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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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80話 砂漠を抜けたり 森を抜けたり

 見渡す限りの砂漠を歩くと少し進んだだけで靴の中が砂だらけになった。ブーツのように長い足袋状の履物や砂が入らないようにするための小物が町で売っていたのに、油断して買わなかった俺が悪い。

 点在するオアシスは大きなものがいくつか地図に書かれているが、他は移動する事や増減の激しさから省略されている。


 最低限の宿泊で一番でかいオアシスまで行って、現地でゆっくり七日間滞在した。


 オアシス頼みの集落には、水の使用に関する細かくて厳格なルールがあった。立場によって、使用目的によって、どれだけ汲んでいいか量が決められているし、並んでいるときの順番や、汲んでいい時間帯も決まっている。

 旅人は、朝昼晩に設定されたわずかな時間だけ、水を汲む事が出来る。それ以外は、例えば泊まっている宿や食堂などで買う事になる。


 小さい頃に読んだ科学絵本を思い出しながら砂漠に穴を掘って雨水をためようと試みたが上手く出来なかった。

 察したほかの旅人やフェーニアが手伝ってくれたが少ししか溜まらなかったり、別の日には周りで子供たちが遊んで仕掛けが壊れたりしたからだ。ちなみに、こういう仕掛けや雨水を溜める方法には決まりは適応されないので、上手く溜められればかなりの節約になったはずだったのになあ。


 砂漠の切れ目にある町で、るーの砂漠装備を付けかえ、俺たちも砂漠の民のローブを脱いで売り払った。砂が入らない工夫はすごいし、ちょっとした雨ならしみてこないが、地厚くて重い。わざわざ持ち歩くより、次に砂漠に入るときに調達しなおしたほうがいい。


 他にも色々なものを売買して荷物を整頓し、地図を見ながら計画を立て、東方の国々を回った。

 都市国家ごとに身体チェックをされるのは分かってたし気にならなくなっていったんだけど、国によってやたら雑だったり逆にひたすら荷物の中身をひとつひとつ台の上に取り出して確認するとか、一枚ずつ服を脱ぐとかして、事細かに記録をとられる国が、数カ国にひとつはあったのはたまらなく疲れた。


 多くの国は、日本の田舎の家みたいな平屋の広い敷地に一族でまとまって暮らしている。母屋の周りにわざとあけてあるスペースがあって、母屋の建て直しや、結婚した夫婦の家に使われる。


 一族で固まって暮らすのが常識で、一人で暮らすための家はごく一部の都会にしかない。アパートのように沢山の部屋がある家と、小さな家が固まって建っているのがある。

 前者は当番制で、台所やトイレなどの共同部分の掃除などをやらなくてはいけない。後者はそういうのが無いが退去時に私物が残っているとか汚れや破損など、高額の違約金を課せられる事が多い。あくまで一時的な住まいで、仕事や学業の区切りで必ず故郷に帰る。


 シュエに近い国で、世話になった家の結婚式に出席した。

 その近辺では、旅人だろうが通りすがりだろうが、遠慮なく呼び込んで食事や酒を振舞う。参加した人は必ず、モノやお金やサービスどれでもいいのでお返しをする。俺は包丁やナイフを研いだ。ゲームの技能からは程遠いが、なかなかうまく研げていると褒めてもらった。フェーニアは、家主が持っていたなめし革を縫って入れ物を作ったり靴の修繕をやった。

 他には、近所の人らしきおっさんが畑の野菜を大量に持ち込んだおかげで食事が豪華になったり、通りかかった亜人が職人で、俺が直せなかった欠けナイフを刃も柄もしっかりとしたものに変えてもはや別物にしていた。


 季節的に危ないという理由で北上してムィルースィに入るのは諦めた。そのまま南下して東南の港から定期便で大陸の南側にあるエルフの港町のひとつに渡った。

 西側の町と違い、標準種の東方系の人々とエルフと猫の獣人ばかりだった。波動生物もエルフの町にしては少ない。貿易が盛んで、商売っけなしに適当に買ったものなんか売れるはずもなかったので、当てが外れたものやもらい物など、要らないものは安かろうと適当に売り払った。


 地図を買い森の中の集落を転々としながらゆっくりと、内陸奥深くへ進み、ゲームだとあのマザーコンピューターがあった場所の近くへ行ってみた。古いエルフの文明の遺跡があるにはあったが、崩れた部分が少しあった以外、中へ入れそうになかった。


 古い文明のことはフェーニアに聞いた。何千年も昔のことだから、エルフでさえ長老格でも後の時代の生まれだ。俺たちが吉野ヶ里や登呂遺跡についてパンフレット片手に語る程度の内容しか覚えていないようだった。


 ついでにもっと南下して森林地帯を抜けようとしたが、木が少し薄くなってきたあたりで日焼けて猫背で槍を持った人が三人くらい追いまわしてきた。時折合図のように叫ぶので、おそらく仲間がもっといる。

 俺たちは少し無理させて乗鳥を走らせて北へ戻り、ゆっくりと休ませてやり、餌も持ってる中で一番いい奴を存分に食わせながらエルフの集落にたどり着いた。


 南はやめて、西へ抜けようと決め、他に用事がある人々と隊列を組むことになった。話し合って準備を整え、保存食料や携帯食料(ビスケット的な奴)を買い込んだ。そのときに俺は内緒で個人的な買い物をいくつかした。




 無事に目的の集落へたどり着いた後も、そのあたりに留まって何日か過ごした。


 明日を最後の日にしようと決めた夕方、フェーニアととりとめもなく語り合った。夜中まで飲み食いしながら散々話をして、話を聞いて、眠くなってきたところで唐突にフェーニアはお礼を言った。


「ありがとう。」


 何の事だよと聞き返すと、


「僕や僕の世界が、君にとって、ほんものであることに。」


フェーニアは普段見せるようにふわっと笑った。俺は有り金をつぎ込んで買った、古い文明のカメラみたいなものを取り出して、俺とるーとフェーニアで写真を撮った。


「こっちこそ、ありがとう。全部かどうか分からないけど、めんどくさい事を分かった上で、それでも友達でいてくれてさ。」




 一時間くらい乾かして出来上がったポラロイドみたいな写真だけを、俺は元の『現実』に持ち帰った。

次回とエピローグを日曜日に投下します。あと少しお付き合いいただければさいわいです。

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