行った帰りに。」
「……。」
「巫女コス姿の桜ちゃんがコンビニの裏手にある廃屋に入って行くのを見たんだ!」
「ええー!羨ましー!」
「廃屋で巫女コスとか、ナニしてたんだろ。何かエロくねぇ?」
「ねぇ、本当に教師なの?あの女。」
「…………。」
誤解を招かないために言っておこう。
確かに私は昨日、近くにあるコンビニの裏手の廃屋に入っていきました。それも巫女姿で!
でもそれはコスプレなんかじゃなくて、立派な巫女装束だ!
断じて廃屋で巫女コスを(色んな意味で)楽しんでいたわけではない。
これには、立派な理由があるのだ。(機密上、生徒達に教えるわけにはいかないのだが……。)
深く詮索されるとヤバイので早々にこの話題を打ち切るため、桜はパンパンと手を2回叩いた。
「ほらみんな、おしゃべりしないで!
今は授業中よ!」
集中力が散漫な生徒達の意識を授業に向けようとするが、あえなく失敗。
桜の巫女コスをテーマに、生徒達の熱気がヒートアップしていく。
「いいなぁ。きっと胸元はち切れそうなんだろうなぁ。」
「THEお胸さま降臨ってやつ?やっべぇ顔埋めてぇ。」
「ほんとキモいんだけど~。あの女の私生活どうなってんのよ。」
「実はオタク系?」
「女教師やっべぇ!」
止まらない……。
こうなった思春期の男女達は止められない……。
桜の顔に絶望が宿り始めたとき、突然教室の扉がガラガラッと開いた。
「あ!狐村じゃん!もう三時間目だぜ?来るのおっせーよ!」
「え!?狐村君!?」
「おっはよーう!」
巫女コス言い出しっぺの男子生徒が挙げた声に、勢いよく反応する女子生徒たち。
話しかけられた本人、狐村白夜君は自分にかけられた声を全部を無視してこちらへとやって来た。
「オハヨーゴサイマス先生。遅くなってモウシワケアリマセン。」
自前のさらっさらな黒髪と切れ長の美眼を光に反射させて教壇の前に立って私をじっと見てくる。
(生意気な奴……。)
桜はチラリと時計に目を走らせると。
『何がおはようだ。もう11時を22分と5秒まわっているぞ。
ふざけるのも大概にしろよ生意気小僧。』
などとは、内心で思いつつも口には出さず。
「おはようございます狐村君。挨拶はいいので早く席について下さい。」
ついでに、ニコッと威圧感たっぷりのスマイル(当社比)をおまけする。
「はぁ。分かりました。」
そう言うと、狐村君はモデルのように長い足を翻して自分の席へと歩いていく。さながら教室がファッションショーのランウェイみたいだ。
黒光するさらさらの髪と、切れ長の目。
スッと通った鼻筋に薄い唇。さらには見上げるほどの高身長。
この世の全ての美をあらわすらかのような造形美。狐村白夜とは、そんな人間だ。
男のくせにシミ一つない白肌に苛立つが、彼のお陰で先程の巫女コスの話題が遠退いた。
このチャンスを逃してなるものか!!
「さあ、授業の続きを始めますよー!ノートを開いてー!」
桜は声を張り上げると、授業を再開した。