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転明記 VRMMOってどこでもこうなの?  作者: 朝宮ひとみ
9章 惑星を創る 世界を造る
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73話 もしも約束を覚えていられたなら

 向かった先には、そこだけ明らかに人為的に同じ木々を植えたと思われる整った森があった。他の木も生えているが、数が少ないし、植えられている木々のように大きさが整っている様子はない。植物に詳しいルキア王妃が言うには、元々あった森の木を切ったあとで何年かおきに植林したものだろうということだった。


 その森の中ほどに、同じような木々に覆われた丘があった。丘の一部に谷のような亀裂があって、通路のように見えた。亀裂を辿ると、青サビだらけで、鎖が何重もかけられた扉があった。


「なるほど。」


 シェールが言った。


「わかんないの?前にあんたも来た事がある場所よー?」


 連れてきた王の側近と王妃が、鎖についている錠を開けていくと、そのまま先頭に立って、扉をゆっくりと押しあけた。


「ほう、このようになるとは。」


 ユイが周りを見回しているのを見て、ようやく俺は、どこなのか思い出した。前回来た、彼女があのリーダーに頼まれて作った、魔法の器だ。

 通路を進んでいくとざわざわと声がする。しかも、結構うるさい。


「なんだこれ!!」


 俺は声が裏返った。恥ずかしい。何重にもなった扉の奥に、大勢の人?がいた。様々な服装をしたおっさんやおじいさん、青年や少年がいくつものグループに分かれて集まり、がやがやと話している。


「やぁ、久しぶりだね。また会えるとは思っていなかったよ。」


 あのリーダー……初代国王が平然と俺たちに話しかけたせいで、俺たちに対する現王の側近のまなざしが急に輝きだした。俺はその場から逃げ出したくなった。




 初代国王と別れ、人ごみに酔ったからと手前の部屋に逃げ出そうとした俺は、マルシエ王妃とフェーニアに腕をがっちりつかまれて、しょんぼりと他の王妃やユイを追った。人ごみは、歴代の国王と王妃、選ばれた側近だという。


「探しモノかい?」


 初代国王は気さくに合流してくる。ユイが、先代の王と王妃を捜していると言うと、あっさり見つけてくれた。


「なんだおまえらは」


 先代国王は、王妃たちと王子を見て嫌そうな顔をした。国王とは思えない、その辺にいるおっさんが近所のガキをウザそうに見る目と口調だった。上から目線というか圧力は感じたが、他の王たちから感じるような威厳は感じなかった。


「あー、あいつの子のことか。チッ、さっさと『こっち』に来ちまえってんだ。」


 カレン王妃が敵意むき出してマジ切れ五秒前なんだが無視する。側室達が全力で抑えてるしたぶん大丈夫。はい、大丈夫だ。


 代わりにユイが国王の魔法について話した。止めるために、力あるいは知恵を貸してほしいと頼みこみ、跪いた。先代は黙っている。初代国王は協力してくれるという。ただ、自分達が協力できてもできなくても、ミューセリア王本人を連れてくる必要がある、と初代は言った。そして、突然誰かが俺に飛びついた。


「あの子は、あんなに上手に魔法を編めるのね。とても、素敵!」


 見た目は二十代くらいか。一番年下の側室より若く見えるからアラフォーという事はないな。微妙に透けているので埋葬された王妃の幽霊、ということになるだろう。

 幽霊、でいいのかな……普通に触られているんだけど、俺。あの、胸を腕や背中に当てて何かを試そうとしないでください。間違いなく配偶者に見られてると思います。怖いです。さっき威厳は無いっていったけど圧力は伝わってきています。


「別にいいの、そんなの。ね、君見ない顔だけど、あの子の新しい側近くんかしら?」


 その幽霊は、写真のミューセリア王にそっくりだった。碧眼特有の、紫系の長い髪と白い肌とエメラルド色の瞳。俺は幽霊王妃と目が合うと、ちょっとどきっとした。幽霊王妃は俺が反応しないでいるとシェールやユイやフェーニアにも飛びついて色々質問していた。

 それから、ある一点をじっと見て、そっちへ向かって駆けていき、一人の男性を引っ張ってきた。そして、ぎゅうっと抱きついて腕を肩や腰に回し、先代に向かって可愛らしくあっかんぺー。なんだこの……なんだろう。


「お客さんは知らないと思うから、紹介するわね。わたくしは、現国王ミューセリアの母アリシアと申します。このひとはミューセリアの父で、最近は王の側近を束ねる長を務めていたの。」


「……」


 見ると男性も透けてる。一生懸命幽霊王妃を振りほどいて、頭を下げた。王妃の何人かが宰相と呼びかけている。日焼けた赤黒い肌に赤い瞳。白髪まじりの銀髪というか、銀髪まじりの白髪はこれまた長くて、根元と先のほうを細かく結ってある。その結われた髪を、先代国王が左手でつかんで引っ張った。右手は胸倉をつかんでいる。


