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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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81話 もういちどVRMMOをはじめよう

 十月一日、俺たちは会社の創立一周年をささやかに祝った。ホームパーティのような雰囲気で、大会議室のテーブルを合体させて、持ち寄った料理を並べた。


 嬉しい報告として、会社の最初の作品であるVRMMORPG『アドヴェンチャー・フィールド・オンライン』の試作品が完成し、冬のゲームイベントで試遊台をだせることになったと開発チームのリーダーと平沼が明かし、イベントでの評価によっては、冬の間に完成し、春先に発売できるというリーダーの言葉に、皆、室内の温度が上がりそうな熱気にあふれた。


 あのデータは既に波動として新しい惑星シェイリアに溶けたし、どこかの空間にあるコピー惑星は残るといってもごくわずかになってしまうので、住んでいるドラゴンや竜人の多くは引越しが必要になっていた。

 そのため竜人や、新しく竜人になったドラゴンたちの一部は地球にも移ってくることになった。社員寮やその周りで暮らす事になり、一気に人口が増えたし、社員みんなで人間社会について教えていかなくてはならないと、誘い合って食事や飲みに行く姿が増えた。俺もユイとは違う穏やかそうな女性の竜人に食事に誘われて、


「人間の、男女は、いきなり、食事しあったり、しないので、その、二人きりじゃなくて、何人かで行きませんか?」


裏返った声で言い訳した結果違う方向に勘違いが進み、人間十人竜人八人という大所帯かつ、俺ともう一人のおごりで焼肉を食いにいくことになってしまった。


 いくら俺が無駄遣いしていないからって、そんな大勢のぶんの金簡単に出るわけないだろ! とぶっちゃけるわけにも行かない。

 この一件で、那珂川さんは優しくて懐がでかい、というイメージが彼らに構築されてしまった。まあ、新しい友人が出来るのは楽しいことだし、村上の件で共通の友人に会いづらい俺には新しい友人を増やすためのいい機会なのかもしれない。




 四月のある木曜日、A.F.O.は無事に発売された。新しい会社の新しい作品ということで様子見が多いのは予想済みだったが、同じ日に発売になった据え置き機ゲームの中では上から三分の二くらいの順位につけ、VRの順位の中では上位につけた。


 中堅どころ会社のちょっと変わったVRゲームの売り上げを抜いたというのでゲーム雑誌の何人かのライターが注目作としてわざわざ追加で取材に来た。あとで校正用の原稿のコピーを貰った。俺は運営チームの牽引役という書かれ方をしていて恥ずかしいかった。

 確かにもう後輩が何人も居て、先輩や他の部署との橋渡しもしてきたのだから間違いない、と同僚達には言われた。


 大型連休に入る前のある日、俺は重要な『仕事』を任されていた。シェールがメッセージを残した端末を持って、ミミやユウキやエリーなど、知り合いだったキャラクターのプレイヤーが通う大学や会社、施設などへ向かった。俺宛のメッセージもあった。

 引越しも完了してコピー惑星も役目を終えて波動としてリサイクルされたり廃棄されたりと様々な処理を終えた。新しい惑星シェイリアは、地球から遠く離れた宇宙に送り出され、次に逢える日が来るのか、誰にも分からない。もちろん、シェールにも竜人にもドラゴンにも、あの波動生物まんじゅうどもにも分からない。




 今の俺の仕事は、A.F.O.のゲームマスター(GM)として、プレイヤーへの助言や援助、ゲームのバグの調査などのために世界を回ることだ。GMは俺を含めて三十二人。新入社員を教育して百二十八人に増やす予定で、俺も『新入社員を育てる』みたいなビジネス書を買って読まされている。


 なんといっても、世界が広いし、クエストや乗り物を考えなければ初めからほぼ全ての場所へいける。


 会社での上下関係は気にしてない人が多く、俺も教えられる気がしないので、そういうのはみんな一部の先輩方に丸投げしている。代わりに、GMとしての仕事や、プレイヤースキルなどは俺の部署のこの三十二人に任されている。まずは三十一人が俺と同程度に教えられるGMにならなくてはいけない。


 A.F.O.の世界観は王道だ。世界を造った神のうちの一人が闇に堕ち、魔物を束ねる魔王となった。プレイヤーは冒険者として、魔王を討伐する勇者となったり、勇者を支えたり、行かずに町や国を守ったりする。GMは冒険者として先輩で先代の勇者やその仲間達という扱いになる。


 初めから世界が広い、とさっき言ったが、低レベルからレベル上限まで、パーティフルメンバーや複数パーティ用からペア用まで、様々なダンジョンやフィールドが待ち構えている。


 GM装備のおかげでダメージを受けないしキャラロストもしないけど、テストやバグ調査で行くときにはプレイヤーと同じように自ら踏破するので少し面倒くさい。

 GM用の移動魔法コマンドはあるが、バグ調査やバグによってプレイヤーに何かあるときは使えないから、普段から、そうリアルでも、歩いておくことが必要だ。

 三十二人のうち半数が運動嫌いや運動しない人なので、初めから歩かせるのはやめその代わりにと乗鳥や馬や牛やら魔道二輪やらに乗せている。まだまだ危なっかしい。今日から一週間、しっかり慣れてもらわなくちゃな。




 俺が乗鳥の上で笛を吹くと、八人が乗り物ごとに別れて整列した。腕に研修中という腕章を巻いている。百二十八人にはまだ遠いけど、なんとか仕事は回っている。


「じゃあ、行こうか」


 俺の合図に合わせて、三人のGMが担当する二人を進ませる。

 馬や乗鳥から落ちる人。言う事を聞かせられずに動けない人。魔道二輪の片方は、乗っている人が自転車しか乗った事がないとかで、バランスを少し崩すだけであっというまに倒れた。一時間ほど経っても全員そろって移動できそうにない。


 結局俺が八人を連れて、冒険者用の馬車を借りに行った。載せてから軽く説明し、元の場所まで俺が馬を操って合流。俺以外の三人を先に行かせ、俺の乗鳥『るーつ』に追いかけさせる。俺はるーつを追いかけるのだ。


「いいか、サポートが三件入っているから、移動を優先しただけだからな。

 さっさと片付けて、練習再開だぞ!」


 ゆるすぎといわれているのでちょっと先輩ぽさというか厳しさを目指しているが、やっぱり馴染まないや。目標はリアル今月中に五十人突破。果たしてどうなることやら。

最終回です。番外(人物紹介後編)とエピローグも一緒に投下します。

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