「てめえとあいつの尻拭いなんざァ、てめえとあいつだけで十分だ。ついでに波動を使い果たして消えちまえェ。」


 そのまま殴りかかる先代。避けもせず殴られる宰相。先代につかみかかる幽霊王妃。現王子は目が点になってしまっている。現王妃カレンが三人の頬をはりたおし、初代や先々代など五人くらいずつで引き剥がした。やっぱり触れるのかここの幽霊。




 ミューセリア王に痛み止めを多めに飲ませて眠っている間に拉致するという計画を練る王妃達とユイとシェールをよそ目に、俺とフェーニアは七代前だという王に、この丘の使い方を教えてもらった。


・『王墓の丘』は、いつから呼ばれているか分からない。初代から順番に聞いてみようとか言うなよ?


・未来、国が滅びようとするときに王達がよみがえり、当代の王の兵として戦うという伝承が王宮中心に残されている。


・代々の王は、基本的に即位の直後によみがえりの魔法を継承するための儀式を行う。儀式には、王と指名した側近が参加する。王妃も参加してもよい。また、王子が居る場合には即位の前に王子たちに儀式を行うこともできる。その場合、必ず即位後に別の儀式をして他の兄弟たちの継承を取り消さなくてはならない。


・継承した者が死んだ場合、共に儀式に参加したものか生きている継承者が必ず、葬儀の際に手順を踏んでこの丘に埋葬することで、未来の兵に加わる。


・王に近いごく少数のみが儀式の存在ややり方を知っている。


・よみがえりの手順を踏んでいない間でも、王墓内であれば幽霊として、供え物を食べたり、来訪者と歓談するなど結構自由に振舞える。


・一定の手順で魔法を唱えることで、その時点までに埋葬されている全ての者が、一時的にではあるが、ほぼ生きた人間と同じように振舞う事が出来る。期間は呼び出された内容による。最長一週間。




 話が済んで、俺やフェーニアが別の王に話しかけられて困っている間に、拉致計画はなぜかすぐに実行される事になった。ミューセリア王は、ユイの奥の手であっさり連れて来られた。周りは歴代の王に取り囲まれていて、彼の目が覚めても、そのまま気絶しそうな気がしないでもない。




 目を覚ましたミューセリア王に、あの幽霊王妃が飛びついた。いい加減にしてください。しかも、王のほうも初めは驚いていたが、幽霊王妃の顔をじっと見た後は、まんざらではないという雰囲気で、初恋の高校生かというように照れ顔になっている。


「母上……」

「ああ、ほんとにあの子なのね……」


 そこに先代が宰相を引きずって乱入。ラブラブムードぶち壊してくださって本当に有難う御座います陛下。


「てめえ、なにしやがってんだ。さすが奴とあいつの息子だな。ほんと人に迷惑ばっかりかけやがって。国の存続のために死ねよ面倒くさい。」


 あああ、何言ってるんですかーーーー煽ってどうするんだよ!さすが脳筋王(他の王いわく)。ほらミューセリア王の目がマジになっていくじゃないですか嫌だーーーー!!


「私は、知らなかったとはいえ父上と母上の子だ。だからこそ貴方の広げた戦乱を収め、国内の問題を解決することを自らの使命であると考え、行動してきた。

 腐敗した議員の賄賂で武器の買い付け先を選び、おぞましい新型爆弾で大地を広く死に至らしめ、母の心を折った貴方こそ、大地の再生の為の礎としてその波動の全てを大地にささげようではありませんか。」


 ニュースかなんかで見た新興宗教の指導者みたいな、腕を大きく広げた謎ポーズで迎え撃つ(?)ミューセリア王。目線とか焦点がおかしいよ。逃げたいけど耐え、背後から歩み出る王子に道を開ける。


「父上、私は母上様たちとともに、ここで父上の最近の様子を、全て、話しました。」


 王の目の焦点が定まってきた。王子と目が合ったようだ。王子はぎゅっとこぶしを握る。


「父上が、恐ろしい魔法を使うのであれば、私はこの丘の、過去の偉大なる王たちを連れて、あなたの前に立ちふさがるでしょう。

 私は、そんなことは、もちろん、あってはならない事だと思います。」


 頑張れ王子。王の動きが止まったぞもう少しだ。


「もし、その時が来てしまったら、私は、父上を討たねばなりません。

 ……父上は、母上と共に、私達に限りない愛情を注いでくださいました。

 国内に在るときには、私達に何かあれば必ず駆けつけてくださいました。でも、もし私があなたを討てば、幼いきょうだいたちは、まだ必要な沢山の愛を、受け取る事ができずに、父上を、忘れていってしまうでしょう。父上、あなたが、ずっと、忘れてしまっていたように。」


 王は王子の前で膝を折り、王子の顔に触れた。


「私は、王としては未熟で、無謀で、どうしようもない。

 体は御伽噺の怪物のようにつぎはぎで、もはや一日の半分を眠って過ごすしかない。なおさら、責務を果たすことはできていないだろう。

 父親としても、ほんの短い間しか、お前達のそばにいてやる事が出来なかった。まして、幼いきょうだいたちは、生まれるときにそばに居てやることすら、できなかった。」


 そのまま王に揺さぶられて、王子が戸惑い小さな声を上げた。


「妻達が私を愛してくれているのは分かる。お前達が父として敬愛してくれるのも感じる。

 だからこそ、妻やお前達を苦しめる議員たちや、軽視する他国の者たちが憎い。何より、そうさせる原因を作った、私自身を憎まずにはいられない。」


 進行する病もあって、王は深く悩んだだろう。このままいくつも課題を残したまま自分が死ねば、その課題を全て息子に押し付けてしまうことになると彼は考えた。当然、一代二代で片付くものではない問題も含まれているが、王は全部自分である程度片付ける気でいたから、片付かなくて当然という発想ができなかったんだな。


「……悩んでいたとき、母上の遺した古い本を見つけた。

 かつて別の世界から神が落ちてこの世界の神と人を苦しめた。落ちた神は互いに苦しみを減らすために、自らを信仰した者に力を分け与えたという。そして、去り際に、人と交わって子を残した。その一人を自らの代わりに信仰し、残りは神官として信仰を守り伝えよと。」


 前に行った森の奥の集落のことだとユイが教えてくれた。ほとんどの碧眼の民は、この星の人と宇宙人の混血ということか。


 王が儀礼用の長い手袋を外して袖をまくると、手の甲に紋章のような傷があって、傷の一部がひじより先まで伸びていた。時々、赤黒く光ってる。脈打ってる。


「私は何をすべきか神に問うた。

 邪魔なものは全て消してやり直せばいいと、神はお答えになった。」


 よく、家族や仕事で悩んで宗教にはまる話は見聞きするがまさか一国の王がそれをやるのか。地球上なら魔法も奇跡もないし、某国がこっそり暗殺しそうだ。

 そこまで思いつめる前に王妃達にでも相談しろよ。とか思う事は色々あるが、今じゃなくても言える気がしない。


 と、先代が俺や他の人を突き飛ばしながらミューセリア王に近づいていって、王子から引き剥がした。さらに、そのまま突き飛ばされた王の胸倉をつかんで、ぶん殴った。止めに入ろうとした宰相もついでにぶん殴られた。


「さすがは奴の息子だ。ぐだぐだうるさいんだよ。てめえが思ってるだけじゃねえか。実際どうなのか確かめたのか?あ”あ”?」


「そうやって腕力や武力に頼る貴方は悩む事もないんだろうな!

 どうせ民の事も家族の事も、頭の中から抜けていたんだろう!?」


 そのまま、俺や他の人が言いたかったであろう事を、殴り殴られながら言い返す先代。脳筋は否定しないがちょっと好感度アップしたわこれ。

 このままやらせておこうという空気を感じる。当人と初代以外の王たちは完全に無視して散開している。これが王に必要な動じない器というものか。いや違うだろうな。




 それはともかく、散々罵倒と殴り合いをした三人は、そのまま地面に倒れ付した。王子や王妃達が駆けつけて抱き起こすと、宰相だけ目が死んでいて、二人の王は小刻みに肩を震わせて笑っていた。


「おまえらの考えが分かって、ちょっと嬉しいな!」


 先代が豪快に歯を見せてにんまりしている。支えられたままばしばしと叩かれた宰相が咳き込んでいて少しかわいそうだ。


 王は体を起こすと、服の下に隠し持っていた魔道書を取り出した。


「これは、あってはならないものだということは知っていた。

 本音を伝え合った以上、私もこれをとっておこうとは思わない。」


 恐ろしい魔法は俺やフェーニアを含めたこの場にいる全員の力で、魔道書に注がれた。魔道書は焼かれるように散り散りになって舞い上がり、溶けるように消えていった。





 予定外の出来事のために力を使った俺たちは、翌日改めて波動を集める事にした。初代が仕切ってくれたおかげで口げんかすら起こらなかった。

 標準種がほとんどだけど、碧眼もミューセリア王以外に十人くらいいた。あの宰相を始め、側近や王妃には合わせて五人だけど赤眼の民もいる。何百人の波動は、もやのように俺たちを取り囲んでいるような、そんな気がした。

たった一人でも、愚痴はスルー気味で十分なので、聞いてくれる人がいると世界が違って見えますね。たまに発散したほうがいいです。一度に発散できる量が決まっているような気がします。

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